第231話:上陸・王都プロキア
リリィ達を乗せた船は海上を進み、やがて王都プロキアの船着場へと到着する。
一行は甲板から一度船の中に入るとそのまま船を降り、船着場から広がる光景に言葉を忘れた。
豊かな森に飲み込まれた多くの建物が軒を連ね、その先には堅牢で美しい城が姿を現す。
行き交う人々は皆活気に溢れ、楽しそうな声が響いてくる。
そこには言葉では言い表せない爽やかさがあり、空気もなんだか澄んでいるような気がした。
そしてそんな街と人の様子にテンションが上がったアスカは、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら言葉を発する。
「おおーっ! なんか雰囲気の良い街だねぇ。皆楽しそうだし!」
アスカは笑顔で飛び跳ねながら、隣に立っていたイクサへと言葉を発する。
楽しそうなアスカの言葉を受けたイクサは、こっくりと頷きながら返事を返した。
「肯定です、アスカ様。ここ王都プロキアは海産物がよくとれ、人の行き来も活発であることから、非常に豊かな街であると言われています。土地柄人々の気性も穏やかで明るく、観光事業も成功しているというデータがあります」
イクサは片手を上げてプロキアのシンボルである王城を指し示しつつ、プロキアに関するデータを披露する。
そんなイクサの言葉を聞いたアスカは「うんうん! なんか皆良い笑顔してるもん!」と納得した様子で返事を返した。
そしてアスカと一緒にイクサの説明を受けたリリィも、頷きながらゆっくりと言葉を落とす。
「確かにな。クロックオーシャンも観光地として有名だが、プロキアの方が気取っていないというか、居心地の良さを感じる。個人的にはプロキアの方が私は落ち着くよ」
リリィは楽しそうに会話をしている街の住人達を見つめながら、小さく微笑んで言葉を落とす。
そんなリリィの言葉を聞いたアニキは、欠伸をしながら返事を返した。
「ま、飯が美味いってのは嬉しいな。あとはつえーモンスターがいれば文句ねえぜ、俺は」
少し退屈そうに欠伸をしながら、言葉を発するアニキ。
そんなアニキの言葉を聞いたリリィは、呆れた様子で口を開いた。
「貴様は本当に……いや、もういい。なんでもない」
「???」
物騒な事を言っているアニキを注意しようとしたリリィだったが、やがて何かを諦めてがっくりと肩を落とす。
そんなリリィをしばらく不思議そうに見つめていたアニキだったが、やがて興味を失ってプロキアの街へと視線を戻した。
「ま、とりあえず街に行ってみようぜ。船着場にいてもしょうがねえよ」
アニキは頭の後ろで手を組みながら、一行に対して聞こえるように言葉を発する。
その言葉にアスカはいち早く反応し、元気良く握った拳をプロキアに向かって突き出した。
「だね! よぉーし、じゃ行こっか!」
アニキの言葉を受けたアスカは、街に向かって一直線に走り出す。
そんなアスカに向かって、リリィは慌てて右手を伸ばしながら声を荒げた。
「あっおいアスカ!? 勝手に先行するな!」
クロックオーシャンの宿屋での悲劇を思い出し、リリィはアスカに向かって慌てた様子で声を荒げる。
そんなリリィの言葉を背中に受けたアスカは、慌てて停止しながら振り向いた。
「もー、遅いよリリィっち! はやくはやく!」
「あ、おい!? 馬鹿者! そう無理矢理引っ張るな!」
アスカは満面の笑顔でリリィの手を掴み、ぐいぐいとプロキアの街に向かって引っ張っていく。
こうして一行は緑深き地、王都プロキアへと上陸した。
プロキアはその大きな懐で一行を迎え、まるで歓迎するかのような一陣の風が、街中を温かく吹きぬけていった。
「ふあぁ。凄い量のお店だねぇ。“もうなんでも置いてあるぞー”って感じ」
プロキアの街に入ったリースは、多くの商店が軒を連ねている通りを楽しそうに駆け回り、両手を広げながらレンに向かって言葉を紡ぐ。
そんなリースの言葉を受けたレンは、浮かれた様子のリースにため息を落としながらも返事を返した。
「まあ確かに、これだけあると目的の店を探すだけでも一苦労でしょうね」
できれば創術関連のお店はチェックしておきたいんですが……と言葉を続けながら、キョロキョロと周囲を見回すレン。
するとそんな二人を見た商店の店主が、陽気に声をかけてきた。
「おっ、坊主達おつかいかい? 偉いねぇ。このアメ一個ずつ持っていきな!」
店主は歯を見せて笑いながら、自分の店で売っている棒つきのアメを二人へと突き出す。
そんな店主の言葉とアメを受けたリースは、驚きに目を見開きながら慌てて言葉を返した。
「ふぇっ!? あ、あの、ありがとう、おじさん!」
「坊主って……子ども扱いしないでください」
リースは素直に頭を下げ、レンは少し不満そうにしながら店主の突き出してきたアメを受け取る。
するとその様子を見た周囲の店の店主達も、我先にとリース達に向かって話しかけてきた。
「おっ、おつかいたぁ感心だ! うちの花も持っていきな!」
「このケーキ新作なのよ! 持ってって持ってって!」
「魚好きかい? よかったら二匹持っていきな!」
「じゃあうちはこの肉だ! 思い切って持ってってくれ!」
「えっ? えっ? あ、ありがとうございます。わあああ……っ」
「ちょ、リース! 律儀に全部受け取らないでください!」
店主達から突き出された大量の品物を受け取ってあっぷあっぷしているリースに、慌てて駆け寄って品物を半分受け持つレン。
そうしていつのまにか品物で両手がいっぱいになった二人を見たアスカは、目をキラキラさせながら駆け寄った。
「あー! いいなぁ二人とも! なんでそんな貰い物してんの!?」
「いや、僕達に聞かれても」
「何がなんだか……」
リースとレンは両手で荷物を抱え、リースは困ったように笑いながら、レンは眉間に皺を寄せながらアスカに向かって返事を返す。
そんな二人の返事を聞いていたアスカに、今度は各店の店主達から声がかかった。
「おっ、この子たちのお姉さんかい? ええいしょうがねえ、お姉ちゃんもアメ一個持っていきな!」
「なにおー!? じゃあうちはケーキ二個だ!」
「うちも魚三匹持っていきな!」
「うちもうちも!」
「おおおお!? マジかよ!」
あっという間にアスカの両手も多くの品物で埋め尽くされ、ふらふらと両足をさ迷わせる。
そんな三人の様子を後ろから見ていたリリィは、大粒の汗を流しながら言葉を発した。
「い、一体、あの三人は何をしてるんだ? わけがわからんぞ」
「あらぁ。楽しくっていいじゃない」
セラは片手を口に当てながらくすくすと笑い、穏やかな瞳で三人の姿を見つめる。
そんなセラの笑顔を見たリリィはポリポリと頬をかくと、やがて困ったように笑顔を見せて、右往左往する三人を穏やかに見つめた。