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第34話:アスカの事情

 山賊たちはアスカの強さに恐れをなして二度目の撤収を行い、平和の戻った川辺に、リリィ達が集まっている。

 そんな中リリィは難しい顔で腕を組みながら、言葉を紡いだ。


「さて、ではアスカ。改めて聞かせてもらおうか」


 川辺の大岩に背を預け、アスカへと言葉を紡ぐリリィ。

 アスカは頭に疑問符を浮かべ、返事を返した。


「んあ? 聞くって何を?」

「さっきから背後に浮いている騎士のことだ! 決まっているだろう!」

「り、リリィさん。とりあえず落ち着いて。ね?」


 声を荒げるリリィに、リースはなだめるように声をかける。

 リリィは頭を抱えながら、そんなリースに返事を返した。


「あ、ああ。すまないリース。もう自分の中の常識が崩壊して、わけがわからないんだ……」


 完全に疲れているリリィの様子に、心配そうな視線を送るリース。

 アスカはポリポリと頬を搔くと、そんなリリィの様子に物怖じすることなく説明を始めた。


「ああ、この人はね、あたしのお姉ちゃん。名前はカレンだよ」

「いや、聞きたいのはそこじゃないんだが……まあいい。順を追って事情を説明してくれ」


 人が脚も無く半透明の状態で浮遊しているなど有り得ない話だが、リリィはひとまず目の前の事実を認め、アスカへと質問する。

 アスカは「おっけー♪ じゃあ説明するねん♪」と、親指を立てた右手を突き出した。

 そんなアスカの言葉に、リースは興味深そうに身を乗り出す。


「あのね。お姉ちゃんは昔あたしの国を出て旅に出たんだけど、ある国で殺されちゃったの。で、あたしはそんなお姉ちゃんの体を再生できる“そうじゅつし”? って人を探して旅をしてるんだ」

「な、なるほど。とにかくその人……カレンは、もう亡くなっているんだな。で、何故亡くなった人物がこうして可視化されているんだ?」


 リリィはアスカの常識外の話に面食らいながらも、かろうじて続きを促す。

 そんなリリィの質問に応え、アスカは言葉を続けた。

 なおアニキは長くなっているアスカの話に飽きて退屈そうに欠伸をしながらも、アスカの言葉はきちんと聞いているようだった。


「えっとね、あたしの国には“陽術”って特殊な術があって、あたしはそれの使い手でもあるの。で、お姉ちゃんの魂を旅の途中で見つけたから、その術を使ってあたしの旅のお供をしてもらってるんだ。ちなみにこのお札が、お姉ちゃんの家だよ!」


