最終話:ただいま
プロキア王国の宿屋。あの思い出の宿屋の前に今、リリィの仲間達が集まっている。
セラは空間を歪めた転送を繰り返し、最後にアニキを宿屋の前に連れてくると、がっくりと膝を折った。
「さ、すがに。全員はちょっと、疲れた、わぁ……」
竜族との戦いを終え、さらに連続した転送はセラの体力を確実に奪った。
そんなセラの汗を見たリースはハンカチを取り出し、優しくそっと拭い取った。
「ありがとう、セラさん。セラさんのおかげでみんなの無事、わかったよ」
「ん……」
セラは心地よいリースの手の感触に合わせ、その目をゆっくりと閉じる。
しかしその刹那、轟音と共にプロキア王城が大きく崩れ始めた。
「っ!? そんな、お城が……!」
崩れていく王城が、遠めに見える。
そんな王城を見たリースはハンカチを強く握り、心配そうに眉を顰めた。
そしてそんなリースの手を、アスカが優しく握りしめる。
「……大丈夫だよ、リースちゃん。リリィっちなら、大丈夫」
「アスカ、さん……」
アスカの言葉を受けたリースは両目に涙を溜めながら、アスカを見上げる。
そんなリースを見たアスカは「ほらほら、男の子が泣かないの~」と優しく声をかけながら、リースの両目に溜まった涙を優しくその手で拭った。
「心配ねえ、よ。あの馬鹿が、そう簡単に死んでたまるか」
「アニキさん……」
アニキはセラに運ばれ、倒れた状態からゆっくりと起き上がり、遠目に見える王城を見つめる。
そうして崩れゆく王城を見つめたイクサはアニキの隣に立ち、淡々と言葉を紡いだ。
「リリィ様は、約束を必ず守ります。よって、生存の可能性は高いと、私は信じています」
「イクサさん……」
リースは徐々に笑顔になりながら、言葉を紡ぐイクサを見上げる。
そんなリースを見たレンは、腕を組みながら言葉を発した。
「ふん、これくらいで心配するなんて、君はリリィさんを信じていないのですか? 僕はちゃんと、リリィさんを信じてる。だから、何の心配もしていません」
レンは腕を組みながら、ぶっきらぼうに言葉をぶつける。
そんなレンの言葉を受けたリースは「うん!」と返事を返し、やがてニコニコと微笑んだ。
「大丈夫よ、リース。あなたのその笑顔があれば、きっとリリィは帰ってくる」
セラはぽんっと優しくリースの頭に手を乗せ、その頭をそっと撫でる。
そんなセラの手の感触を受けたリースはくすぐったそうに笑うと、今度は真っ直ぐに崩れた王城を見つめた。
―――そうして、一体、どれほどの時間が経っただろうか。
いつのまにか日の光は山の間に落ち始め、茜色の光が街の残骸を照らし出す。
やがてやってくるであろう、夜の到来。
それがなんだか、リリィとの別れのような気がして。
リースは泣いちゃダメだ。泣いちゃダメだと心に刻むけれど。
それでもやっぱり、涙は溢れて。
視界がだんだんぼやけて、見えなくなっていく。
そしてリースの視界が全てぼやけて消えゆく、その刹那―――
その視界の先に、小さな黒い影が映った。
「―――っ!」
リースは言葉を発することもできず、ゆっくりと近づいてくる影を、ただ見つめる。
その影は茜色の光を受け、次第に明るく、はっきりと見えてくる。
そして―――リースは、その言葉を紡ぐ。
ずっと言いたかったその言葉を、リースは迷うことなく口にした。
「おかえり。おかえり……なさい!」
リースはにっこりと笑いながら、その影に向かって、言葉を紡ぐ。
その影は、同じように歯を見せて笑うと……茜色の光の中で、その言葉を紡いだ。
「―――ただいま!」