第220話:再出撃
「しっかしメデューサたぁ面白そうじゃねーか。次はぜってぇ俺も行くからな!」
宿屋のレストランで先日同様両手に肉を持ちながら、荒々しく言葉を発するアニキ。
そんなアニキの言葉を聞いたリリィは、片手で頭を抱えながら返事を返した。
「楽しそうに言いおって……メデューサは石化の術を操る伝説のモンスター。そう簡単に倒せる相手ではないぞ」
「あん? 別に関係ねぇだろ伝説とかなんとか。強けりゃなんでもいいっつーの」
「はぁ……貴様は本当に変わらないな」
相変わらずなアニキの言動を受け、大きくため息を落とすリリィ。
しかしアニキはそんなリリィより肉の方に興味が行っているのか、リリィに構わず傍を歩いていたウェイターに追加の肉を注文していた。
「そういえばリース。ダブルエッジ支部にメデューサの件は報告したのか?」
リリィは大皿の料理を隣に座っているレンに取り分けながら、リースに向かって質問する。
リースは何かを思い出すように視線を上に向けると、やがて返事を返した。
「あっ! しまった。そういえば簡単にしか報告してなかったかも……」
リースは眉を顰め、申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
そんなリースの言葉を受けたリリィは、ふむと頷いてから返事を返した。
「であれば、詳細な報告をした方が良いだろうな。明日にでも皆で、ダブルエッジ支部に行くとしよう」
「おっ、じゃあそのままメデューサ討伐か!? いいねえ!」
アニキは豪快に一口肉を頬張ると、自身の両拳を打ちつけながら言葉を発する。
そんなアニキの言葉を受けたリリィは、反発するように返事を返した。
「まずは先日の件の詳細な報告だ! そのあとメデューサ討伐に向かうかもしれんが……少なくとも、リースとレンは留守番だな」
「えっ!?」
「!?」
突然すぎるリリィの言葉を受けたリースとレンは、互いに目を見開きながら言葉を発する。
そんな二人の様子を見たリリィは、冷静に返事を返した。
「メデューサとの戦いは、あまりに危険すぎる。二人にはまだ早いだろう」
「そんな……でも、リリィさん! 人数は多いほうが有利なはずだよ!?」
「僕も、留守番をするつもりはありません!」
リースとレンは意見が一致し、ほぼ同時にリリィへと言葉を発する。
そんな二人の確かな意思の篭った視線を受けたリリィは「うっ……」と唸りながら少し後ろに上体を逸らすが、やがてぶんぶんと顔を横に振りながら返事を返した。
「ええい、ダメだダメだ! 私は絶対に認めんからな!」
リリィは顔を横に振りながら、断固としてリースとレンの参戦を拒否する。
しかしそんなリリィを見たアニキは、頬張っていた肉を飲み込んで言葉を落とした。
「つってもなぁ……俺ぁ結局行くことになると思うがね」
「???」
肉を食いながら小さく落とされたアニキの言葉に気付いたイクサは、頭に疑問符を浮かべながら小さく首を傾げる。
その後もリースとレンはリリィへの説得を続けていたが、いつまでたってもリリィは首を縦に振ることはなかった。
「はぁ? 二人は連れて行かない? ダメだよそんなの。リースとレン……だっけ? その二人はもう討伐隊の名簿に入っちまってるんだから」
「な、何!?」
翌日ダブルエッジ支部に行ったリリィに、受付の男性はあっさりとリースとレンがメデューサ討伐隊に入っていることを伝える。
リリィは強く受付の机を叩き、荒々しく言葉を続けた。
「し、しかし、二人にメデューサ討伐は危険すぎる! 今からでも名簿から外すべきだ!」
「んなこと言ったって……実際巨人は討伐できてただろ? 今はハンターも不足してるし、その二人を外すわけにはいかんよ。メデューサがもし街に来たら、それこそ数千人規模の被害者が出るんだ」
「くっ……! それは、そうだが……!」
リリィは悔しそうに奥歯を噛み締め、言い返す言葉を捜す。
しかしそんなリリィのマントを、リースは控えめに引っ張った。
「リリィさん。僕もレンも、この街と街の人が好きなんだ。だからどうか、戦わせてほしい」
「リース……」
真っ直ぐに輝く青い瞳を見たリリィは、困ったように眉を顰める。
そしてリースの隣では、同じようにレンがリリィを見上げて言葉を紡いだ。
「お願いします、リリィさん。自分の身くらいは自分で守れますし、足手まといにはなりませんから」
レンもまた真っ直ぐに輝く黄色い瞳で、リリィを見つめながら言葉を紡ぐ。
そんな二人の言葉を受けたリリィは片手で頭を抱えながら、返事を返した。
「はぁ……わかった、わかったよ。だが二人がやるのはあくまで後方支援だ。それと私の傍から絶対に離れないこと。この二つだけは絶対に守ってくれ」
「っ!? ありがとう、リリィさん!」
「ありがとうございます!」
リリィの言葉を聞いた二人は一瞬にして笑顔になり、ぴょんぴょんと飛びはねながら言葉を返す。
そんな三人の様子を見ていたセラは、そっとリリィに近づいて言葉を紡いだ。
「どうやら、メデューサ討伐のハンター達が到着したみたいだわぁ。そろそろ出発した方がいいんじゃなぁい?」
セラは胸の下で腕を組みながら、リリィに向かって言葉を紡ぐ。
そんなセラの言葉を受けたリリィは、眉間に皺を寄せながら返事を返した。
「それくらい、わかっている。私を甘く見るな」
リリィは少し拗ねた様子でそっぽを向きながら、セラに向かって返事を返す。
どうやら昨日、セラに意地悪されたのを少し根に持っているようだ。
そんなリリィの様子を見たセラは「あらあら」と言葉を落とし、口元に手を当てて小さく笑った。
拗ねているというのもそうだが、リリィはあの二人のことが本当に心配で、気になって仕方ないのだろう。
そんなリリィの心中を察したセラは、柔らかに微笑みながら言葉を紡いだ。
「ふふっ……心配しなくても、大丈夫よぉ。リースの事は私が守るもの」
「なっ、何を言うか! それは私の役目だ。お前は引っ込んでいろ!」
リリィはセラの言葉に一瞬安心したことに驚きつつ、右手を横に振りながらセラへと言葉をぶつける。
そんなリリィの言葉を聞いたセラは、艶っぽい笑顔を浮かべながら返事を返した。
「あら残念。私って引っ込んでいても何故か目立っちゃうのよねぇ」
「なっ……見た目の話をしているのではない! ―――くそっ。何故か調子が狂うな」
「ふふっ」
困惑した様子で頬をかくリリィを見たセラは、再び楽しそうな笑い声を響かせる。
そしてそんな二人に、今度はイクサが話しかけた。
「お話中失礼します。メデューサ討伐隊は街の正門前に集合とのことです」
「あっ。ああ、そうか。すまないイクサ」
どうやらイクサは口喧嘩をしていた二人の変わりに通達を聞いていたらしく、いつも通り冷静に言葉を伝える。
そんなイクサの言葉を聞いたアニキは、両拳を打ちながらしながらギルドのドアを勢い良く蹴破った。
「っしゃあ! メデューサの野郎まで突撃だオラァア!」
「っ!? ば、馬鹿者! いちいちドアを破壊するな!」
ずんずんと歩いてギルドを後にするアニキを追いかけ、走っていくリリィ。
他のメンバーは走り出したリリィを追いかけて、同じようにギルドを後にしていた。