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第237話:恵みの森にて

「―――で、ここがリールじいさんの言ってた“恵みの森”か? 確かに平和そうな場所だなこりゃ」


 アニキは森の入り口に立ち、頭の後ろで手を組みながら森の奥を見つめる。

 恵みの森には小鳥がさえずり、豊かな果物が溢れている。確かにその名の通り、生物にとって多くの恵みを与えてくれる森のようだ。

 イクサはアニキの隣に並び立つと、手のひらで森の奥を指しながら言葉を発した。


「ここ恵みの森には栄養豊富な果物と、純粋な水が流れる綺麗な泉が点在していると言われています。野生動物や人にとって恵みある森であることは確かですが、それは凶悪なモンスターにとっても同じこと。もしかしたらこの森の恵みそのものが、モンスターを呼び込んでしまったのかもしれません」


 イクサは淡々とした調子で説明しながら、アニキの隣に並び立つ。

 そんなイクサの言葉を聞いたアニキは、右拳に炎を宿しながら返事を返した。


「へっ、おもしれぇ。凶悪なモンスターなら、こっちから呼びたいくらいだぜ」


 アニキは力強く右拳を握り込みながら、その拳に炎を宿らせる。

 しかしそんなアニキの様子を見たリリィは、慌てた様子で言葉を発した。


「ば、馬鹿者! こんな森の中で炎を使うな! 全て焼き尽くすつもりか!?」


 リリィは周囲に樹木が集中していることに気付き、慌てた様子で声を荒げる。

 アニキはそんなリリィの言葉を受け、つまらなそうに返事を返した。


「ちっ、面倒くせぇ。……しかしまあ、しょうがねえか。確かに燃やしちまったら守る意味もねえや」


 アニキは面倒くさそうに頭をかき、右拳に宿していた炎を消失させる。

 そんなアニキを見たリースは、近くに駆け寄りながら言葉を発した。


「ね、とりあえずこの森入ってみようよ! 悪いモンスターがいるなら、早めに退治しなくちゃ!」


 リースは両手を握り込み、ふんすと鼻息を荒く吐きながら言葉を紡ぐ。

 そんなリースの言葉を受けたアニキは、歯を見せて笑いながら頭の後ろで手を組んだ。


「だな。ここにいたってしょうがねえ。さっさと先に進むぜ!」

「あ、おい!? そんな無防備に歩くな! ちゃんと警戒しろ!」


 ぶらぶらと森の中に入ってしまったアニキを追い、駆け出すリリィ。

 他のメンバーもそんなリリィを追いかけ、森の中へと入っていった。


「―――しかし。今のところただの平和な森だな。別にモンスターの気配も感じねぇ」


 アニキは頭の後ろで手を組みながら、ぶらぶらと森の中を探索する。

 そのアニキの隣を歩いていたアスカも、両手を腰に当てて周囲をキョロキョロと見回すが、モンスターらしき影は確認できなかった。


「ほんと、平和な森だねぇ。なんか眠くなってきちゃったよ」


 アスカは口元に手を当て、大きく欠伸をする。

 緊張感の無い二人の様子を見たリリィは、剣の柄に手を置きながら言葉を紡いだ。


「二人とも、油断するな。情報が確かなら、この森にモンスターが―――!?」

「??? どったのリリィっち」


 突然言葉を止めたリリィを不思議に思い、頭に疑問符を浮かべながら首を傾げるアスカ。

 リリィはそんなアスカの言葉を受けると、ゆっくりと返事を返した。


「微かだが、血の匂いがする。……こっちか!」


 リリィは剣の位置を直しながら、血の匂いのする方角へと駆け出していく。

 そんなリリィを見たアスカは、慌てて声を荒げた。


「あっ、ちょ、待って! リリィっちが先行してどーすんのさい!」


 アスカは慌てて足を動かすと、リリィの背中を追いかけていく。

 一行もすぐにそんなアスカを追いかけ、さらに森の奥へと進んでいった。







「―――なるほど。これは、血の匂いがするわけだな」

「…………」


 リリィは森の中にある泉の前で立ち止まり、眉間に皺を寄せながら目の前の光景を見つめる。

 アスカは同じように泉の前で立ち止まると、無言のままその光景を見つめていた。


『フゴッ……ガッ……』


 巨大なオーク型モンスターはその巨体を横たわらせ、全身からはおびただしい量の鮮血が溢れている。

 巨体から流れ出した鮮血は泉を汚し、この泉の水を飲むことはできないことを悟らせる。

 そこから視点を上に向けると、オークの身体の頂点には一本のハルバードが突き刺さっており、これを人がやったという確かな証拠になっていた。


「これが噂のモンスター? でもこんなにしちゃうなんて、一体誰が……」


 アスカは凄惨なオークの現状を見て真剣な表情になりながら、冷たい汗を頬に流す。

 そんなアスカの言葉を受け、リリィが口を開こうとした瞬間―――オークの頂点に突き刺さっていたハルバードの横に、人の影が現れた。


「っ!? あなた、は……」


 リリィの視線の先。オークの頂点でハルバードを掴み立っているその男。

 金色で短い髪は風に揺れ、顔に張り付いた笑顔はどこか余裕を感じさせる。

 白銀の鎧は日の光を受けて輝き、白いマントは優雅に風を流す。

 そして何より特徴的なのは……額から二本伸びている、白い角。

 その角を見たアスカはすぐに気付き、隣に立っているリリィの頭部を見つめた。

 そして遅れてきた一行の中でただ一人リースだけが、男に向かって小さく言葉を落とす。


「えっ!? あの人。騎士、様……?」


 リースはその男の姿を見ると瞬時にそう判断し、言葉を落とす。

 しかし男はリースの言葉に答えることはなく、真っ直ぐにリリィだけを見つめて言葉を紡いだ。


「久しぶりだね、リリィ。この日をどれだけ待ったことかわからない」


 男はオークの頂点に立ったままハルバードを手にし、リリィに向かって言葉を紡ぐ。

 リリィは震えてくる自身の身体を抱きしめ、そして返事を返した。


「ああ。本当に久しぶりだ。ヴァン=リーニッツ=ドラゴンナイズ」


 リリィは男のフルネームを呼び、震える身体を抱きしめる。

 そんなリリィの様子を見た男は、少し困ったように笑いながら地面に向かって飛び降りた。


「僕のことは気軽に“ヴァン”と呼んでくれって、いつも言っているだろう? 君と僕の仲じゃないか」


 ヴァンは純粋な笑顔を浮かべながら、リリィに向かって言葉を紡ぐ。

 しかしリリィの表情が砕けることはなく、警戒心を持った視線はいつまでもヴァンを貫いていた。

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