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竜族の女剣士が仲間達と旅をしているようです  作者: ししゃも
鉄【クロガネ】の街の少年編
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第37話:カウンターブレイド

「まだだ! そんなことでは避けられんぞ!」

「ぐっ……くっそおおお!」


 リリィは剣撃をブレイブに加え、ブレイブはそれを体で受けながら悔しそうに叫ぶ。

 結局リリィはブレイブを指導する事となり、今日も二人はブレイブの家の前で剣の修行にはげんでいる。

 ただしブレイブから修行開始前に、ある条件が出された。

 それは、“自分には防御と回避方法だけ教えて欲しい”という一風変わったもの。

 リリィが理由を尋ねると、“この武器はそもそも専守防衛のための武器なんだ”と、家にあった武器について説明をしてくれた。

ブレイブは少し寂しそうに、「これは俺の馬鹿親父が死ぬ前に残した武器なんだ」と、小さな声でもらす。

 ブレイブ曰く、その武器は“カウンターブレイド”という名称らしく、突撃槍の部分の中にはカウンターストーンというこの辺りでしか取れない特殊な鉱石が組み込まれているらしい。

 このカウンターストーンという鉱石にはその名の通り“相手から受けたダメージをそのまま相手に返す”という作用があり、その作用から、実は切り出すことが非常に困難な鉱石なのである。

