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第242話:そして戦いが始まる

 プロキアの広大な王城の内部を、リリィは賢明に走り回る。

 しかしどの部屋を覗いてもヴァンはおろか騎士団や王の姿も無く、リリィは途方に暮れていた。

 一瞬走る速度を遅くするリリィだったが……やがて眉間に力を込め、両足を力強く前に踏み出した。


「何を諦めているんだ、私は。諦められるはずなど無いというのに」


 リリィは軽く頭を横に振りながら、真剣な表情で前を見て王城の中を駆け抜けていく。

 そんなリリィの思考の隅で、置いてきた仲間達の姿が流れていた。


「みんな。無事でいてくれよ……!」


 リリィはみんなの勝利を願って自身の剣を強く握り締めると、さらに走るスピードを上げていく。

 こうしてリリィは王城内を駆け抜け、引き続き騎士団と王の探索を続けていた。






「―――で、この状況どうするつもりだ? まさか本気で、俺達に勝とうってんじゃないだろう?」


 長めの槍を肩に担いだ竜族の男は、リースとレンに向かって言葉を紡ぐ。

 そんな男の言葉を受けたレンは、再び槍を創造しながら返事を返した。


「どうもこうもありません。あなた方は僕達が相手をする。それだけのことですよ」


 レンは静かに自身の槍を構えながら、槍の男に切っ先を合わせる。

 そんなレンの姿を見た槍の男は突然激昂し、遠距離から刺突を繰り出してきた。


「だから、それが舐めてるってんだろがあああああああああ!」

「っ!?」


 男が突き出した槍の先端は、レン達に全く届いていない。

 しかしその刺突によって発生した風圧は真っ直ぐに、レンに向かって進んできている。

 その状況を看破したセラはレンの目の前に自身の身体を転送し、そのまま目の前の空間を歪ませた。


「なっ!?」


 槍の男が突然現れたセラに驚いている間に、刺突の風圧はセラによって歪められた空間に吸い込まれる。

 そしてその刺突の風圧は槍の男に返され、そのまま突き進んでいった。


「―――っ!」


 槍の男の隣にいた剣を持った男は、槍の男の前に割り込んで剣を横薙ぎに振るい、襲いかかってきていた槍の風圧を相殺する。

 その動きは明らかに槍の男より洗練されており、鋭い眼光からもただ者でないことは伝わってきた。

 そうして一瞬の攻防が終わり、静寂がその場を支配する。

 セラは槍の男と剣の男、二人の実力を推測すると、額から小さな汗を流した。


「私一人で充分だと思っていたけれど……あの人はちょっと面倒そうだわぁ」


 セラは困ったように自身の頬に手を当て、艶っぽい笑顔を浮かべ、剣の男を見つめる。

 そんなセラの言葉を聞いた槍の男はさらに逆上し、今度はセラに向かって突っ込んできた。


「なめんな……なめんじゃねえぞ。ウォーレンごときがああああああああ!」


 槍の男は怒りをあらわにした表情で、セラに向かって真っ直ぐに距離を詰め、槍による刺突を繰り出す。

 セラは余裕を持ってその攻撃を防御しようとしたが、やがて近づいてきた槍の柄を二本の鎧腕が掴んだ。

 白銀の鎧腕と漆黒の鎧腕はしっかりと男の槍を掴み、ピクリとも動かない。

 やがてレン達は、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「そう焦らないでください。僕達だって、守られてばかりじゃない」

