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第190話:空の死闘

 セラは自身の背中に生えた大きく白い翼を羽ばたかせながら、地上に立っているリリィの赤い瞳を見つめる。

 リリィは地上からセラを見上げていたが、やがてその背中に生えた黒い翼を大きく開いてみせた。


「っ!?」


 初期動作を見たセラは警戒し、大鎌を自身の身体の前に構える。

 しかしセラが一度瞬きした瞬間、リリィの姿は忽然と消え、セラは驚きに目を見開いた。


「え―――っ!?」


 背中を駆け上がってくるような悪寒を感じたセラは咄嗟に空間を歪め、自身の身体をさらに上空へと転送する。

 元々セラの立っていた場所にはいつのまにかリリィが出現し、ガントレットに包まれた手で空中を引っ掻く。

 まるでドラゴンのようなその爪撃による衝撃は凄まじく、リリィの正面遠くに聳え立っていた山が四本の爪の形に切り裂かれ、地形が大きく崩れた。

 力なく崩れていく山を見たセラは、その顔から血の気が引いていくのを感じ、言葉を落とした。


「なんてスピードと威力……無茶苦茶じゃなぁい」


 セラはその額から一滴の汗を流し、ごくりと喉を鳴らす。

 しかしリリィはそんなセラに構うことなく、咆哮を響かせながらセラの目の前まで飛行し、赤い瞳で正面からセラを射抜いた。


「オオオオオオオオオオオオオオオ!」

「くっ。速い……!?」


 リリィの移動してくる気配を感じ、咄嗟に自身の身体の前の空間を歪ませていたセラ。

結果としてリリィの爪は歪んだ空間に吸い込まれ、その爪がセラに届くことは無い。

 しかし近距離で感じる赤い瞳のプレッシャーに、セラは押しつぶされそうだった。


「ちぃっ……!」


 臆している自分を感じたセラは、その感情を振り払うように端正な顔を歪めながら大鎌をリリィに向かって振り下ろす。

 しかしリリィは鎌の軌道を即座に看破し、ガントレットに包まれた左手の指二本でその刃を受け止めた。


「なっ……くっ。離しなさぁい!」

「…………」


 リリィはセラの言葉に反応することなく、受け止めた刃をそのまま二本の指で挟みこむ。

 セラは腕の力と背中の翼を羽ばたかせてリリィから大鎌を開放しようとするが、二本の指に掴まれた大鎌はピクリとも動かない。

 やがてリリィは赤い目を見開くと、空いている右手で拳を作った。


「まずっ……!?」


 その拳からただならぬ気配を感じたセラは大鎌を諦めてその柄から手を離し、空間を歪めてリリィの背後へと自身の身体を転送する。

 直後に繰り出されたリリィの拳は空を切り、その身体に大きな隙が生まれた。

 リリィに掴まれていた大鎌はすでに捨てられ、地面に向かって落下している。

 しかしリリィの無防備な背中に千載一遇のチャンスを感じたセラは精神を集中して空間を歪め、空中を落下する大鎌を自身の上へと転送し、その柄を両手で握り締めた。


「ふふっ。隙だらけ……よぉ?」


 セラは妖しい笑顔を浮かべながら、拳を振りぬいたばかりのリリィの背中へ大鎌を振り下ろす。

 その鎌の刃がリリィの身体を貫こうという刹那、リリィはギロリと赤い瞳をセラに向け、自身の背中に生えた黒い翼を羽ばたかせた。


「っ!?」


 セラの大鎌は空を切り、リリィの元いた空間には何も存在していない。

 セラは自身の身体を縦回転させて振り下ろした大鎌の勢いを殺すと、キョロキョロと周囲を見回した。


「そんな。気配が、ない……っ!?」


 忽然と消えたリリィの気配。

 空間を掌握する自分が、対戦相手の気配を感じられないわけがない。

 しかし現実に、リリィの気配は完全に消えている。

 その事実にセラの思考は追いつかず、動揺した様子で周囲を見渡していた。

 そして次の瞬間、足元から瞬時に湧き出してきた強烈な殺気がセラの背中を冷たく走り、反射的にセラは翼を動かして身体を横にスライドさせる。

 その直後リリィはセラの足元から身体を上空に浮き上がらせながら、強烈なアッパーカットを繰り出す。

