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第243話:スラングル=ベイカー

 スラングルと名乗った竜族の男は角を日の光に照らされながら、持っている長い槍を構える。

 街の残骸に吹き飛ばされていたリースは白銀の両腕を身体の前に出すと、特訓を重ねてきた格闘術の構えをとった。


「へぇ、格闘かい。うちの騎士団にそういう奴はいねえけど……嫌いじゃねえよ、そういうの」


 スラングルはリースの構えから格闘術を主として戦うことを看破し、楽しそうに言葉を落とす。

 しかしリースが一度瞬きをしたその隙にスラングルは距離を詰め、槍による刺突を繰り出してきた。


「っ!?」


 不意を突かれたリースは一瞬防御すべきか回避すべきか迷い、結果として対応が遅れる。

 結果リースはかろうじて右腕の手甲で槍の切っ先を横に滑らせて直撃は回避したものの、槍の風圧によって顔を切り裂かれた。


「あっぐ……!?」


 リースは切り裂かれた顔の傷を押さえ、片目をつぶりながらスラングルを睨みつける。

 しかしスラングルは攻撃を止めることなく、今度は膝蹴りをリースの腹部に叩き込んだ。


「っ!?」


 リースはこみ上げてくる吐き気を押さえ、声すらも出せずに悶絶する。

 そんなリースを見たスラングルは、満足げに笑って言葉を紡いだ。


「へっ。所詮はニンゲン。その程度が限界よ」


 スラングルは一歩後ろに下がり、うずくまったリースを満足げに見下すと、小さく言葉を落とす。

 しかし今度はそのスラングルに対し、レンの黒い槍が襲い掛かった。


「はあああああ!」


 レンは街の残骸を足場にしてスラングルに向かって跳躍し、黒い槍の切っ先を使って刺突を放つ。

 しかしスラングルはそれを読んでいたようで、自身の槍を使ってレンの槍の軌道を変えると、その攻撃を回避した。


「槍を使って俺に勝とうなんざ……千年早いんだよぉ!」

「がっ……!?」


 スラングルは槍の石突を使って跳躍してきたレンの背中に一撃を叩き込み、レンは一瞬呼吸を忘れる。

 しかしかろうじてその場に着地したレンは、乱れた呼吸でリースへと言葉を発した。


「ぐっ……リース、何をしてるんです! 君にはスピードがある。真正面から戦うな!」


 レンは金色の髪を振り乱しながら、リースに向かって声を荒げる。

 そんなレンの言葉を聞いたリースは、離れかけていた意識をかろうじて取り戻した。


「れ、ん……!」


 レンの言葉に応え、リースは地面に拳を打ちつけてふらふらと立ち上がる。

 そうしてそのまま自身の足元に逆巻く風を発生させると、その上に乗り、上空へと身体を浮遊させた。


「ほぅ、風使いか。まあ大精霊の加護は全生物に等しいとされてるからな。それがたとえ、どんな下等生物であっても!」


 スラングルは自身の槍を回転させ、空中のリースを迎撃すべく体勢を整える。

 そんなスラングルを見たリースは冷静に呼吸を繰り返し、やがてその姿を風の中に掻き消した。


「消え……っ!? なーんて、言うかよ馬鹿がぁ!」

「っ!?」


 スラングルは消えたと思われたリースの居場所をすぐに特定し、槍の刺突を正確に繰り出す。

 リースは突き出されている槍に向かって局地的な向かい風を精製し、両腕の手甲を使ってその刺突を防御するが、その刺突の威力は吸収できず、結果的に数十メートルにわたってその身体は吹き飛ばされた。


「リース! くっそおおおおおお!」


 吹き飛ばされたリースを見たレンは雷を自身とスラングルの間に精製すると、その雷に身体を乗せてスライドさせ、猛スピードで槍による刺突をスラングルに向かって突き出す。

 しかしスラングルは上体を逸らしてその攻撃を回避すると、ニヤリと笑いながら突き出すように蹴りを繰り出した。


「どうせだからよぉ……二人仲良くぶっ倒れてろや!」

「ぐっ!?」


 レンは繰り出された蹴りを咄嗟に槍で防御するものの、リースと同じく数十メートルに渡って吹き飛ばされる。

 気付けばリースとレンは同じ廃墟に吹き飛ばされ、その全身は激突のダメージによってボロボロになっていた。


「はははははっ! 馬鹿がぁ! 下等生物が、俺達竜族に敵うわけねぇだろうが!」


 スラングルは槍を地面に突き立てると、両手を広げて高笑いを響かせる。

 レンは悔しそうに立ち上がるがそのダメージは深刻で、足元はガクガクとふらついていた。


「待って……レン。バラバラに行ってもダメだ。同じことの繰り返しだよ」


 そんなレンの背後に倒れていたリースは、壊れてしまった自身の鎧腕を再構成しながら、ゆっくりと立ち上がる。

 二人が吹き飛ばされたことによって舞い上がった土埃で、今スラングルからリース達の姿は見えていない。

 その様子を確認したリースはゆっくりとレンに近づき、そして言葉を落とした。


「聞いて、レン。僕に、考えが……ある」

「えっ―――!?」


 レンはリースの口から紡がれた言葉に驚き、目を見開く。

 そんなレンの様子に構わず、リースはさらに言葉を続けた。


「あのね。―――して、レンが―――するんだ」

「なっ……しかし、それは、君が危険すぎる!」


 リースの作戦を聞いたレンは、右手を横に振りながら反対の意思をぶつける。

 しかしそんなレンをリースは静かに見つめ、さらに言葉を続けた。


「お願いだ……レン。僕達は負けるわけにはいかない。だろう?」


 リースは真剣な表情でレンを見つめ、言葉を続ける。

 そんなリースの真剣な眼差しを受けたレンは言葉を失い、しばらく何かを考えるように俯くと……やがて意を決して、その顔を上げた。


「わかりました。成功率は低いですが、それしかないでしょう。確かに僕達は今ここで、負けるわけにはいかない」

「レン……ありがとう!」


 リースは自身の作戦が受け入れられたことに喜び、満面の笑みを見せる。

 しかしレンは真剣な表情のまま、そんなリースの顔を見つめていた。

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