第173話:人と精霊の間で
「あの、ウィルド様。リースがウィルド様の息子というのは、どういう……?」
リリィは困惑した様子で、ウィルドに向かって恐る恐る質問する。
ウィルドはポリポリと頬を搔きながら、にっこりと微笑んで返事を返した。
「どういうも何も、そのままの意味だよ。リースは俺と人間の子の間にできた子どもなんだ。要するに大精霊と人間のハーフだね」
「それは、また……」
「とんでもない話になってきたねぇ」
アニキとアスカは同じようにぽかんと口を開き、ウィルドの言葉を素直に受け止められずにいる。
しかし最も現実を受け止められずにいるのは、当の本人であるリース自身だった。
「あの、えと、僕がウィルドさんの息子ってことは、えっと、ウィルドさんが僕のお父さんで、お母さんは、えっと……」
「落ち着け、リース。気持ちはわかるが」
リリィはぽんっとリースの頭に手を乗せ、落ち着かせようとその頭を撫でる。
手甲に包まれたリリィの手に撫でられたリースは、小さく息を落として呼吸を整えた。
「悪い悪い。いくらなんでも突然すぎたかな。まあでもリースが俺の子ってのは事実だし、嘘は言ってないよ」
ウィルドは頭の後ろで手を組みながら、あっけらかんとした様子で言葉を続ける。
そんなウィルドの言葉を聞いたイクサは、これまでのリースの姿を思い出しながら質問を返した。
「リース様が創術を使用する際、何故か突風が巻き起こって創術を妨害してきました。これはウィルド様と関係があるのでしょうか?」
イクサは一行の中で唯一冷静な様子で、片手を上げながらウィルドへと質問する。
そんなイクサの質問を受けたウィルドは、恥ずかしそうに頭を搔きながら返事を返した。
「ああー、そうなんだよ。リースはまだ小さいのに創術なんて使おうとするから心配でさ。風を使って警告してたんだけど、リースの奴全然めげずに創術使っちまうんだもんなぁ」
「あっ……ご、ごめんなさい。僕、あれが警告だとは思わなくて……」
リースは眉を顰め、申し訳なさそうにウィルドへと頭を下げる。
そんなリースを見たウィルドは、両手をぶんぶんと横に振って返事を返した。
「あーいや、俺も過保護だったっつーか、心配しすぎてたわ。実際お前は創術を成功させて、今やウィンドドラゴン討伐にも一役買うほどの腕前になった。これからはもう妨害なんてしねえよ」
ウィルドは膝を折ってしゃがみ、リースと視線の高さを合わせながら言葉を紡ぐ。
そんなウィルドの言葉を受けたリースは、困惑した様子で「あ、ありがとう……」と返事を返していた。
「ウィルド様。他にもお伺いしたいことがあります。私の誕生も、ウィルド様の介入によるものなのでしょうか?」
イクサは淡々とした調子で、次の質問をウィルドへぶつける。
そんなイクサの言葉を聞いたウィルドはイクサへ視線を向けながら返事を返した。
「ああ、そうだよ。リースが自分のレベルも顧みずに人体練成なんて無茶やって失敗したから、それに乗じて俺達の代わりにリースを守ってくれる存在を作り出したんだ。これに関しては俺というより水の大精霊“アクア”がやってくれたんだけどな。生命の誕生はあいつの管轄だし」
ウィルドは淡々とした調子で、イクサの質問に答える。
そんなウィルドの言葉を聞いたイクサは少なからず動揺した様子で、返事を返した。
「私は、リース様を守る為に作られた……つまり私には、それ以外のことをする権利がない。ということでしょうか」
イクサは少しショックを受けた様子で目を伏せ、ウィルドへと言葉を紡ぐ。
そんなイクサの様子をアニキは心配そうに見つめていたが、次の瞬間ウィルドから明るい調子の声が返って来た。
「ま、それも誕生当時の話さ。今やイクサちゃんはひとつの生命体として立派に存在してるし、イクサちゃんのやりたいように生きりゃいい。既に人間……いや女性らしい感情も、すっかり持っちまってるみたいだし?」
ウィルドは横目でアニキに視線を送りながら、ニヤニヤと微笑む。
そんなウィルドの様子から自身の感情を読まれていることを悟ったイクサは、頬を赤くして俯いた。
「それにしても、私を造ったのが水の大精霊アクア様なら、是非一度お会いしたいものです。その方が私のお母様? にあたるということですので」
イクサは赤くなった頬をぶんぶんと横に振って熱を逃がすと、再びウィルドに向かって言葉を発する。
そんなイクサの言葉を受けたウィルドは、慌てた様子で手を横に振って返事を返した。
「あー、やめとけやめとけ。アクアは母性本能の塊みたいな姉ちゃんだからな。多分会ったら百年は抱きしめたまま離してくれねーぞ」
「それは困りますね……」
イクサは眉を顰め、残念そうな様子で返事を返す。
そんな二人の会話を見守っていたリリィだったが、やがて聞くべきことがあることに気付き、ウィルドへと言葉を発した。
「ウィルド様。リースがウィルド様の子どもというなら、ウィルド様が今回姿を現したのは、リースを連れて行くのが目的、ということでしょうか」
「っ!?」
核心を突いたリリィの質問に、驚きながらその顔を見上げるリース。
リリィは心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、ウィルドからの返事を待った。
「あー……うん。それなんだけどな……」
「???」
リリィの質問に対し、ウィルドは珍しく歯切れの悪い様子で頭を搔く。
そんなウィルドの姿を見たリリィは、不思議そうに首を傾げながら、高鳴る胸の鼓動を抑えて返事を待っていた。