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第31話:あの広すぎる空の下で、私は

「では、世話になったな、デクス。礼を言う」

「そんな。とんでもないですわ。リリィさんのおかげで貯まっていた業務も大分片付きましたし、お礼を言うのはこちらの方です」


 デクスはズレた眼鏡を指で押し上げ、微笑みながら言葉を紡ぐ。

 しかし何かを思い出したように視線を巡らせると、少しだけ表情を曇らせた。


「でも本当に、あれっぽちの報酬で良かったんですの? リリィさん達は世界図書館にとって英雄なのですから、もっと受け取って良いはずですわ」


 デクスは少し不満そうに眉をひそめ、数日前の出来事を思い出す。

 未曾有の危機から図書館を救った英雄として三人を讃え、予定していた報酬の十倍以上を払うことにしていたデクスだったが、それをリリィは、あっさりと断った。

 別棟とはいえあれだけ大きな柱が崩れ、図書館側の損害もけして軽いものではない。

 それに加え、普段からのあの激務。職員達への負担は、これまで以上に大きくなってしまうかもしれない。

 世界図書館が大変になるのは、むしろこれからなのだ。そんなところから、多額の報酬など貰えるわけがない。それが、リリィの言い分だった。


「なに、旅をするには十分過ぎる報酬だ。それより、すまないなデクス。本来ならば柱が直るまで、ここに留まるべきとは思っているのだが……」


 リリィは追われている身だ。故郷から逃げ出した同族を、竜族は決して許さない。

 たとえどこまで逃げようと、リリィに対する追っ手がいなくなることはないだろう。

 そんな逃亡の旅に、リースを連れていって良いものなのか?

