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第228話:さらば、クロックオーシャン

「これで、終わりだオラアアアアアアアアアア!」

『ピギィッ!?』


 コカトリスはアニキの拳撃によって顔面を殴られると、その後身体を爆破されて粉々に吹き飛ばされる。

 アニキは少し乱れた呼吸を吐きながら、イクサに向かって声を張り上げた。


「おう、イクサ! これでラストだろ!? もうコカトリスの野郎はいねぇよな!?」


 アニキは口に付着したコカトリスの返り血を拳で乱暴に拭いながら、イクサに向かって質問する。

 そんなアニキの言葉を受けたイクサは、淡々とした調子で返事を返した。


「おっしゃる通りです、マスター。コカトリスは全て討伐しました」

「結局逃げずに、全部倒しちゃったね~」


 アスカはたははと笑いながら、頭の後ろで手を組む。

 しかしアニキはそんな事はどうでもいいらしく、ガッツポーズをしながらイクサへと言葉を返した。


「っしゃあ! これでメデューサのところに行けるな!」

「……いえ、その必要はありません」

「あん? なんでだよ」


 意味不明なイクサの回答を聞いたアニキは、腕を組んで首を傾げながら言葉を紡ぐ。

 そんなアニキの言葉を受けたイクサは、灰の谷の奥を指差しながら返事を返した。


「何故ならあちらから、リリィ様達が飛んできているからです。あの状況から察するに、メデューサは既に倒されたと考えるべきでしょう」

「あっ!? ほんとだ! セラっちいないと思ったら奥に行ってたんだ!」


 イクサの指差す方向に目を向けたアスカは、なにやら言い合いをしながら飛んで来るリリィとセラの姿を見て言葉を発する。

 リリィとセラはそれぞれリースとレンを抱えながら飛行し、近づいてくるにつれ、言い争っている内容も聞こえてきた。


「だから、リースを離せ貴様! この二人は私一人で連れて行く!」

「あらぁ、独り占めはよくないわぁ? こういうのは分け合わなくっちゃ」


セラはリースを抱きかかえて飛行しながら、同じくレンを抱きかかえて飛行しているリリィへと言葉を紡ぐ。

 そして返事を返そうと口を開いたリリィの言葉を遮るように、セラは言葉を発した。


「ふふふっ。何なら、夜のお楽しみも二人で共有するぅ?」


 セラは妖しい笑顔を浮かべながら、リリィに向かって言葉を紡ぐ。

 艶っぽいその表情から全てを察したリリィは、顔を真っ赤にしながら返事を返した。


「なっ……何を言っている!? 貴様、気は確かか!?」

「あらぁ。私はただお夕飯のことを言ったのだけれど。剣士さんは一体何を想像したのかしらぁ?」


 セラはくすくすと笑いながら、からかうような目をしてリリィに向かって言葉を発する。

 そんなセラの言葉を聞いたリリィはさらにその顔を紅潮させ、言葉を返した。


「くっ……き、貴様ああああ!」


 リリィとセラの二人は口喧嘩をしながら飛行し、ゆっくりとアニキ達に向かって近づいてくる。

 アスカはそんな二人を見つめると、頭に疑問符を浮かべて首を傾げた。


「ていうかあの二人、なんであんなに喧嘩してるの?」

「……さぁ。私にはわかりかねます」


 アスカとイクサは同じ方向に首を傾げて、飛んで来るリリィとセラを不思議そうに見つめる。

 そしてそんなアスカ達の後ろに立っていたアニキは、納得のいかない様子で両手を左右に広げ、空に向かって声を響かせた。


「つぅか。メデューサと俺を戦わせろやあああああああああああああああ!」


 アニキの声は灰の谷全域に響き渡り、同行していたハンター達を大いにびびらせる。

 こうして一行はメデューサとの戦いに勝利し、休息を得るべくクロックオーシャンへ向かって進んでいく。

 灰の谷には、いつのまにか茜色の光が眩く差し込み―――まるで激闘に勝利した一行を、祝福しているようにも思えた。







 数日後、クロックオーシャンに停泊している船の船着場に、リリィ達一行とレンが集まっている。

 メデューサとの戦いの後、リースとレンは丸一日眠っていたが、その後すぐに元気を取り戻し、リリィを大変驚かせた。

 クロックオーシャンのダブルエッジ支部からは目も眩むような大金が支払われ、当分お金に困ることは無いだろう。

 そのお金で旅支度を整えたリリィは、真新しい剣を腰に下げながら、レンに向かって言葉を紡いだ。


「ではな、レン。無理をしないよう、体に気をつけて」


 リリィはにっこりと微笑みながら、レンに向かって言葉を紡ぐ。

 レンはそんなリリィの笑顔に見惚れてしばらくぽかんと口を開いていたが、やがてぶんぶんと顔を横に振ると返事を返した。


