第208話:懐かしい名前
ダブルエッジ支部の中はハッキリ言ってしまえば、かなり混沌としている。
ハンターと言っても冒険者風の男から魔術士風の女性までその種類は様々であり、当然そのハンター達が集っているダブルエッジ支部の中は混沌とした様相となる。
リースは低い視点で支部の中をキョロキョロと見回しながら、斜めがけしている鞄の紐を強く握った。
やがて緊張した様子のリースを見たアスカは、ふんすと鼻息を吐きながらダブルエッジ支部の受付へと歩いていく。
「よっしゃ。このアスカお姉さんに任せんしゃい! ばっちり仕事貰ってくるかんね!」
アスカはにいっと笑いながら腰に両手を当て、胸を張ってリース達へと言葉を発する。
自信満々なアスカの様子を見たセラとリースは、ほぼ同時に言葉を返した。
「ええ。がんばってねぇ」
「ありがとう、アスカさん!」
セラとリースの二人はアスカにお礼の言葉を伝え、その言葉を受けたアスカは歯を見せて笑いながらガッツポーズを返すと、踵を返してダブルエッジ支部の受付へと歩いていく。
そのまま歩みを進めたアスカはダブルエッジ支部の受付に肘を置き、片手を上げながら受付の男性へと陽気に話しかけた。
「おっす、おっちゃん! 何か仕事ない!?」
「いきなり失礼な奴だな……そもそも、ハンターなのか?」
受付の男性はふてぶてしく雑誌を読んでおり、突然声をかけてきたアスカを面倒くさそうに見つめ、質問する。
男性の質問を聞いたアスカは、ぶんぶんと手を横に振りながら元気よく返事を返した。
「ううん、ハンターじゃないよ! でもなんかてきとーに仕事ください!」
「メイド斡旋所にでも行きやがれ! ていうか何でここに来たんだよ!?」
アスカの振る舞いから戦闘力が無いと判断した男性は、面倒くさそうに手をしっしっと動かしながら言葉を返す。
そんな男性の言葉を聞いたアスカは、口を3の形にしながら言葉を続けた。
「ぶー、けち! いいじゃん仕事ちょうだいよ! なんだっけ、こう……合同作戦? みたいなやつやらして!」
「だから、そんな仕事は戦える奴が……ん? 腰に下げてるそれは、武器か?」
男性はアスカの腰元に下げられた刀を見ると、物珍しそうに質問する。
極東にしか存在しない武器である刀は、この大陸の人々からは珍しく見えるのだろう。
アスカは刀を左手で掴むと、ドヤ顔で返事を返した。
「お、気付いた? あたしってばまあまあ強いんだから。仕事くれれば働くぜぇ~?」
アスカはドヤ顔になりながら受付の男性に顔を近づけ、言葉を発する。
そんなアスカを横目で見た男性は、ため息を落としながら返事を返した。
「へっ、ほんとかよ……嘘くせぇ」
「嘘じゃないやい! 失敬だなチミは!」
明らかに信用していない男性の様子に、アスカはぷりぷりと怒りながら言葉をぶつける。
そんなアスカの言葉を受けた男性は面倒くさそうに「わかったわかった」と返し、受付の下から一枚の用紙を取り出した。
「ほら。丁度今巨人討伐の“合同作戦”があるから、あんたでも参加できるぜ。用紙に名前書いてくれよ」
アスカに根負けした男性は、ぶっきらぼうに用紙を受付の上に出し、一緒にペンを用紙の上に転がす。
その用紙を見たアスカは目を輝かせ「サンキューおっちゃん!」と返すと、用紙を持ってリース達の元へと戻ってきた。
「お待たせ! 合同作戦の参加用紙貰ってきたよ!」
アスカはぷらぷらと手を横に振りながら、リースに向かって用紙を突き出す。
そこには既に数十人の名前が記入されており、作戦規模の大きさを物語っていた。
リースはそんな用紙を両手で受け取り、笑顔でアスカへと言葉を返した。
「ありがとう、アスカさん! これで僕たちも作戦に参加できるね!」
「ほんと、よくやってくれたわぁ」
リースとセラは共に笑顔を浮かべ、アスカに向かってお礼の言葉を紡ぐ。
アスカは両手で自分の頭をわしゃわしゃと撫で、恥ずかしそうにしながら返事を返した。
「やーやー、たいしたことはしてませんですじゃ。それよりほら、早く名前書いちゃおう?」
アスカの言葉を受けたリースは「うん!」と元気良く返事を返し、アスカからペンを受け取る。
そうして三人分の名前を記入し終わった後、リースがアスカに用紙を返そうとした瞬間、リースは参加者の名前に見覚えのある字面があることに気付いた。
「ん……あれ!?」
リースは両手で用紙を掴み、参加者の中の一人の名前をじっと見つめる。
そんなリースを見たアスカは、頭に疑問符を浮かべながら首を傾げて質問した。
「リースちゃん、どったの? 知り合いの名前でも書いてあった?」
「う、うん。このレン=ベレーム=ガルスフィアって……魔術学園都市のレンと同じ名前なんだ」
「え、マジで!? さっき話してた子じゃん!」
アスカは素早くリースの後ろに移動し、リースの肩に顔を乗せると用紙を覗き込む。
するとその用紙には確かに、レンの名前が記入されていた。
「おお、ほんとだ! フルネームが書いてあるから別人ってわけはないし、あのレンちゃん、だよね?」
アスカはリースの肩から離れるとしゃがんだまま首を傾げ、リースへと質問する。
リースは真剣な表情で用紙を見つめながら、こくりと頷いて返事を返した。
「うん。あのレンだと思う。でも、どうして? まだ学園にいるとばかり思ってたのに―――」
「あの時も、言ったでしょう? 僕はいつかリリィさんに追いつくと。そのために、ハンターになったんですよ」
「えっ!?」
突然背後から響いてきた声に驚き、振り返るリース。
その視線の先では、きっちりと整えられた金髪の前髪を横に流している少年が、不機嫌そうな表情でリースを見つめていた。
「れ、レン!? レンなの!?」
リースは両目を見開いて驚き、レンに向かって言葉を紡ぐ。
そんなリースの言葉を受けたレンは、ますます不機嫌そうな様子で眉間に皺を寄せていた。