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第234話:大宴会

「かんぱーい!」

「イエーイ! かんぱーい!」


 宿屋の中央ホールでは次々とグラスが打ち鳴らされ、リールはその年齢にそぐわない動きで次々と料理を並べていく。

 そんなリールの料理を食べたアニキは、料理を食べながら目を見開いて言葉を発した。


「う、うめぇ! おいじーさんやるじゃねえか! うめぇよこれ!」


 アニキはリールの作った肉料理を口いっぱいに頬張り、口の中の食べ物を飛ばしながら言葉を発する。

 そんなアニキの言葉と食べかすを顔面に受けたリールは、噛み付くようにツッコミを入れた。


「汚なっ!? 食いながら喋るんじゃないわい!」

「お、わりぃわりぃ! あんまり美味いからついな!」


 アニキはぼりぼりと頭を搔きながら、悪びれない様子で言葉を発する。

 そんなアニキをリールはジト目で見つめていたが、そんなじいさんに今度はアスカが話しかけた。


「こっちの魚料理もおいふぃー! おじいちゃん凄いねぇ!」

「お、そ、そうか? 可愛い姉ちゃんに褒められると悪い気はせんな」


 リールはあまりに真っ直ぐな瞳で褒めてくるアスカに驚き、少し照れた様子でぽりぽりと頬をかく。

 そんなじいさんの反応を見たアスカは、花咲くような笑顔を浮かべながら言葉を続けた。


「いや、ほんと美味しいよこの料理! あ、リルルちゃんも食べっかい?」

「うん! ありがとうお姉ちゃん!」


 アスカは足元に立っていたリルルに気付くと、魚料理を一口分フォークで刺しながらリルルへと差し出す。

 リルルはその小さな口をあーんと開くと魚料理を食べ、もぐもぐと咀嚼した。


「おいふぃー! やっぱりおじいちゃんの料理は世界一だね!」


 口の中に広がる芳醇な香りと濃厚な味を確認したリルルは、親指を立てた右手をぐっとリールに突き出す。

 そんなリルルの右手を見たリールは、歯を見せて笑いながら同じように親指を立てて見せた。

 そしてそのリルルの隣で、同じように食事していたイクサは少しだけ目を見開きながら言葉を紡ぐ。


「素晴らしい調味料のバランス。絶妙な焼き加減。調理の腕が宮廷料理レベルにまで到達しています。恐らく他国のどの宿屋を探しても、これほどの料理は食べられないでしょう」

「ベタ褒めか! やめてくれよ姉ちゃん、なんだか恥ずかしくなってきた!」


 イクサの賞賛の言葉がくすぐったかったのか、リールは顔を赤くしながら頬をかく。

 これほどの料理を作って何が恥ずかしいのか分からないイクサは不思議そうに首を傾げ、さらに言葉を続けた。


「私は事実を述べています。あなたの腕は超一流と言って良い。よって、“恥ずかしい”という表現は間違っています」

「真面目か! いやそういう意味で言ったんじゃなくて……な、なんか変な姉ちゃんだなぁオイ」


 リールは困ったように眉を顰め、イクサに向かってツッコミを入れる。

 相変わらずイクサは頭に疑問符を浮かべて首を傾げ、リールの言葉は彼女に届いていないようだ。

 やがてアニキはそんなリールの肩を叩き、酒の入ったグラスをずいっと突き出した。


「まあまあ、飲もうぜじいさん! こりゃ最高のつまみだ!」

「あ、ああ。そうじゃな……まあいいわい。こうなりゃ今日はとことん飲むぞぉ!」


 リールは半分やけくそになりながらグラスを受け取り、それを天井へと掲げる。

 アニキは嬉しそうにそんなリールの顔を見ると、自身も楽しそうにグラスを掲げた。


「おじいちゃんたのしそぉ……いつも笑ってるけど、今日はすっごくわらってる!」


 リルルは嬉しそうに飛び跳ねながら、テンション高めで言葉を発する。

 そんなリルルの様子を見たイクサは、小さく微笑みながら返事を返した。


「リルル様はどうですか? 楽しんでいますか?」

「うん! リルルもね、すっごくすごく楽しいよ!」


 リルルは満面の笑顔を浮かべながら、イクサに向かって即座に返事を返す。

 そんなリルルを見たイクサはにっこりと微笑み、無言のままリルルの頭を撫でた。

 そしてその時、ホールの奥にある舞台の上に飛び跳ねながらアスカが登場する。

 顔は真っ赤に染まっており、明らかに酔っている様子だ。


「あいあい! いちばん、ようざんあすか! 宴会芸やりまーす!」


 アスカはぴんっと片手を上げ、舞台の上で大声を張り上げる。

 そんなアスカを見た店主達は、一斉に歓声を送った。


「うおー! いいぞぉ姉ちゃん!」

「やれやれー!」


 店主達は気持ちの良い笑顔を浮かべ、酒の入ったグラスを掲げる。

 そんな店主達の反応をうんうんと頷いて聞いたアスカは、やがてカレンを呼び出した。


「よっしゃ! いくよ、お姉ちゃん!」

「……っ!」


 アスカはどこからか二本の扇子を取り出し、その先端から水を噴き出しながら舞を披露する。

 カレンもまたアスカの動きに合わせて剣舞を踊り、舞台の上は美しく舞う二人の姉妹に支配された。


「おおーっ! いいぞぉ姉ちゃん!」

「つーかあの浮いてるの誰だ!?」

「美人だし別によくね!?」

「だよなぁー!」


 店主達は浮遊しているカレンを特に気にする様子もなく、何度も乾杯を繰り返して酒を飲み干していく。

 綺麗だと言われたカレンは恥ずかしそうに頬を染めながらも、剣舞を続けている。

 そうして二人が一通りの舞を終えると、雨の様に拍手が降り注いできた。

 お礼の言葉を発しながら両手を振るアスカと、その影に隠れて恥ずかしそうにしているカレン。

 そしてそんな二人を遠目から見ていたリースはジュースの入ったグラスをテーブルに置くと、レンの手を引っ張って舞台へと走り出した。


「はいはーい! 僕達も宴会芸やりまーす!」

「ちょ、リース!? 勝手な事言わないでください!」


 舞台に上がったリースは場の雰囲気に酔っているのか、赤い顔をしながら笑顔で言葉を発する。

 そんなリースにツッコミを入れるレンだったが、店主達はすぐに盛り上がってしまった。


「おっ、坊主達もお遊戯か!? やれやれー!」

「楽しみにしてるぞぉ!」

「がんばってー!」


 店主達からの声を受けたリースは嬉しそうに笑いながら手を振るが、その中のひとつの声に反応したレンは、ぴくりと眉を動かす。

 どうやらレンも多少なり場に酔っているらしく、顔を赤くしながら一歩前に歩みだした。


「誰が“お遊戯”ですか! 本物の宴会芸というものを見せてあげますよ!」


 レンは右手を横に振りながら、強い口調で宣言する。

 そんなレンの言葉を受けた店主達はさらに盛り上がり、喝采の声をレンへと浴びせた。

 そしてそんな二人を見ていたリルルとリールは、楽しそうに笑いながら店主達と一緒に声を上げる。

 こうして宴会の夜は過ぎていき、楽しい笑い声はいつまでもプロキアの街に響いていた。

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