 そんな当然の疑問が、リリィの胸の中に落ちる。

 いっそリースだけでもブックマーカーに残ってはどうかと、本人に言ってみたこともあったが……


『ええっ!? ぼく、絶対やだよ! 無理矢理でも着いていくからね!』


 と、鼻息荒く反対されてしまった。

 三日三晩説得を試みたものの、リースは首を縦には振らず、最後には結局、リリィが折れた。

 リリィは最後の希望を込めて、今一度リースへと視線を送るが―――


「あ、リリィさん、まだ諦めてなかったの!? ぼくは二人と一緒に旅をするって決めてるんだから、もう諦めてよね!」


 リースは満面の笑みを浮かべ、白い歯をリリィへと見せ付ける。

 リリィは眉をハの字にすると困ったように笑い、小さく息を落とした。


「わかった、わかったよ。まったくその強情さには舌を巻くな」

「えへへ、ごめんね」


 頬をかきながら笑うリースに、反省の色は見えない。

 リリィは最後にもう一度だけため息を落とすと、デクスの横にいたシリルへと視線を移した。


「ではな、シリル。一緒に本を読めて、楽しかったぞ」


 リリィは膝を折ってシリルと視線の高さを合わせ、柔らかな笑みと共に言葉を紡ぐ。

 シリルは静かに俯き、リリィの声にただ耳を傾ける。その姿はまるで、リリィの声を心の奥底に刻み込んでいるようだった。


「はい。私も、楽しかったです。何度も私に付き合ってくれて……本当にありがとうございました」


 シリルは深々と頭を下げ、お礼の言葉をリリィへと送る。

 リリィは微笑みながら頷くと、シリルの頭をそっと撫でた。


「あ―――っ」


 頭の上に重なる温かな手の感触に、思わず声を零すシリル。

 リリィはそんなシリルの様子に気付かず、やがて立ち上がった。


「あっ、あの、リリィさん!」

「ん?」


 シリルは一度口元を強く結ぶと、出来るだけはっきりとした声で言葉を紡ぐ。

 いつもの物静かなシリルとは違った声色に、リリィは一瞬、別の誰かの声かと感じていた。


「少しだけ……手を、貸してください。リリィさんの旅のご無事を、お祈りします」

「??? あ、ああ、わかった……」


 小さく両手を広げたシリルは、緊張した様子で言葉を紡ぐ。

 リリィは再び膝を折ってシリルに近づくと、その小さな両手に右手を委ねた。


「…………」


 シリルはリリィの右手を胸元に引き寄せ、熱い体温のまま、両手でリリィの手の平を包む。

 素早く波打つ鼓動の音に驚き、リリィは一瞬目を見開いた。


「……はい、おしまいです。皆さんに、風と大地の祝福がありますように」


 シリルはリリィの方へと顔を向けると、にっこりと微笑む。

 リリィは熱い体温をその手に感じながら、にこやかに返事を返した。


「ああ。ありがとう、シリル。世話になったな」


 リリィは立ち上がるとシリルの頭を撫で、まるで何かを思い出すように、目を細める。

 シリルはくすぐったそうに笑うと、今度は満面の笑みで、言葉を紡いだ。


「はいっ……本当に、ありがとうございました。私、リリィさん達のこと、一生忘れません!」


 シリルはにっこりと微笑みながら、言葉を紡ぐ。

 激しく脈打つ鼓動を感じながら、シリルはそれを胸の奥で押さえ付けた。


「……?」


 そんなシリルの様子に何かを感じたリリィだったが、それが一体何なのかまではわからず、言葉にできない。

