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第224話:圧倒、そして

「はあああああああああああ!」

『シャアアアアアアアア!』


 リリィは連続した剣撃をメデューサへと繰り出し、メデューサはそんなリリィの剣撃を巧みに回避しながらリリィの身体に巻きつこうと大蛇の身体を伸ばす。

 しかしその動きはリリィによって看破されて回避されるか、たとえリリィの身体を捕らえたとしても、いずれその圧倒的腕力によって脱出されてしまう。

 リリィは以前両目を閉じた状態のまま、視覚以外の感覚を頼りに剣を振るう。

 メデューサのこれまでの経験上、目を瞑って挑んでくるハンターは珍しくなかった。

 しかしそんなハンターはそのほとんどが未熟であり、目を瞑っているという大きなハンディも手伝って、自分を脅かしたことはない。

 だが、目の前のこの女はなんだ。

 両目を瞑っているのに攻撃は数センチのズレもなく自分の身体を正確に狙い、逆にこちらの攻撃は全て見切られている。

 そんな現状に納得のいかないメデューサは一旦リリィから離れると、再び咆哮を響かせた。

 リリィは剣を構え直し、一定のリズムを足で刻みながら言葉を発する。


「フン。吼えたところで状況は変わらん。貴様の負けだ」

『グッ……!』


 自分の咆哮にも全く動じないリリィを見たメデューサは、再び悔しそうにその表情を歪める。

 やがてリリィはその足を地面に着いた瞬間メデューサとの距離を詰め、大蛇の身体の頭部分に付いているメデューサの本体へ跳躍する。

 本体は全身が灰色で、まるで女性のような風体はしているが、その髪は全て小さな蛇であり、両目は妖しく紫色に輝いている。

 しかしそんな禍々しいメデューサの姿も、目を瞑っているリリィには見えていない。

 ただ気配だけを読み取り、リリィはメデューサの顔面に向かって剣を下から上へと切り上げた。


『クッ……!?』


 超高速の剣撃。普通なら勝負はそこで決まっていただろう。

 しかしメデューサは驚異的な動体視力と身体能力で首を数センチ横にずらし、リリィの剣撃を回避する。

 そして空振りをしたばかりのリリィへ、自身の頭部の蛇を絡みつかせた。


「―――まさかこれは、拘束のつもりか? ……くだらん」

『ギアアアアアアアアアアア!?』


 リリィは全身に巻き付いた蛇を欠片も恐れず、四肢と背中の翼、そして鋼のような尻尾を伸ばして絡みついた蛇を引きちぎる。

 その蛇にも痛覚があるのか、メデューサは頭から紫色の血を流しながらリリィを睨みつけた。


『ハァーッ……ハァーッ……!』


 メデューサの形相には凄まじい気迫と怒りが感じられたが、目を瞑っているリリィには関係ない。

 怒り心頭のメデューサの様子に構わず、リリィは背中の翼を羽ばたかせると今度はメデューサの尻尾へと近づいた。


『っ!?』


 リリィのスピードは凄まじく、メデューサでさえ一瞬対応が遅れる。

 その隙にリリィは上段で剣を構え、メデューサの大蛇の身体に向かってその剣を振り下ろした。


「ぐっ……!? くそっ!」


 しかし振り下ろした剣はメデューサの鎧のような鱗に阻まれ、逆にリリィの剣の刀身が真っ二つに砕ける。

 リリィはゆっくりと地面に降りると、折れてしまった剣を鞘へと戻した。


「…………」


 リリィは俯いたまま何かを考えており、何も言葉を発さず、何も動くことはない。

 そんなリリィの様子を見たメデューサは、剣を失ったことで戦意喪失したと判断し、歓喜の咆哮を上げながら襲い掛かった。

 やがて巨大な蛇の身体が、リリィに向かって覆いかぶさっていく。

 しかし蛇の身体がリリィを押しつぶそうという刹那―――リリィは右腕を頭の上に掲げ、片腕でその巨大な蛇の身体を支えた。


「勘違いするなメデューサ。私の武器は何も、剣だけではない」

『グッ!? ギャアアアアアアアアアアアア!』


 リリィは自身の頭上で受け止めていた蛇の身体に向かって、思い切り振りかぶった爪撃を繰り出す。

 その爪撃は蛇の身体を真っ二つに切り裂き、その先に浮かんでいた雲さえもリリィの爪の数と同じ5つに分断する。

 自身の身体を切断されたメデューサは全身を走る激痛に悶え、紫色の鮮血を飛び散らせながら辺りをのた打ち回った。


「これで、終わりだな……いや、終わらせる」

『ハァーッ……ハァーッ……』


 メデューサは乱れた呼吸を繰り返しながら、少しうつろいがちな紫の瞳でリリィを見つめる。

 もはやその目に戦意はなく、あるのはただ本能的な“死の恐怖”だけ。

 そんなメデューサの様子を察したリリィは、小さく息を落としながら右手を後ろに引いた。


「お前は人を、無意味に殺しすぎた。これはその報いだ」

『っ!?』


 迫り来る、リリィの爪撃。

生まれて初めて死の淵に立たされるメデューサ。

その瞬間メデューサの中を超高速で血液が循環し、一瞬にしてリリィから受けた切断の傷を治癒させた。


「何っ!?」


 切断したはずの尻尾が再生したのを察知したリリィは、予想以上の回復スピードに一瞬心を動揺させる。

 そしてその動揺を、メデューサは見逃さない。

 メデューサは一瞬にしてリリィとの距離を詰める―――と見せかけて反転し、灰の谷の壁を拘束で這いずり回ると、リリィの背後にいたリースへと襲いかかる。

 メデューサは自身の巨大な蛇の身体を利用し、リースに向かって覆いかぶさった。


「えっ……?」


 気付けばリースの視界は巨大な蛇の身体によって支配され、死の匂いが周囲に立ち込める。

 リースはぽかんと口を開けて自身の頭上を見上げており、まだ現状を把握できていない。

 しかし、そんなメデューサの攻撃を察知したリリィは両目を見開くと、一瞬でリースの位置を確認してその方向へ跳躍した。


「おおおおおおおおおおおおおお!」


 リリィは右拳を握り締めながら、一瞬にしてリースの目の前へと飛び出す。

 そしてそのまま、落ちてくる蛇の身体を殴り飛ばそうとした刹那―――蛇の身体は器用に身体をくねらせ、いつのまにかメデューサの顔面が、リリィのすぐ目の前へと現れた。


「しまった……!?」

『クケケケケケ!』


 メデューサは高笑いを響かせながら、その紫色の目でリリィの瞳を真っ直ぐに見つめる。

 交差する、互いの視線。その時からリリィの身体は、足元からゆっくりと石化を始めた。


「くっ……はあああああああああああ!」

『っ!?』


 それでもリリィはかろうじて動く上半身の力を使い、目の前のメデューサを遠くへと殴り飛ばす。

 しかし石化はゆっくりと侵攻し、もはや足首を動かすこともできなかった。


「あ……あ……」


 リースは目の前の光景が信じられず、ぱくぱくと口を動かしながらリリィを見上げる。

 リリィは次第に体温が失われていくのを感じながら、石化していく自らの足をじっと睨みつけていた。

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