「セラさん、大丈夫?」


 いつのまにか人体練成によって自身の身体を成長させたリースとレンは、二人一緒に槍の柄を掴んでその侵攻を妨害する。

 そんな二人を見たセラは、うっとりと微笑みながら言葉を返した。


「まあ。二人のナイトに守られるなんて、女冥利につきるわぁ」


 セラは少し頬を赤く染め、嬉しそうにぽつりと言葉を落とす。

 そんなセラの言葉を聞いた槍の男は神経を逆撫でされたのか、さらに怒り心頭で言葉をぶつけてきた。


「てめぇっ……。くっ、離しやがれ!」


 槍の男は槍の柄からリース達の手を振りほどこうとするが、なかなかその手を解かせることができない。

 とはいえ槍の男の腕力も相当なもので、二人がかりでも長い時間は押さえきれそうになかった。

 リースは少し焦りながら、セラに向かって言葉を発する。


「僕達がこの人を止めるから、ここは退いてセラさん! リリィさん達が心配―――」

「いいえ、リース。どうやらそれは、無理そうだわぁ」

「え―――っ!?」


 槍を押さえることに夢中になっていたリースは、セラの姿を横目で確認すると、驚きに目を丸くする。

 セラはいつのまにか剣の男の攻撃を受け、両手で大鎌を使ってかろうじて剣撃を防御している状態だった。


「申し訳ないけれど、その男は二人に任せるわぁ。その代わり、この人は私が相手をするから」

「セラさんっ!?」


 セラは剣の男に近づくと白銀の鎧を掴み、そのまま空間を歪めて別の場所へと転送させる。

 そのまま自身も歪んだ空間に入り、剣の男を追いかけていった。


「セラ、さん……」


 リースは槍を掴みながら、そんなセラの挙動すべてを見送る。

 本能的にだが、わかっている。剣の男は槍の男より強く、セラはより強い方の相手をかって出たのだと。

 そんなセラの気持ちが悔しくもあるリースは、強く奥歯を噛み締めた。


「リース! 気を抜かないで下さい! この男の腕力、相当なものだ!」

「っ!? ご、ごめん、レン!」


 レンの声を聞いたリースは慌ててその手に力を込め、男の槍を強く掴む。

 しかし槍の男はさらなる力を自身の槍に込め、ついに二人を振り払った。


「調子に乗るんじゃ、ねええええ!」


 槍の男は思い切り槍を振り回し、リースとレンを振りほどく。

 リースとレンは吹き飛ばされる形になったが、建物の残骸に上手く着地し、ダメージを受けることだけは回避する。

 槍の男は吹き飛ばした二人を見て槍を構えながら、さらに言葉を発した。


「さっきのガキ二人がどこいったんだかわからんが……とにかくお前らは、俺が殺す。このスラングル=ベイカーがなぁ!」


 スラングルと名乗った男は槍を構えながら竜の咆哮を街に響かせ、街の残骸をもカタカタと震わせる。

 まるで怯えるような街の様子を見たリースは、立ち上がりながらその思考を回転させた。


『……この人、やっぱり強い。でも、負けられないんだ―――!』


 リースは白銀の鎧腕となった両手を強く握り込み、真っ直ぐにスラングルを睨み返す。

 スラングルはそんなリースの眼光に満足した様子でニヤリと笑うと、槍の切っ先をリースへと合わせていた。






 どこまでも続いているようなプロキア王国前の平原。その中心に、セラと剣の男が対峙している。

 剣の男は落ち着いた様子で己の剣を構え、そして言葉を紡いだ。


「……空間の能力者か。これは驚いたな」

「ふふっ、そう? あなた表情が硬いから分からなかったわぁ」


 セラはゆっくりとした動作で持っている大鎌を回転させると、そのまま剣の男へと視線を向ける。

 剣の男は構えを解かないまま、さらに言葉を続けた。


「我が名はアルフィス。アルフィス=ソードマン。貴様の名は?」

「ふふっ。女性の名前はね、その手で奪い取るものよぉ?」


 だから、教えてあげない。

 そう言葉を続けたセラに、アルフィスの鋭い眼光が突き刺さる。

 強烈なプレッシャーを受けたセラは、小さく息を落としながら思考を回転させた。


『やっぱりこうして、正解だったわぁ。この男を残してたらリース達、殺されちゃってたかも』


 セラは妖しい笑顔を貼り付けたまま、油断することなくアルフィスを見つめる。

 アルフィスは隙のないセラの立ち姿に脅威を感じながらも、小さく深呼吸を繰り返し、静かに剣を構えていた。

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