 リリィが体を起こすと、今度はデクスが握手を求めてきた。


「本当に、ありがとうございました。リリィさん、リース君。お二人のことはずっと忘れませんわ」

「おい! てめえわざとだな!? わざとだろ!」


 リリィの横で腕を組んでいたアニキは、まるで噛みつくように言葉をぶつける。

 デクスは馬鹿にするように鼻で息を吐くと、ズレた眼鏡を指先で直した。


「あら、まだいたんですの? さっさと旅立てば良いですわ。どうせどこかで犬死にするだけでしょうけど」


 デクスはアニキを嘲笑し、胸の下で腕を組む。

 アニキは同じように腕を組むと、同じように鼻で笑いながら言葉を返した。


「へっ。相変わらずへらず口を叩きやがる。こっちは命がけで旅してんだ。そんくれえ覚悟の上だぜ」

「……っ」


 堂々と言い放ったアニキの言葉を受け、咄嗟に俯くデクス。

 口を一文字に強く結ぶと、やがて顔を上げ、言葉をぶつけた。


「ふん、どうしようもない馬鹿ですわね。可哀想だから、臨時職員の枠は空けておいてあげますわ」

「はぁ? な、なんだそりゃ」


 突然のデクスの言葉に困惑し、頭に疑問符を浮かべるアニキ。

 デクスは紅潮した顔をアニキから背けると、言葉を続けた。


「だ、だから。もしハンターをクビになるようなことになったら、うちで雇ってあげますわ。警備員とか、土木作業員とか……力仕事もないわけじゃないですもの」


 デクスはアニキと目を合わせず、腕を組んだ手で強く袖を握りながら、言葉を紡ぐ。

 アニキはその言葉を受けると、一瞬瞳の奥が揺らぎ、やがて空を見上げた。


「けっ……バーカ。この俺がクビになんてなるわけねーじゃねーか」


 アニキは空を見上げ、流れる雲を目で追いながら、言葉を落とす。

 デクスはそんなアニキを鼻で笑うと、言葉を返した。


「そういう油断が、失敗を生むんですわ。あなたのその馬鹿力だけは評価していますから、また雇ってあげてもいいと言っているんです」


 デクスは指先で眼鏡を押し上げながら、相変わらず視線は外したままで、言葉を続ける。

 アニキは両手をズボンのポケットに突っ込むと、苦々しそうな顔で返事を返した。


「へっ。でけえお世話だぜ。あれっぽちの報酬払ったくらいで雇い主面すんじゃねーっての!」

「なっ!?」


 デクスはアニキの暴言に反応し、両目を見開いてアニキの方へと視線を戻す。

 会話を聞いていたリリィは、瞬時にアニキへと言葉をぶつけた。


「貴様、話を聞いていなかったのか!? 報酬を通常と同じ金額で良いとしたのはこちらだし、だいたい貴様も納得していたではないか!」


 リリィは数日前のアニキとの会話を思い出し、指差しながら言葉をぶつける。

 確かに数日前報酬額を決めた際、アニキもそれを了承していた。


「やっぱ気が変ったんだよ。あんだけでっけえ柱ぶっ壊して、あれっぽちの報酬で満足できるわけねーだろが」

「あ、アニキさん……」


 リースは心配そうな面持ちでアニキを見上げ、リリィは眉間に皺を寄せながらアニキを睨みつける。

 沈黙を守っていたデクスは、手に持っていたファイルを開くと、中の書類を確認し始めた。


「ふん……ま、あなたの言うことも一理ありますわ。確かにわたくしも安すぎると思っていましたし……それで一体、いくら必要なんですの? 書類上の手続きもありますから、用意ができるまでしばらくかかるでしょうけど―――」


