第232話:リルルのおうち
結局リース、アスカ、レンの三人は各商店の店主に気に入られ、多くの食材を手渡され右往左往している。
そしてそんな気前の良い店主達を見たアニキは、歯を見せて笑いながら拳を打ち鳴らした。
「へっ。気持ちの良い奴等じゃねーか。気に入った! 今日は俺のおごりで宴会だコラァ!」
アニキは自慢の大声を張り上げ、リース達の周りに集まった店主達へと声を張り上げる。
そんなアニキの言葉を聞いた店主達は、一斉に喝采の声をアニキへと浴びせた。
「おおっ、宴会たぁ名案だ! 是非うちの肉持ってってくれよ!」
「うちの魚も!」
「俺は一生分の酒を持って行ってやるよ! 今夜は盛り上がろうぜ!」
いつのまにか先ほどよりも多くの店主達が集まり、なんだかどんどん話が膨らんでいる。
リリィは勝手に話を進めるアニキに怒号を飛ばそうと一歩踏み出すが、すぐに他の店主達に囲まれてしまった。
「おおっ、お兄さんも赤髪の兄ちゃんのお仲間さんかい!? 今夜は盛り上がろうな!」
「かーっ、こんな綺麗なお姉ちゃん達と旅してるなんて羨ましいねぇ! 今日は徹底的に付き合ってもらうぜ兄ちゃん!」
「おおよ! 飲もう飲もう!」
「なっ!? え、えっと、はい……」
リリィは取り囲んできた店主達の雰囲気に飲まれ、思わず肯定の返事を返してしまう。
そんなリリィを見たセラは口元を手で隠しながら楽しそうに笑い、言葉を落とした。
「あらあら。剣士さんも肯定しちゃったわねぇ」
セラはくすくすと笑いながら、リリィに向かって言葉を発する。
そんなセラの言葉を聞いたリリィは反論しようと口を開くが、その時とことこと小さな女の子がセラの下に歩いてきたのを見て、口を噤んだ。
女の子はぼーっとセラを見上げると、やがてキラキラと輝く瞳をしながら言葉を紡いだ。
「おねぇたん……めがみさま? すごいきれぇ……」
オレンジ色の髪を頭頂部で一つにまとめた小さな女の子は、輝く瞳でセラを見上げて言葉を紡ぐ。
セラは膝を折って女の子と視線の高さを合わせると、微笑みながら返事を返した。
「ふふっ、ありがとう。あなた、お名前は?」
「りるる!」
「リルルちゃん。可愛い名前だわぁ」
セラは優しく微笑みながら、リルルと名乗った女の子の頭を撫でる。
細くしなやかな指先の感触を感じたリルルはくすぐったそうに笑うと、花咲くような笑顔で返事を返した。
「えへへぇ。ね、お姉ちゃん。今日リルルのおうちにきて! リルルのおうちはね、いっぱい人がいて楽しいんだよ!」
リルルは笑顔のまま両手を左右に広げて「いーっぱいだよ!」とさらに言葉を続ける。
どうやらリルルの家は、酒場か宿屋のようだ。その事を察したセラは、小さく首を傾げながらリルルへと質問した。
「それは楽しそうねぇ。リルルのお家は宿屋さんなのかしらぁ?」
優しい声色で質問するセラ。その様子を少し離れたところからリリィが見守っている。
やがてリルルはセラの質問を理解すると、大きく頷きながら返事を返した。
「うん! そうだよ! やどやさん! すごくおっきくて、人がたくさんいて楽しいの!」
ほんとだよ! と言葉を続けながら、リルルは純粋な笑顔をセラに向ける。
そんなリルルの笑顔を見たセラは微笑みながらゆっくりと立ち上がり、アニキの方へと身体を向けた。
「ねぇアニキさん? 今日はこのリルルちゃんのお家で宴会しなぁい? とっても大きいんですってぇ」
セラは片手をメガホンのように使いながら、アニキに向かって言葉を発する。
そんなセラの言葉を聞いた周囲の店主達は、一斉に歓声を上げた。
「おお、いいねぇ! リルルちゃんの家はこの国一番の宿屋なんだ!」
「よっしゃ! 俺、嫁さんたちも呼んでくるわ!」
「俺も俺も!」
店主達はセラの言葉を聞くとさらにテンションが上がったらしく、ガッツポーズをしながら楽しそうに言葉を発する。
そんな店主達の声を聞いたアニキは、笑いながらリルルへと歩み寄った。
「おう、リルルとか言ったな。おめぇの家はでかいのか?」
「うん! すっごくおっきいよ! こーんなにひろいんだから!」
リルルはアニキに物怖じすることもなく、純粋な笑顔を見せて両手を左右に広げながら言葉を紡ぐ。
そんなリルルの言葉を聞いたアニキは、歯を見せて笑いながらリルルを肩車した。
「よっしゃぁ! 気に入った! 家まで案内しろ、リルル!」
「うん!」
テンションの上がったアニキはリルルを肩車し、そのまま道案内するよう言葉を発する。
そんなアニキの言葉を受けたリルルは、嬉しそうに頷きながら返事を返す。
そうしてリルルを持ち上げたアニキは、リリィ達に向かってさらに声を張り上げた。
「おう! 行くぜ野郎ども! 今夜は宴会だぁ!」
「おーっ! なんかよくわかんないけど、楽しそうだからまあいっか!」
アスカはぴょーんと飛び跳ねながら片手を上げると、いちはやくアニキに賛同してその後ろを追いかけていく。
そんなアスカを見たリリィは、苦笑いを浮かべながら小さく言葉を落とした。
「宴会の拒否権は……どうやら無いようだな」
「ふふっ、もちろん。今夜は楽しくなりそうだわぁ」
セラは相変わらず楽しそうに笑いながら、リリィに向かって返事を返す。
こうしてリルルを肩車したアニキを先頭に、一行と店主達は宿屋に向かって歩いていく。
いつのまにか街には優しい茜色の光が差し込み、楽しい夜の訪れを人々に伝えていた。