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第233話:リールじいさん登場

「あ、ここだよ! ここがリルルのおうち!」


 アニキに肩車してもらった状態で一行を案内してきたリルルは、その大きな瞳を輝かせて一際大きな一軒の建物を指差す。

 緑に埋もれたその建物は穏やかにその姿を現し、まるで一行を歓迎しているのかのようだ。

 想定より大きな建物を見たアニキは、嬉しそうにその目を輝かせた。


「おーっ! 結構でけぇな! これなら全員入るんじゃねーか!?」


 アニキは楽しそうに笑いながら、隣を歩いていたアスカへと声をかける。

 アスカもまた楽しそうに笑いながら頭の後ろで手を組み、すぐに返事を返した。


「ほんとだね! ちゃんと宿屋さんの看板も出てるし、こりゃ楽しくなってきたわ!」


 アスカは瞳を輝かせながら宿屋を見上げ、満足そうに笑顔を浮かべる。

 すると周囲に集まっていた店主達が、我先にと宿屋の中に駆け込んでいった。


「よっしゃあ! まずはうちの酒を並べるぜ!」

「おいおい、うちの肉がないと宴会は始まらねえだろぉ!」

「いやいや! うちの海産物こそ至高だっつーの!」


 店主達は楽しそうに言い争いをしながら、我先にと宿屋に駆け込むと自身の商店で扱っている自慢の食材を持ち込んでいく。

 そんな店主達を見た宿屋の主人らしき年老いた男性は、頭をかきながら外に飛び出してきた。


「おいおい、何の騒ぎだい。みんな妙にテンション高いのう?」


 年老いた男性はしわがれた声を響かせながら、ぽりぽりと頬をかく。

 そんな男性を見たアニキは、その前へゆっくりと歩みを進めた。


「あんたがこの宿屋の主人か? わりぃけど今夜は貸切りにさせてくれや! これから宴会すっからよ!」

「と、突然何言ってんだあんた!? 大体他の宿泊客はどうすんだよ!」


 年老いた男性は頭に大粒の汗を流しながら、アニキに向かって言葉をぶつける。

 そんな男性の言葉を受けたアニキは、あっけらかんとしながら返事を返した。


「あん? 面倒くせえな。だったらその客の分の宿賃も俺が払ってやるから、みんなで宴会といこうぜ!」


 アニキはぐっと親指を立てながら前に突き出し、肩車をされているリルルも真似をして立てた親指を年老いた男性へと突き出す。

 そんなリルルの様子を見た年老いた男性は、さらに言葉を続けた。


「リルル! お前が連れてきたのか! まったく……!」


 年老いた男性はぷるぷると震えながら俯いてしまい、その感情を伺い知ることはできない。

 そんな男性の様子を見たリリィは心配になり、歩み寄りながら言葉を紡いだ。


「ええと、すまないご主人。突然貸切りと言われても困るだろうし、無理なら他に―――」

「まったく気に入ったぁ! よっしゃ、今夜は大宴会といこうや!」

「ふぇ!?」


 年老いた男性は突然顔を上げると、リリィの眼前に向かって親指を立てた右手を突き出す。

 突然目の前に突き出された手に驚いたリリィは変な声を上げて数歩後ずさったが、アニキは楽しそうに笑って言葉を続けた。


「おっ! なかなかノリのいいじーさんじゃねえか! 気に入ったぜ!」

「なんの! まだまだ若いもんには負けんわい! とっておきの料理を作ってやるから覚悟するんじゃな!」


 年老いた男性は歯を見せて笑いながら親指を立て、アニキと言葉を交わす。

 そんな男性の様子を見たリルルは、両手をばんざいしながら言葉を紡いだ。


「わーい! おじいちゃんの料理すっごくおいしいから、リルルだいすき!」

「おっ、マジか! じゃあじーさん、肉料理してくれよ! あと肉な!」

「肉ばっかりじゃないかい! 偏食か!」


 年老いた男性……もとい宿屋のじいさんは楽しそうにアニキにツッコミを入れ、悪戯な笑顔を見せる。

 すると宿屋の中に入っていた店主達が、一斉にじいさんに向かって声をかけた。


「リール! 肉はキッチンに置いとけばいいよな!?」

「酒のストック少ないじゃん! うちの酒を酒樽にぶちこんどくけど、いいよな!?」

「魚持ってきたから! これ料理してくれよ、リール!」

「ええい、お前らせっかちか! ひとりひとり話さんかい!」


 リールと呼ばれた宿屋のじいさんは楽しそうに笑いながら、話しかけてきた店主達にツッコミを入れる。

 そんなリールと店主達の様子を遠目から見ていたセラは、くすくすと笑いながら言葉を落とした。


「ふふっ……なんだか楽しそう。ここは本当に良い国ねぇ」


 セラは吹き抜けていく爽やかな風にその翼と長い髪を流しながら、いつのまにか星空に変わっていた空を見上げる。

 そんなセラの言葉を聞いたリリィは、小さく笑いながら返事を返した。


「ああ。この街には本当に、良い風が吹いているよ」


 リールの変貌に驚いていたリリィだったが、状況を理解するとにっこり笑い、セラと一緒に夜空を見上げる。

 するとそんなのんびりとした雰囲気の二人に、甲高い声が響いてきた。


「リリィさん、セラさん! もうみんな中に入っちゃったよー!?」

「急いで入ってください! 乾杯ができないって、アニキさんが騒いでます!」


 いつのまにか宿屋に入ったアニキは料理を待ちきれず、酒の入ったグラスを片手に持ちながらテーブルの上に乗って乾杯の準備をしている。

 そんなアニキの手前でリースとレンは、リリィ達向かって必死に声を張り上げていた。


「あ、ああ、すまない。今行くよ」


 焦った様子の二人を見たリリィは困ったように笑いながら、宿屋の中へと入っていく。

 そんなリリィの姿を見たセラはもう一度だけ髪を夜風に流すと、星明りにその金色の髪を輝かせながら宿屋に向かって一歩を踏み出した。


「ふふっ。私も行くわぁ。お酒って、果実酒もあるかしらぁ?」


 セラは楽しそうに笑いながら、リールの宿屋へと入っていく。

 そんな宿屋の上で星空は美しく輝き、宴の時が迫っている一行を、楽しそうに照らし出していた。

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