 何故かドヤ顔をしながら、アスカは懐から一枚のお札を取り出してみせる。

 確かに、カレンの下半身はそのお札に吸い込まれているようにも見える。

 リリィがじーっとそのお札とカレンを交互に見つめていると、カレンが頬を赤く染め、アスカの影に隠れた。


「……!」

「あはは、お姉ちゃんが“そんなに見られると恥ずかしい”ってさ。リリィっちマジ見すぎ」


 アスカは頭の後ろで手を組み、楽しそうに笑う。

 その背後からはカレンが恥ずかしそうにこちらを覗き見ていた。

 どうやらアスカはカレンの言葉がわかるらしいが、他の者にはただの沈黙としか思えなかった。もっともその表情から、ある程度の感情は理解できる。

 リリィはそんなカレンに対して申し訳なさそうに頭を下げ、言葉を返した。


「あ、いや、すまない。あまりに素っ頓狂な話だったのでな……失礼した」

「…………」

「“こちらこそ失礼しました”だってさ。お姉ちゃんマジ律儀」

「妹が破天荒すぎるような気もするが……とにかくアスカは“霊体になってしまった姉を生き返らせるために旅をしている”と、そういうことか?」

「そのとーり! リリィっち大正解! 百万点ゲット!」

「何の点数だ何の……」


 びしっと指差しながら言葉をぶつけてくるアスカに対し、頭痛を感じて頭を抱えるリリィ。

 アスカはそんなリリィを見ると、再び頭の後ろで手を組んで言葉を続けた。


「まあさっきみたいにさ、お姉ちゃんはあたしがピンチの時に助けてくれるお助けウーマンってやつだから。気にしないで」

「お、お助けウーマン、か……」

「…………」


 アスカのネーミングセンスに恥ずかしそうに頬を染め、両手をもじもじさせるカレン。

 リリィは額に大粒の汗を流し、そんなアスカのネーミングを復唱する。

 次々明かされる衝撃の事実とアスカの素っ頓狂な発言に、リリィの頭はついていかなかった。

 そしてそんなリリィ達の様子に退屈したアニキが、話に割って入る。


「なあ、もういいんじゃねーの? とにかく、旅の仲間が一気に二人増えたってこったろ」

「そのとーり! アニキっち大正解! 十万点ゲット!」

「私より点数が低いんだな……」


 大分頭が混乱しているのか、リリィはどうでもいいことを気にし始める。

 アニキはそんなリリィを気にせず、耳をほじりながら言葉を続けた。


「あ、そうだ。忘れてた」


 アニキは何かを思い出したようにぽんと拳を手のひらに当てると、そのままリリィへと近づいていく。

 そしてそのまま、リリィのフードを剥ぎ取った。

 その結果、フードはリリィの背中に落ちてぶら下がり、隠れていたリリィの顔と角があらわになった。


「こいつ、一応女だから。あと竜族な。まあどうでもいいけど」

「ばっ―――!?」


 リリィは突然のアニキの暴挙に言葉が出ず、馬鹿のばの字だけを発声する。

 竜族であることは秘密にしようとしていたのに、あっさりとバラしてしまったアニキに、リリィはうまく声が出せなかった。

 リリィの素顔を見たアスカは瞳をキラキラさせ、言葉を紡ぐ。


「うおおお! リリィっち女の子だったん!? わーい! やったやった!」

「ふゃ!? ちょ、抱きつくなアスカ! というか気にするところはそこなのか!?」


 リリィは竜族の証である角をあらわにしているが、アスカは全くその辺りを気にしていない。

 アスカは満面の笑顔のまま、さらに言葉を続けた。


「そこだよぉ! 女子はあたしとお姉ちゃんだけだと思ってたから超嬉しいし!」

「ええい、抱きつきながら胸をもふもふするな! というか、カレンも止めてくれ!」

「……!」


 リリィの言葉を受けたカレンは、アスカを羽交い絞めにしてリリィから引き剥がす。

 アスカは「ああん」と声を上げながら、ずるずると後ろに引き摺られた。


「と、とにかく、私が竜族であることは絶対に秘密だ。それだけはわかってくれ」


 リリィは素早くフードを被り直すと、懇願するような瞳でアスカへと言葉を紡ぐ。

 アスカは「だいじょーぶ! あたし口は岩より堅いから!」と、無い胸をどんと叩いて見せた。

 リースはしばらくリリィ達の会話を聞いていたが、そんなアスカに対し口を開いた。


「あのぅ……それよりさっき気になったんだけど、アスカさんは創術士を探してるの?」


 リースは首を傾げながら、アスカに向かって質問する。

 アスカは膝を曲げてリースと視線の高さを合わせると、にこやかに返事を返した。


「ん? そーだよん。リースちゃん誰か創術士の人知ってるの?」

「知っているというか……僕も一応創術士だよ。まあ、まだ駆け出しなんだけどね」


 リースはえへへと笑いながら、ポリポリと頬を搔く。

 アスカは驚きに目を丸くし、そんなリースの肩を掴んだ。


「majide!? リースちゃん、お姉ちゃんの体作れる!?」


 アスカは鼻息を荒くしながらリースへと言葉をぶつけたが、リースは申し訳なさそうに俯くと、そのまま返事を返した。


「うーん……ごめんなさい。今の僕の実力じゃ難しいかな。それに人体練成には“ロード”っていう、超レアアイテムが必要なんだ」


 リースは鞄の中から一冊の本を取り出すと、ぺらぺらとそれをめくりながら、アスカへと言葉を紡ぐ。

 アスカは珍しく真剣な表情で、そんなリースの言葉を受けた。


「そっか……じゃああたしの旅の目的は、まずその“ロード”ってアイテムを探すところからかなぁ」


 アスカは腕を組んで考えながら、リースへと言葉を返す。

 リースは「うん。まずはそこからだと思うよ」と、笑顔で返事を返した。


「しかし……体を作れたとして、どうやって魂をその中に入れるんだ? 先ほど言っていた“陽術”を使うのか?」

「そのとーり! リリィっち五百万点!」

「それはもういい!」


 リリィは頭痛を感じながら、いつまでもふざけているアスカへとツッコミを入れる。

 アスカは「やー、ごめんごめん」と、悪びれる様子もなく返事を返した。


「あ、それでさ。みんなの旅の目的ってなんだっけ?」


 アスカは頭に疑問符を浮かべ、言葉を紡ぐ。

 その言葉を聞いたリリィは、さらに強くなる頭痛に対し、片手で頭を抱えた。


「さっき言ったろう……竜族の追手から逃げる事と、リースの母親を探すことだ」

「あ、そうそう。そうだった。リースちゃんのお母さんから逃げて、竜族の追手を探すんだ」

「団長と同じ間違いをするな! お前達は同じレベルなのか!?」

「おいこら。いくら俺でもこいつと一緒にされたら怒るぞ」


 あんまりなリリィの言い草に、眉間に皺を寄せながら言葉をぶつけるアニキ。

 確かにアニキのは冗談だったのに対し、アスカのは本気で言っているように聞こえる。

 アニキは大きくため息を落とすと、もう飽きてしまったとばかりに歩みを進めだした。


「まあ、とにかく出発しようぜ。俺ぁもう退屈で死にそうだぜ」

「アスカと出会って以降、私は欠片も退屈していないがな……まあいい。とにかく先を急ごう」


 歩き出したアニキを追いかけ、自らも歩みを進めるリリィ。

 リースとアスカはそんなリリィ達を追いかけ、アスカは右手を上げて声を上げた。


「よーし♪ じゃあしゅっぱーつ♪ どこ行くか知らないけど♪」

「はあ……不安だ。極端に不安だ……」


 リリィはいつか自分の秘密がアスカからバラされるのではないかという予感を感じながら、歩みを進める。

 そんなリリィの様子に構わず、アスカは元気な足取りでマウレア山の街道を踏みしめた。

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