 焦る手元でファイルの中を漁るデクスの声が、途中で途切れる。

 先ほどまで太陽に照らされていた手元が、何らかの影に入ったからだ。

 そしてそれがアニキのものだと気付くのに、そう時間はかからなかった。


「なうっ……!? はゃ!?」

「…………」


 アニキは、近距離でデクスの瞳を真っ直ぐに見つめる。

 デクスは瞬時に顔を赤く染めると、あわあわと口を動かし、混乱する頭で言葉をぶつけた。


「なっなななななんっ、なんですの!? 報酬はお支払いすると……」

「別に、いい。手続きとかめんどくさそうだし、この場にあるもんもらってくぜ」

「あ、あるものって……」


 デクスは定まらない目線で目の前のアニキを見返し、ますます顔を紅潮させていく。

 アニキはさらに顔を近づけ、デクスをじっと見つめた。


『い、いいいい一体なんですの!? まま、まさか―――』


 デクスの脳裏に、数ヶ月前のキスの感触が蘇る。

 一気にデクスの体温は上昇し、過去最高温度を記録していた。


「ば、ばばばばばかっ! 人前ですのよ!? あなたほんと、ばかじゃありませんの!?」


 どんどん近づいてくるアニキの顔に動揺し、デクスはまともに言葉を紡ぐことすらできない。

 アニキはゆっくりと、デクスに向かって手を伸ばし―――


「おっ……やっぱこれ、高そうじゃねーか。こいつを売っぱらわせてもらうぜ」


 アニキは慎重にデクスの首元に下げていた十字架のチェーンを溶かすと、デクスの首から十字架を外し取った。


「へっ!?」


 デクスは唖然とした表情でアニキを見つめ、言葉も出ない。

 一部始終を見ていたリリィは、弾かれたように声を張り上げた。


「き、貴様! 非常識にもほどがあるぞ! そもそもこれ以上の報酬など不要だ!」


 リリィはアニキへと罵声を浴びせるが、アニキはそんなリリィの様子など意に介さず、チェーンを指に巻いてくるくると十字架を回した。


「けっ、別にいーだろが。これからのこいつには不要なもんなんだからよ。なあ?」


 アニキは悪びれもせず、デクスへと視線を向け、言葉を紡いだ。


「えっ? あ、ああ。まあそう、ですわね……」

「デクスっ!?」


 頷き了承してしまったデクスに驚き、リリィは両目を見開く。

 やがてアニキは屈伸運動を繰り返すと、そのままブックマーカーの街道を走り出した。


「じゃ、あばよっ! てめえら、達者でな!」


 アニキは驚異的なスピードで街道を駆け抜け、その後には、焼け焦げた地面だけが残る。

 リリィはすぐに腰元の剣の位置を直すと、アニキの後ろを追いかけた。


「す、すまない、デクス! あの馬鹿から必ず十字架を取り返すから、それまで待っていてくれ!」


 リリィはアニキの後ろを追いかけ、慌ただしく駆け出す。

 リースはようやく事態を飲み込むと、慌ててリリィのマントを掴んだ。


「あっ、ま、またね、デクスさん、シリル! また来るからねー!」


 リースは片手でしっかりとリリィのマントを掴み、ぶんぶんと手を振る。

 デクスはぼうっとしながら手を振り返すが、まだ意識は戻っていないようだった。


「あっ!? あの、リリィさん!」

「んっ……!?」


 背後から聞こえた甲高い声に気付き、一瞬だけ振り向くリリィ。

 そこでは両手をメガホンのように使ったシリルが、懸命に大声を出していた。


「必ずまた、会いましょうね! 私いつか、リリィさんと―――!」

「??? ああ! また会おう、シリル!」


 シリルの言葉の最後の部分は聞こえなかったものの、リリィは大声で、返事を返した。


「あっ!? で、デクスさん! いいんですか!? アニキさん行っちゃいましたよ!?」


 シリルはどうにかデクスまで近づくと、その袖をくいくいと引っ張る。

 やがてデクスは両目を見開き、意識を取り戻した。


「えっ!? あ……」


 デクスの視線の先には、小さくなったアニキと、それを追いかけるリリィとリース。

 一体どうなったのか、ほとんど覚えてはいないが……目の前の光景を見る限り、状況は理解できた。


「そう。もう、行ったんですのね」


 デクスは肩の力を抜き、どこか達観した様子で、三人の後ろ姿を見つめた。


「あの、男……気付いて、いましたわ」

「えっ?」


 ぽつりと零したデクスの言葉をシリルは聞き取り、疑問符を浮かべる。

 デクスは胸元に指を這わせると、少しだけ笑いながら言葉を続けた。


「だから、あの十字架を……持って行った。まったく、一体どこまで人を、馬鹿にするのかしら」

「デクス、さん……」


 どこか恥ずかしそうに、しかし悲しそうに言葉を紡ぐデクスに、シリルは何も言うことができない。

 たとえその姿は見えなくとも、その声色は如実にその者の心情を語る。

 こんなとき、アニキを追いかけていける足が無いことに……シリルは、強い歯がゆさを感じていた。


「そんな顔、しないでほしいですわ。わたくしはもう、大丈夫です」


 デクスは力なく笑いながら、シリルの頭を、そっと撫でる。

 力の籠っていないデクスの手の平に、シリルは不安を感じずにはいられなかった。


