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第203話:到着・クロックオーシャン

 リリィ達を乗せた船は大きな港町に到着し、船の上からは白塗りの建物が規則正しく並んだ美しい街並みが見えている。

 そんな街並みを見たアスカは船を飛び降り、船着場をハイテンションで飛び跳ねた。


「うおー! すっごい綺麗な街! なにここ観光地ってやつ!?」


 アスカは興奮した様子で両手を握り込み、きょろきょろと街並みを見つめる。

 そんなアスカの視線の先では果物の屋台やジュースの屋台の店主が嬉しそうに手を振り、笑顔で船の乗客たちを迎えている。

 船から降りる乗客たちは、屋台の店主一人一人にぶんぶんと手を振り返すアスカを、微笑ましそうに見つめていた。

 やがてリリィは船から降り、頭に大粒の汗を流しながら興奮した様子のアスカに向かって言葉を紡いだ。


「とりあえず、落ち着こうアスカ。頼むからあまり目立たないでくれ」


 竜族の追っ手の事を考えれば、リリィとしてはあまり目立ちたく無い。

 タダでさえ一行はそれぞれが目立つ見た目なのだから、せめて立ち振る舞いくらいは街に溶け込みたかった。


「でも確かに、綺麗な街だねぇ。住んでる人もみんな楽しそうだし」


 リースはリリィと一緒に船から降りると、アスカと一緒になって街を見回しながら言葉を紡ぐ。

 そんなリースの言葉に反応し、遅れて船を降りたイクサが口を開いた。


「ここは大陸最大の港町“クロックオーシャン”ですね。観光事業が盛んで、常に温暖な気候であることから、いつも多くの観光客で賑わっています」


 イクサはしゅぴっと右手を街の方へ差し出し、まるで観光ガイドのようにクロックオーシャンの概要を説明する。

 そんなイクサの言葉を聞いたアスカとリースは、同時に「おおーっ!」と声を上げて感激し、惜しみない拍手を送った。


「平和なのは結構だけどよ、つえーモンスターはいねえのか? 船旅が長かったせいで、身体がなまっちまってしょうがねえ」

「貴様は本当に、いつでも変わらないな……」


 出会った頃からほとんど変わっていないアニキの言動を受け、片手で頭を抱えるリリィ。

 どうやらこの街でもいつでも、アニキに“目立つな”という方が無理な注文らしい。

 そうして苦心しているリリィを見つけたリースは、困ったように眉を顰め、ぽんぽんと優しくその背中を撫でた。


「えっと、元気だしてリリィさん。船長さんの話だと、この街はごはんも美味しくて最高だって言ってたよ?」

「うう、ありがとうリース。そうだな、落ち込んでいても仕方ないか」


 慰めるように背中を撫でてくれるリースを見て気を取り直し、その顔を上げるリリィ。

 しかしその瞬間、唐突にリースの身体はセラによって抱き上げられ、リースは自身の後頭部に暖かく柔らかなものを感じた。


「ふふっ……この街は宿の質が良いことでも有名なのよぉ? ね、リース。私と一緒の部屋に泊まるぅ?」


 セラは妖しい笑顔を浮かべながら、気持ちよさそうにリースに頬ずりする。

 そんなセラを見たリリィは、目を見開いて声を荒げた。


「いっ、いきなりリースを誘惑するな! お前は見境なしか!」

「あら失礼ねぇ。こんなことするのはもうリースだけよぉ?」


 セラはぷくーっと片頬を膨らませ、不満そうにリリィへと言葉を返す。

 そんなセラの言葉を聞いたリリィは、胸の下で腕を組みながら返事を返した。


「ふん、怪しいものだな。お前の言葉など信用でき―――」

「ふふっ。それなら今夜、あなたの身体で試してみるぅ?」


 セラはいつのまにかリリィの背後に現れ、後ろから手を回してリリィを抱きしめつつ、囁くように言葉を紡ぐ。

 耳をくすぐるような声にリリィは両目を見開き、顔を真っ赤にしながらセラの両手を振りほどいた。


「なっ……ばっ……馬鹿者! お前やっぱり、見境なしじゃないか!」


 リリィは顔を真っ赤にしながら自身の耳を押さえ、乱れた呼吸で言葉を発する。

 そんなリリィの様子を見たセラは、楽しそうに笑いながら返事を返した。


「ふふっ、あら可愛い。結構うぶなのねぇ?」

「……う、うるさい!」


 セラに痛いところを突かれたリリィは、不満そうに頬を膨らませながらそっぽを向く。

 リースはそんなリリィを心配そうに見上げていたが、アスカはキラキラとした瞳でセラを見つめていた。


「ねえねえセラっち! セラっちってもしかして、恋愛経験豊富ってやつ!?」


 アスカは自身の両頬に手を当て、セラに向かってずいと身体を寄せながら質問する。

 そんなアスカの質問を受けたセラは、妖しい笑顔を浮かべながら返事を返した。


「そうねぇ……まあ、それなりに経験してるわぁ」

「マジっすか! その話詳しく聞かせて!」


 アスカはさらにセラへと近づき、好奇心の塊のような瞳でセラを見つめる。

 純粋なアスカの瞳を見たセラは、楽しそうに笑いながら返事を返した。


「いいわよぉ? 外で話すことでもないから、部屋が決まったら話してあげる」

「ひゃっほう! やったぜ! イクサっちも聴きたいっしょ!?」


 アスカは満面の笑顔で飛び上がり、イクサの立っていた方へと顔を向ける。

 しかしイクサはいつのまにかセラの傍に移動し、興味津々で二人の話を聞いていたようだ。


「無論ですアスカ様。今宵はとびきりの宿を準備しましょう」


 無表情のまま淡々と言葉を紡ぐイクサだったが、その白い瞳はどことなく輝いているような気がしなくもない。

 アニキはそんなイクサの後ろで退屈そうにあくびをすると、やがて口を動かして言葉を紡いだ。


「まあなんでもいーけどよ、そろそろ今日の宿探そうぜ? 俺腹減っちまったよ」


 ボリボリと頭を搔きながら、ぶっきらぼうに言葉を発するアニキ。

 そんなアニキの言葉を聞いたリースは、キラキラと瞳を輝かせた。


「あ、賛成! 僕もお腹ぺこぺこだよ!」


 アニキの言葉に賛同し、両手を挙げながらぴょんぴょんと飛び跳ねるリース。

 セラはそんなリースを背後から抱きしめると、再びその頭に頬ずりした。


「ふふっ、やっぱり可愛いわぁ。それじゃ“こわぁいお姉さん”は放っておいて、宿を探しましょうか」


 セラはリースに頬ずりしながら、挑発するようにリリィへと視線を向け、言葉を落とす。

 そんなセラの言葉を聞いたリリィは、頬を赤くしたまま声を荒げた。


「誰が“怖いお姉さん”だ! 宿を探すのはいいが、男女は別室だぞ! これは譲らんからな!」


 リリィは胸の下で腕を組み、セラを睨みつけながら言葉をぶつける。

 想定通り噛み付いてきたリリィを楽しそうに見つめ、セラは「はぁーい」と気のない返事を返す。

 そんなセラの返事を聞いたリリィはさらに顔の温度を上昇させ、噛み付くように言葉をぶつけていた。

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