 セラの眼前を下から上に、リリィの拳が通過する。その拳によって発生した風で、セラの身体は中心から大きく切り裂かれ、鮮血が赤い花のように飛び散った。

 怪我を負ったセラだったが、事前に直感で回避していなければ、今頃リリィの拳で身体は粉々になっていただろう。

 その事実を把握したセラは、悔しそうに奥歯を噛み締めた。


「そう、それでいい。真の死闘の中では、特殊能力はひとつの武器でしかない。最後に勝敗を決するのは気迫と……本能だ」


 リリィは黒い翼を羽ばたかせながら浮遊し、赤い瞳で真っ直ぐにセラを睨みつけて言葉を紡ぐ。

 セラは切り裂かれた身体を抱きしめるように抱えながら、青い瞳でリリィを見返した。


「くっ……ふふっ。私の身体に傷を付けたのは、あなたが初めてよぉ?」


 セラは吹き出してくる鮮血を自身の手で受け止めながら空中に浮遊し、リリィに向かって言葉を返す。

 リリィはゆっくりとした動作で右拳をセラに向かって突き出すと、そのまま言葉を続けた。


「そうか。ならば……次の一撃で終わりにしてやる」


 リリィは真剣な表情で言葉を発し、右拳を強く握り込む。

 その拳からは異様な殺気が発せられ、セラの背中に冷たいものが走る。

 しかしセラは真っ直ぐにリリィを見つめ、余裕のある笑顔を浮かべながら返事を返した。


「ふふっ。いいわぁ。やってみなさぁい?」


 セラは無防備に両手を開き、妖しい笑顔を浮かべる。

 リリィは背中の翼を大きく動かすと、一瞬でセラとの距離を詰め、腹部に向かってその拳を突き出した。


「なーんて……ねぇ♪」

「っ!?」


 セラに向かって突き出されたはずのリリィの拳は歪められた空間の中に消え、肘から先が完全に消失する。

 しかし次の瞬間、リリィの腹部前の空間が歪み、そこからリリィの拳が突き出されてきた。


「なっ……」


 自身の突き出した拳を、そのまま自分に返される。

初めて経験するその現象に驚愕し、両目を見開くリリィ。

 驚異的な速度と威力を持ったその拳は的確にリリィの腹部を狙い、風を切り裂きながら突き出される。

 セラは勝利を確信し、その青い目を細める。

 しかしその拳がリリィの腹部に激突しようというその刹那、再びリリィの気配と姿が忽然と消えた。


「っ!? そんな、あの速さを避けるなんて!?」


 セラは驚愕に目を見開き、周囲の状況を確認する。

 その時自身の上空から殺気を感じたセラは目を見開き、自身の翼を動かそうと背中の神経に命令を走らせる。

しかし血を失いすぎたせいか、どうにも翼の動きが鈍い。

仕方なくセラは自身のいる空間を歪ませ、その身体を横にスライドさせた。

 セラの位置からさらに上空から、リリィは逆さまになりつつ地面に向かって拳を突き出す。

 セラの元いた場所にはリリィの拳が突き出され、その先の地面にはクレーターのような穴が生成された。

 地面からは大量の土煙が舞い上がり、セラとリリィを包み込む。

 セラは自身の身体を抱くようにしながら、背中の翼を羽ばたかせて空中を浮遊し、苦々しそうに言葉を発した。


「能力の使いすぎ。それに血を失いすぎた、わぁ。今日のところは撤退して、あげる……」

「っ!? 待て!」


 セラは空間を歪ませるとその中に自身の身体を入れ、別の場所へとその身体を転送する。

 リリィはそんなセラへ右手を突き出すが、その身体を掴むことはできなかった。


「くそっ。完全に逃がした、か……」


 セラの気配が遠くなっていくことを感じたリリィはその瞬間強烈な脱力感に襲われ、動かしていた背中の羽もその運動を止める。

 必然的にリリィの身体は地上に向かって落下し、クレーターの中心へと落ちていく。

 やがて地面に落下したリリィの身体に、黒い羽と尻尾が徐々に仕舞われていく。

 最後には巨大なクレーターの中央に、横たわったリリィだけが残されていた。

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