「さて、と、シリル。そろそろ行きましょうか。これからやらなければならないことが山積みですもの」


 デクスは一度大きく体を伸ばし、シリルへと悪戯な笑みを見せる。

 そしてそのまま、言葉を続けた。


「シリル。確かに別れは、悲しいですわ。でも彼らにも事情がある。これが今生の別れというわけでもないのですから、きっとまたいつか会えますわよ」


 デクスはシリルの中の想いを知ってか知らずか、出来るだけ柔らかな口調で言葉を紡ぐ。

 シリルはしばらく思い悩み、思考を巡らせるが……やがて意を決したように顔を上げると、デクスに向かって言葉を返した。


「デクスさん……覚えて、いますか? ずっと前わたしに読んでくれた、恋愛小説の主人公のセリフを」

「えっ……?」


 突拍子もないシリルの言葉に、デクスは目元の涙を拭いながら、声を発する。

 シリルは口元を強く結び、息を飲むと……ゆっくりと続きの言葉を、紡ぎ始めた。


「“人はいつ、恋をするのか。それは、誰かと出会ったその瞬間? それとも、はじめて手を繋いだとき? はじめて言葉を交わしたとき? ……いや、そうじゃない”」


 シリルは、デクスとの思い出を心の中一杯に溢れさせ、言葉を紡ぐ。

 デクスから届けられた言の葉は今、シリルの口から、デクスへと届けられる。

 シリルはブランケットを強く握りしめ、しかし口調は穏やかに、言葉を紡いだ。


「“人は、本当に大好きだった人と別れたとき……その時はじめて、愛に気が付く。僕たちはずっとその中で、生き続けているんだ”……って」

「―――っ!」


 デクスはシリルの言葉に両目を見開き、息を飲む。

 シリルはさらに、言葉を続けた。


「デクスさん……あなたの心を、あなたが否定しちゃ、だめですよ。私だってリリィさんと別れて、本当に悲しい。辛いけど、でも、この心はきっと本物だって、そう思うから……」

「シリ、ル……」


 シリルの失ってしまったはずの両目から、透明な涙が、流れ出す。

 その雫はシリルの黒い包帯に染み込み、その白く小さな頬を、ゆっくりと伝っていった。


「わたし、は……」


 デクスの胸の中に……アニキの言葉が、表情が、溢れ出す。

 もうその感情を、止めることはできなかった。


『最後に一つだけ……聴くぜ。おめえが本当に好きなのは、その立派な十字架か? それとも、積み上げてきた伝統か? でなきゃ……ちっぽけなその、薄汚れた本なのかよ?』

「―――あ……」


 こらえていた涙が、溢れ出す。それはそのまま、デクスの頬を流れていく。

 そうだ……本当はずっと、気づいていた。

 故郷のエルフの森で見上げた、木々の間から映る、あのぶつ切りの空ではなく。

 揺れる馬車の窓から見上げる、木の枠に切り取られた、あの空でもなく―――

 あの日、生まれて初めて見上げた。

 あの、あまりにも広すぎる、空の下で。


「うっ、あ。うああああああああああ……」


 デクス=フィート=ハーティルトは―――生まれて初めて、恋に落ちたのだ。


「わたっ、し……すき、だった。あの人のこと、ほんとにすき、だったぁ……っ!」

「……はい」


 デクスはあふれ出る涙を止めようともせず、持っていたファイルを強く抱きしめる。

 シリルもまた、涙を流し……デクスの言葉に、耳を傾けた。


「ひぐっ……あの、ばか。ぜったい、ゆるしませんわ……!」


 デクスは顔をぐしゃぐしゃにして涙を流し、シリルはそれを見て微笑むと、力強い声色で言葉を紡いだ。


「デクスさん。私、諦めません。だからデクスさんも……諦めるの、やめにしませんか?」


 シリルはリリィの声を思い浮かべながら、その走って行った方向に、顔を向ける。

 デクスはぐしゃぐしゃな顔を上げると、そんなシリルの横顔を、呆然と見つめた。


「おいかけましょ? 大好きな人を。いつかまた会えると信じて」


 シリルは手探りでデクスの手を取り、同じように涙を流しながら、言葉を紡ぐ。

 デクスは意を決したようにシリルと同じ方角に顔を向け、声を張り上げた。


「ええ……ええ、その通りですわ! このわたくしが、やられっぱなしで終わるもんですか!」

「はいっ! その通りです!」


 シリルは力強く頷き、デクスの言葉に反応する。

 やがてデクスはシリルの車椅子のハンドルを握り、歩き出した。


「そのためにはまず、今日の業務を終わらせることですわ! シリル、あなたも車椅子の練習、欠かしちゃだめですわよ!」

「……っ、はい!」


 シリルはデクスの言葉に答えると、力強く頷き、車椅子の肘置きを握りしめる。

 デクスは赤くなった瞳で満足そうに頷くと、我が職場へと視線を合わせた。


「よーし、行きますわよシリル! 今日は飛ばしますわ!」

「ふぇっ!? あ、あはははははは!」


 デクスは勢いよく車椅子を走らせ、大空の下を、駆け抜けていく。

 最後にもう一度見上げた青空は、あの日と同じように、どこまでも広がり―――

 デクスはまるで少女のような笑顔で、流れる雲を見送った。


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