「あ、えっと、はい。リリィさんもどうか、気をつけて……」

「ん。ありがとうレン」


 レンの言葉を聞いたリリィは優しくその頭を撫で、柔らかな笑顔を浮かべる。

 そんなリリィの表情を見たレンはそれ以上言葉を紡げなくなり、赤くなったその顔を隠して俯いた。


「…………」


 リースはレンに向かって言葉を紡ごうとするが、どうしても言葉が出てこない。

 そうこうしているうちに船の出港を知らせる音が、船着場に響き渡った。


「もう出発の時間か……名残惜しいが、ここでさよならだ、レン」

「あっ……」


 リリィはマントを翻し、停泊している船の中へと乗り込んでいく。

 レンは何か言いたげにその手を伸ばすが、肝心の言葉が出てこない。

 やがて船に乗り込んだ一行は甲板まで移動すると、船着場にぽつんと残されたレンを見下ろした。


「またね、レンちゃん! お姉ちゃんのこと忘れちゃやだよー!」

「イクサお姉ちゃんのことも、覚えていてもらえると幸いです」

「あばよ、ガキ! 達者でな!」

「…………」


 別れの言葉を発するアスカ達に混じってリースはレンを見下ろすが、その口から言葉が紡がれることはない。

 その表情はずっと曇っていて、様々な想いが渦巻いているように見える。

 そんなリースを見たセラは、胸の下で腕を組みながら優しい声で言葉を紡いだ。


「ね。リースはちゃんと、さよならしなくていいのぉ?」

「…………」


 セラの言葉を受けたリースは言葉を発しようと大きく呼吸するが、どうしても言葉が出てこない。

 リースは甲板にある手すりに身を預けながらレンへと視線を向け、泣きそうな瞳で口だけをただ動かしていた。

 レンもまた一行を見上げ、何かを言いたげにしているが、肝心の言葉が出てこない。

 そして何かを言いあぐねているリースの様子を見たリリィは、優しくリースの頭に手を乗せ、言葉を紡いだ。


「何も、言葉で飾るだけが別れの形ではない。リースが正しいと思った別れ方をすれば、それでいいんだ」

「リリィ、さん……」


 リリィの言葉を受けたリースは、涙目でリリィを見上げる。

 そうして一度目を閉じたリースは、思考を回転させ……やがて意を決して、その目を大きく見開く。

そしてそのまま、レンのいる船着場へと視線を向けた。


「レン! 僕は―――あれっ?」


 しかし、リースの見たその場所にレンの姿は無い。

 もう帰ってしまったのかとリースが涙を溢れさせようとしたその瞬間、背後から艶っぽい声が響いた。


「やっぱりお別れなんて、勿体ないわぁ。こんなに可愛いんですもの」

「へっ!? へぁっ!? レン!?」


 セラはいつのまにかレンをその両腕で抱え、にっこりと微笑みながら言葉を紡ぐ。

 そうしている内に船は出港し、どんどん船着場が離れていった。


「ばっ!? 馬鹿者! セラ貴様、何をしているのかわかってるのか!?」


 レンを抱えたセラを見たリリィは声を荒げ、右手を大きく横に振る。

 そんなリリィの怒号にも似た声を受けたセラは、にっこりと微笑みながら返事を返した。


「あら、私は今レンを連れてきてるわぁ? それくらいわかってるわよぉ」

「わかってるならちゃんと戻せ! 勝手に連れてきていいと思ってるのか!?」


 リリィは一瞬にしてセラとの距離を詰めると、レンを取り戻すべくその手を伸ばす。

 しかしセラは一瞬早くその場から飛翔し、空中に浮遊すると言葉を返した。


「戻すなんてやーよぉ。この子、からかうと楽しいんですもの」


 セラは背中の翼を使って飛翔すると、伸ばしてきたリリィの手を逃れ、そのまま船の上空まで昇っていく。

 その瞬間レンは状況を理解し、顔を真っ赤にしながらセラの腕の中で暴れた。


「えっちょっ、なに!? どういうことですか!?」

「ぁん。暴れちゃだめよぉ。落ちちゃうわぁ?」


 セラはレンを抱えたまま船の上空に飛翔し、暴れるレンに優しく注意する。

 リリィは船の上空を旋回しだしたセラを追いかけるが、背中の翼と空間能力を多様され、気付いた頃にはクロックオーシャンから遥かに離れてしまっていた。


「―――ぷっ……あははははは!」


 リースは追いかけっこをするリリィ達を見て、別れの言葉で悩んでいた自分が馬鹿らしくなり、笑い声を響かせる。

 その後リリィに捉えられたセラがレンを離し、レンが自分の口から「リリィさんに着いていきたい」と告白することになるのだが……

 それはあと少しだけ、先のお話。


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