 しかしながら、熟練の職人が手間と膨大な時間をかけることで、その石を指先大にまで削り取ることができる。

 ブレイブの父親はそれを行い、カウンターストーンの欠片を“剣の柄と突撃槍の切っ先を合わせた武器”に組み込み、カウンターブレイドが誕生した。

 それによりカウンターブレイドには、二つの能力が備わることとなる。

 一つはカウンターストーンの特製通り、相手の攻撃ダメージをそのまま相手に返す効果。

 そしてもう一つは……“カウンターブレイドで受けたダメージを蓄積し、それをまとめて相手に返す”という攻撃特化の効果。

 ブレイブはこの二つ目の能力を活用し、カーティスとの決闘に勝利するつもりでいた。

 そのためブレイブには、どんな攻撃でもカウンターブレイドで受けるか、もしくはステップや屈み等を使って相手の攻撃を回避できる能力がどうしても必要だったのだ。

 そうしたいきさつを聞いたリリィは納得し、二人は修行を開始した。

そして現在のように、リリィからの剣撃をひたすら防御、または回避するという、ブレイブにとっては地獄の日々が始まった。


「ダメだ! また反応が遅れているぞ!」

「ぐっ!? くそおおお!」


 リリィは鍛錬用の木刀をブレイブのわき腹に叩き込み、声を荒げる。

 ブレイブはその痛みに顔をしかめながら、それでも懸命にリリィに向かっていく。

 しかしここで、アスカの甲高い声が割って入った。


「はいスタァァァァップ! 二人とももう二時間以上打ち合ってるよ!? そろそろ休憩タイムだべ!?」


 アスカは二人の間に割って入り、両手を二人に向かって突き出した。

 リリィは眼前に迫ったアスカの手に反応し、その動きを止める。


「その語尾はなんだ語尾は……まあいい。確かに少し、休憩すべきかもな」

「はあっはあっはあっ……」


 ブレイブは膝に手をつき、荒い呼吸を繰り返す。

 その額からは大粒の汗が流れ落ち、ブレイブの体力的、精神的疲労を物語っていた。

 リリィは持っていた木刀を家の壁に立てかけると、そのまま手甲を外し、明るい声でブレイブへと声をかけた。


「さて、そろそろ昼食だな。今日も私が作るとしよう」


 ブレイブの修行開始以降、食事は何故かリリィが作っていた。

 料理の材料は定期的に様子を見に来るサラが持ってきてくれるので問題ないのだが、アニキがやたらと食べるためすぐに材料不足になってしまう。

 最近ではそんなアニキに少しは働くよう促したところ、街を定期的に襲ってくるベア型モンスター“ビッグベア”を狩りに行くようになった。

そしてリースは、サラと一緒に食料の買出しを担当している。

「さて、今日はどんな料理を作ろうか」と考えながら家に入ろうとするリリィの耳に、弾んだ声が届いた。


「あ、リリィさーん! ただいまー!」


 高い声に振り返ると、買い物袋を抱えた状態のリースが、リリィへと言葉をなげていた。


「ん、リース達が戻ったようだな。相変わらずタイミングが良い」


 リースとサラの二人が、遠くからブレイブの家へと歩いてくる。

 なおアニキは狩りが休みのようで、ブレイブの家で寝転がっていた。

 やがてブレイブは剣を杖にして立ち上がると、リリィを睨みつけながら言葉を吐き出した。


「くっそ……今日も食らっちまった……」

「はははっ。そうそう対応できるものでもないさ。まあともかく、今は腹ごしらえだ」


 大きく笑うリリィにブレイブは舌打ちをしながら、悔しそうに俯く。

 ここ数日ずっと見続けているその姿に、少しくらいは素直になってほしいと考え、リリィは苦笑いを浮かべた。


「まあまあ、しょげるな少年! 今日はこのアスカ姉さんが料理を作ってあげよふ!」

「いや、俺まだ死にたくねえから」


 ブレイブは体を起こし、ぶんぶんと手を横に振りながら返事を返した。


「それどういう意味!? ねえそれどういう意味!?」


 アスカは両手をブレイブの肩に乗せ、ガクガクと前後に揺さぶる。

 ブレイブは抵抗する力も無いのか、されるがままにガクガクと揺られていた。

 それを見かねたリリィはアスカをブレイブから引き剥がし、言葉を紡いだ。


「ま、まあまあ。では二人で作ろう。な? アスカ」

「ぶ~。まあいいっスけどぉ。なんか釈然としないなぁ」


 その後もぶーぶー言うアスカと共に、料理を作り始めるリリィ。

 なお、アスカの料理の腕はブレイブの予想通りで、結局カレンとリリィの二人で料理をすることになったのは言うまでも無い。






「「「「「「ごちそうさまでした!」」」」」」


 ブレイブとサラを含めた一行は同じ円卓を囲み、一斉に両手を合わせる。

 リリィとカレンの料理……特にカレンの料理は絶品で、皆絶賛しながら全て平らげてしまった。

リリィはその味を気に入ったようで、レシピを是非教えて欲しいと恥ずかしがるカレンに迫っていた。

 そして食後のお茶を楽しんでいる時、不意にリリィがブレイブへと質問した。


「ブレイブ……そろそろ、教えてくれないか? この決闘に賭けているのは、サラの結婚だけではないのだろう?」


 リリィは飲んでいたお茶のカップを置くと、ブレイブを真っ直ぐに見つめながら質問する。


「…………」


 ブレイブは核心を突かれたのか、お茶を飲んでいた手を止め、何かを考えるようにカップの水面を見つめる。

 リリィがさらに言葉を続けようとした瞬間、ブレイブはゆっくりと語り始めた。


「夢の証明……だよ。親父はこのカウンターブレイドを街のみんなの分作って、毎月のように襲ってくるビッグベアの脅威から街を守ろうとしてた。でもその夢を、カーティスの親父に潰されたんだ」

「潰されたとは、穏やかでないな。一体何があったんだ?」


 ブレイブは悔しそうに右手を握り締め、そんなブレイブに、リリィはできるだけ優しい声で続きを促す。

 そんなリリィの言葉に応え、ブレイブはさらに言葉を続けた。


「昔……親父は山の散歩中に、楯状に削られたカウンターストーンを見つけた。なんでも自然が何百年もかけて作った奇跡の一品だとか、見つけた時は随分興奮してたっけな」


 ブレイブはその当時の情景を思い出しているのか、少し笑いながら言葉を紡ぐ。

 歳相応のブレイブの笑顔に、リリィは少し微笑んだ。


「そんな時、カーティスの親父がうちに飛び込んできた。“私の息子が病気で、まとまった金が必要だ。頼むからそのカウンターストーンを譲って欲しい”ってさ。親父の奴親身になって話を聞きやがって、結局タダでそのカウンターストーンを譲っちまったんだ」


 腕を組み、苦虫を噛み潰したような表情で言葉を紡ぐブレイブ。

 彼にとってそれは、忌むべき記憶なのだろう。

 リリィはそんなブレイブと同じように眉をしかめ、やがて口を開いた。


「カーティスの父親の話……嘘だったのだな?」

「ああ。息子は病気なんかじゃなく、ピンピンしてやがった。結局そのカウンターストーンを持っている事で領主に成り上がったカーティスの親父は、今も街の領主をやってる。そしてカーティスは晴れて、領主様の息子ってわけだ」


 ブレイブはギリ……と歯を食いしばり、悔しそうに言葉を紡ぐ。

 リリィは辛そうなブレイブに、これ以上はもういいと伝えようか迷っていたが、ブレイブはそんなリリィの心情とは裏腹に続きを口にした。


「それからさ、親父がこのカウンターブレイドの開発にのめりこむようになったのは。生活も何もかもそっちのけで、母さんは出て行っちまうし、街のみんなからは変人扱い。挙句の果てに流行り病で、あっさり死んじまった」


 瞳の奥に悲しみを灯らせ、言葉を続けるブレイブ。

 リリィ達はブレイブの話に、真剣な表情で聞き入っていた。


「だから、俺は……証明したい。散々馬鹿にしてきた街の連中に。カーティスの親父に。カウンターブレイドはこの街の希望なんだってことを、証明したいんだ」

「そう、か……そんな理由があったんだな」


 リリィはブレイブの話を聞き終わると、ようやく納得がいった様子で息を落とす。

 ブレイブはそんなリリィの様子を見ると、立ち上がりながら言葉を返した。


「さあ、話はこんなもんでいいだろう。午後の修行を始めようぜ」

「ああ……そうだな。わかった」


 リリィはブレイブの声に応え、決意を胸にその背中を追いかける。

 そんな中、パーティの一人から、まさかの一言が紡がれた。


「うーん……むにゃむにゃ。もう食べられないよぉ……」

「アスカさーん!? いつから寝てたの!? ありえないでしょ!」


 リースは信じられないものを見るような目でアスカを見ると、そのままアスカの肩を掴み、がくがくと前後に揺さぶる。

 アスカはそんなリースの働きに応えて目を覚ますと、「んにゃ? ああリースちゃん。グッドモーニング」と、寝ぼけ眼で返事を返した。


「ええええ……アスカさん。一体いつから寝てたの?」

「最初からだよん♪」

「ファンタジスタすぎるでしょ! なんであの空気で寝れるの!?」


 リースはガーンという効果音と共に、とんでもないことを言ったアスカへとツッコミを入れる。

 アニキはそんなアスカの様子を見て、「こりゃ大物だ」と爆笑していた。

 そしてその様子を見たサラが、小さく笑う。


「ふふっ。ご、ごめんなさい。皆さん楽しい方たちなんですね」


 リースはそんなサラの言葉に、見る見る顔を赤くした。


「あう……あ、アスカさん。僕なんか妙に恥ずかしいよぉ」

「ぐー」

「寝てるー!?」


 その後もリースはアスカの肩を前後に揺さぶり、懸命に起こそうとする。

 リースを囲んだ笑い声は楽しそうに、ブレイブの家の中で響いていた。

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