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第219話:レストランにて

 宿屋に到着したアスカ達は空腹に導かれるままレストランに向かい、そこでリースを探していたリリィ達と鉢合わせになる。

 リリィはリースが見つかったことに安堵したが、同時にカレンとリースが抱えている大量の札束に疑問を持った。


「とりあえず、誰か説明してほしいんだが……この札束は一体どういうことだ?」


 リリィは片手で頭を抱えながら、リース達に向かって質問する。

 しかしリリィと一緒にリースを探していたアニキは、札束を見て大きく笑っていた。


「随分とすげえ大金だな。金持ちでも殺したか? あっはっはっは!」

「マスター。相手のメンバーからすると冗談になっていません」


 冗談を言うアニキに対し、リリィと一緒にリースを探していたイクサがいつものようにツッコミを入れる。

 そんなアニキ達の問答はさておき、まずはリリィの疑問に答える為、アスカはしゅぴっと片手を上げながら返事を返した。


「あのね! 灰の谷に行って巨人をやっつけたら合同作戦で、メデューサが強くて札束だったんだよ!」

「うん、なるほど。全然わからんな」


 リリィはうんうんと頷きながら、冷ややかな目でアスカを見つめる。

 アスカは口を3の形にしながら「なんでぇーっ!?」と返事を返していたが、今度はその足元から控えめな声が響いてきた。


「あの、リリィさん。事情については僕が説明します」


 レンはリリィの前で緊張しているのか、おそるおそる片手を上げて発言する。

 そしてそんな自分の様子をセラがニヤニヤしながら見ているのに気付き、レンはその顔を赤く染めた。


「ん? 君は、確か―――レンか? 何故こんなところに……」


 リリィはレンの姿を見ると、驚いた様子で言葉を紡ぐ。

 レンは緊張した様子で片手を上げながら、さらに言葉を続けた。


「ええと、それについても合わせて説明します。とりあえず僕の話を聞いて頂けますか?」

「あ、ああ。では……頼む」


 魔術学園都市で別れた時より少し大人びているレンに驚きながら、続きを促すリリィ。

 こうして発言の機会を得たレンは、自身の実情から札束を貰った経緯まで、事細かにリリィ達へと説明した。





「―――つまり、宿代のために合同作戦に参加し、レンやリースまで一緒に連れて行ったと、そういうことか?」

「はい。しゅいましぇん……」


 レンから事情を聞いたリリィは危険な作戦にリースやレンを連れて行ったアスカに怒号を飛ばし、今アスカは食堂の真ん中で正座させられている。

 そんなアスカの姿を見たリースはアスカを庇うようにリリィとの間に立ち、両手を横に広げながら言葉を発した。


「ま、待ってリリィさん! 合同作戦には僕が自分から連れて行ってほしいって言ったんだ! だから、アスカさんは悪くないよ!」


 リースは両手を左右に広げ、必死になって言葉を紡ぐ。

 そんなリースの言葉を受けたリリィはうっと唸ってアスカを攻めるのを止め、アスカは自分を救ったリースへと抱きついた。


「ありがとうリースちゃーん! もっと言って!」

「あ、アスカさん。抱きしめられたら言えないよぉ……!」


 アスカは泣きながらリースを抱きしめ、リースはアスカの胸元でもごもごと口を動かす。

 そんな二人の様子を見たリリィは小さく息を落とし、顔を横に振りながら言葉を紡いだ。


「ふぅ。まあ……いい。とりあえず皆無事だったわけだからな。撤退の判断も的確だったと言わざるをえまい」

「リリィっち……! わかってくれるってあたし信じてた!」


 納得してくれた事が嬉しいのか、今度はリリィに向かって飛びながら抱きつくアスカ。

 突然抱きつかれたリリィは顔まで近づけてきたアスカの顔面を手で押さえつつ、乱暴に返事を返した。


「んだぁぁ、抱きつくな! これでもまだ怒ってるんだぞ!? 宿代の件なら私やイクサもちゃんと考えていたんだから、相談しろ! 仲間なのに水臭いだろう!」


 リリィは何も、リース達を勝手に連れて行ったことだけを怒っているのではない。

 むしろ本当に怒っているのは、自分に宿代の件を相談しなかったことだった。

 そしてそれはイクサも同じだったようで、一歩前に歩みだすとアスカに向かって言葉を紡いだ。


「そうです、アスカ様。私はアスカ様のためならモンスターの巣でも何でも殲滅する覚悟があります」


 イクサは自身の胸をどんと叩き、アスカに向かって言葉を発する。

 そんなイクサの言葉を聞いたアスカは感動に目を潤ませ、震える声で返事を返した。


「イクサっち、そこまであたしの事を想って……!」

「アスカ様……!」

「「ひしっ」」


 いつのまにかアスカとイクサは抱き合い、おかしな空気が流れている。

 そんな空気を読み取ったリリィは、ため息を落としながら頭を抱え、言葉を落とした。


「ああ、もう。怒るのも馬鹿らしくなってきた」


 リリィは片手で頭を抱えながら、盛大なため息を落とす。

 そんなリリィを見たセラは、にっこりと微笑みながら言葉を紡いだ。


「ふふっ、楽しいじゃない。それともあなたは、楽しくない?」


 セラはリリィの心中を既に看破し、全てわかりきった上で質問をリリィへとぶつける。

 そんなセラの様子を読み取ったリリィは、苦々しい表情で返事を返した。


「ちっ。そういう意地悪な質問は嫌いだ」

「ふふっ……ごめんなさい」


 少し拗ねる様にそっぽを向いてしまったリリィを見つめ、困ったように笑うセラ。

 そんな一行の問答を見ていたアニキは、頭の後ろで手を組みながら言葉を発した。


「なんでもいーんだけどよ、とりあえずメシにしねえか? つうか他の客に見られてるぞ」

「え……」


 珍しいアニキの指摘に驚きつつリリィが周囲を見ると、レストランにやってきた他の客達が奇異の視線をリリィ達に送っているのが見える。

 もっとも、それが当然だろう。時刻はすでにディナータイムとなり、多くの客が食事を楽しみにレストランへ来ている。

 そんな中席にも着かずこんな問答をしていれば、目立つのは当然だ。


「あの……お客様。お客様はお食事でよろしかったでしょうか?」


 レストランのウェイターは最も良い客室に泊まっているリリィ達に気を使っていたのか、恐る恐る話しかけてくる。

 そんなウェイターの言葉を受けたリリィは、赤面しながら返事を返した。


「あっ、ああ。我々と……あの少年の分の食事を頼む」

「はっ。かしこまりました」


 レンの分を含めた食事を注文したリリィは片手でぱたぱたと自身の顔に風を送り、熱くなった体温を冷ます。

 そんなリリィの仕草を見つめていたセラは、再び楽しそうに微笑んでいた。

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