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第181話:夜の帳の中で

 温かい風が街の中を吹き抜ける夜。おもちゃの散乱した部屋に淡い青色の光が差し込み、微かにその中を照らす。

薄暗い部屋の中では、何かが軋むような音だけが一定のリズムを守りながら響いている。

 部屋の隅に置かれたベッドの上では金色の髪が上下に跳ね、誰のものかもわからない汗が散っている。

 部屋の主である少年は頬を赤くしながら、自身の上に乗っている女性へ声にならない声を響かせた。

 そんな少年の声を聞いた女性は、唇を濡らしながら妖しく微笑む。


「ふふっ……だめよぉ。もっとがんばって?」


 女性は声を上げる少年を見下ろしながら、その美しい声を響かせる。

 上下する金色の長い髪は女性の背中に生えた純白の翼に包まれ、少年の小さなベッドはその大きく白い翼に覆われる。

 そんな白い翼に包まれた空間の中。少年は荒い呼吸を繰り返しながら沸きあがってくる快楽に混乱し、自身の横にあったその翼を無造作に掴んだ。


「あんっ……だめよ。それは触っちゃだめ」

「んむっ……!?」


 女性は少年に覆いかぶさるように身体を屈め、母の感触しか知らなかった少年の唇を優しく奪う。

 柔らかく暖かな唇の感触に少年が呆けていると、女性はその身体の動きを早め、ベッドは一層激しく軋んだ。


「あっ……あっ……!?」


 少年は目を見開き、その視界が一瞬真っ白になる。

 初めての感覚に、どうすれば良いのかわからない。

 浮き上がるような開放感と快楽に支配された少年はやがてぐったりと力を失い、乱れた呼吸を繰り返しながら天井を見つめた。


「ちょっとせっかちさんねぇ……でも、素敵だったわぁ」

「あ……」


 窓からの微かな光が、少年の上の女性を柔らかに照らし出す。

 白い布を全身に纏った身体は豊満で、大きな胸には一滴の汗がゆっくりと流れる。

 金色の美しい髪は玉のような肌に張り付き、美しく輝く。

 青く鮮やかな瞳は満足げに少年を見下ろし、赤い唇は穏やかに微笑む。

 その背中からは大きな白い翼が広がっており、そんな女性を見上げた少年は、その女性が女神か天使であると確信した。


「んー……残念。ハズレよぉ」


 女性は小さく微笑みながら、優しく少年の唇に細い指を当てる。

 自身の考えを読み取られた少年は呆然と目を見開くが、美しく上気した女性の肌と包み込むような花の香りに思考力を奪われ、女性の瞳をぼうっと見返す。

 女性はそんな少年の状態を見抜いているのか、妖しく微笑みながら少年の顔へ自身の顔を近づけ、少年の耳を甘噛みした。


「ひぅっ……!?」


 少年は初めて感じる感覚に戸惑い、その小さな身体を跳ねさせる。

 突き上げられる形となった女性は満足げに笑うと、少年の耳元に唇を近づけ、ささやくように呟いた。


「ね……気持ち、よかったぁ?」

「……っ!」


 とろけるような女性の声に再び少年の身体は反応し、下半身に力がこもる。

 そんな少年の気配を感じた女性は、嬉しそうに笑いながらその頭を上げた。

 再び少年を見下ろした女性は、妖しく微笑みながら少年へと問いかける。


「ね……もっと、したい?」


 女性は妖しい笑顔を浮かべながら、小さく首を傾げて少年へと尋ねる。

 ぼーっと頬を赤くした少年は、意識がはっきりしないながらも快楽を求め、こくこくと頷く。

 そんな少年の答えを受け取った女性は、嬉しそうに微笑んだ。


「正直なんだ。私、素直な子って大好きよぉ?」

「あ……」


 再びゆっくりと上下する、女性の身体。

 少年が再び快楽に身を落とそうとしたその刹那、階段を上ってくる足音が部屋の中へと響いてきた。


「ぁん……残念。ここまでみたいねぇ」

「えっ……」


 女性は不満そうに眉を顰めるが、その口元は微笑んだまま言葉を発する。

 そんな女性の言葉を少年が理解するより先に、女性は少年の上から移動し、開かれた窓の窓枠に腰掛けていた。


「あのっ。おねえ、ちゃん……」


 少年は朦朧とした意識で、窓枠に腰掛けた女性へと言葉を発する。

 女性はその金色の髪と純白の翼を夜風になびかせながら、人差し指を自身の口元に当てた。


「今日のこと、ないしょにしてねぇ? ……ふふっ」


 女性は窓枠から外へと飛び出し、純白の翼を羽ばたかせて街の夜空へと飛び去っていく。

 乱れた呼吸を繰り返す少年は、汗だくになりながら自身の部屋の窓を見つめ続け―――

 やがて少年の部屋には、一本の白い羽だけが残されていた。

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