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第172話:突然の衝撃

「どう? 竜の娘。ちょっとは落ち着いた?」

「は、はい。大丈夫です。申し訳ありません」


 目を覚ましたリリィは親しげに話しかけてくるウィルドに動揺しながらも、かろうじて返事を返す。

 表情が硬いリリィを見たアニキとアスカは、二人してウィルドの肩に腕を回しながら言葉を紡いだ。


「なーに緊張してんだよ。こいつ結構良い奴だぜ?」

「そうそう。ウィルドっちマジ良い奴」

「世界を創造した神の肩に腕を回すな! 無礼にもほどがあるぞ!」


 リリィは眉間に皺を寄せながら、アニキ達に向かって言葉をぶつける。

 そんなリリィの言葉を聞いたウィルドは、大声で笑いながら返事を返した。


「あっはっは! まあまあ、別にいーって。俺は結構人間の子も好きだし、気にしないよ」

「そ、そうですか。それなら良いのですが……」


 リリィは頭部に大粒の汗を流しながら、アニキ達と一緒になって笑い声を響かせるウィルドを見つめる。

 そんなリリィの後ろから、目を覚ましたイクサとリースが歩いてきた。


「まさか風の大精霊にお会いできるとは、思いもしませんでした。各種文献に残されているイメージとは大分異なりますが、マスターのお話を聞く限り間違いはないでしょう」


 イクサは冷静な様子でウィルドを見つめ、小さく言葉を落とす。

 そんなイクサの言葉を聞いたリースは、頷きながら返事を返した。


「うん。大精霊様ってもっと“神様~!”って感じがすると思ってたけど、なんか普通の人間みたいなんだね」

「……そうだな。そこは確かに私も驚いているが―――」

『グォオオオオオオオオオオオオオオオ!』

「っ!?」


 リリィの言葉を劈くように響く、ウィンドドラゴンの咆哮。

 どうやら気絶した状態から覚醒したらしく、興奮した様子で荒い呼吸を吐き出している。

 素人目から見ても、怒り狂っているのは明らかだ。


「まずいな……ドラゴンが目を覚ましたぞ。逃げ切れるか?」


 リリィは剣の柄に手をかけながら、荒い呼吸を繰り返すドラゴンを真っ直ぐに見据える。

 しかしそんなリリィの前に、ウィルドがポケットに手を入れた状態でふらふらと歩みだした。


「っ!? ウィルド様、危険です! ウィンドドラゴンは興奮しています!」


 リリィは右手をウィルドへ伸ばしながら、心配そうに言葉を紡ぐ。

 そんなリリィの言葉を受けたウィルドは、微笑みながらぷらぷらと片手を横に振った。


「あ、へーきへーき。こいつとは長い付き合いだし、ちょっとなだめてくるわ」


 ウィルドは朗らかに笑いながら、てくてくとドラゴンへ近づいていく。

 ドラゴンは半狂乱になってウィルドへ襲い掛かるが、ウィルドは一瞬にしてドラゴンの肩に乗ると、小さく言葉を落とした。


「父子の再会を邪魔するんじゃなーいの。めっ」

『グオオオオオオオオオオオオオオ!?』


 ウィルドが右手を使ってドラゴンの頬にデコピンを打ち込むと、ドラゴンの顔面はへし折れるようにひしゃげ、その巨体はゴロゴロと地面を転がりながら対面の山を突き抜けて平原まで吹き飛ぶ。

全身に傷を負ったドラゴンは口から泡を吹き、そのままピクリとも動かなかった。

 その圧倒的な威力に言葉を失ったリリィは、土煙の中でぽかんと口を開く。

 ウィルドはぽりぽりと頬をかくと、リリィ達へと向き直って言葉を紡いだ。


「ま、あいつ頑丈だからだいじょぶだろ。これでゆっくり話ができるね」

「え? あ、はい……」


 リリィはウィルドの圧倒的な力に驚愕し、ぽかんと口を開けた状態で返事を返す。

 そんなリリィの言葉を聞いたウィルドは相変わらずのんびりとした様子で、ゆっくりと歩いてきた。


「は、ははは……さすがは神様。ハンパじゃないね」

「まあ、正確には風精霊の王だが……ハンパじゃねえのは同意する」


 アニキとアスカは引きつった笑顔を浮かべながら、のんびりと歩いてくるウィルドを見つめる。

 やがてウィルドはリリィ達の前まで歩みを進めると、両手をポケットに入れたままで少年のように歯を見せて笑った。


「まあまあ。お前らだってあのウィンドドラゴンを失神させたんだから充分凄いぜ? よくもまあこんな化け物みたいなメンツが揃ったもんだよ」


 ウィルドは腕を組みながらリリィ達を見渡し、うんうんと頷いて言葉を発する。

 そんなウィルドの言葉を受けたアニキは、額に汗を流しながら返事を返した。


「いや、あんたに化け物とは言われたくねえよ」

「たしかに!」


 アスカはアニキの言葉に同意し、うんうんと頷いてみせる。

 そんなアニキの言葉を聞いたウィルドは「そっかー! あっはっはっは!」と大口を開けて笑い出した。


「それより、ウィルド様。先ほどおっしゃっていた“父子の再会”とはどういう意味でしょうか。私はそちらの方が気になります」

「はっ!? そ、そうだな。私もそれが気になっていた」


 イクサはぴっと片手を上げながら、ウィルドに向かって質問する。

 そんなイクサの言葉を聞いたリリィは意識を取り戻し、勢い良く頷きながらその言葉に同意した。

 イクサの質問を受けたウィルドは、にいっと笑いながら返事を返す。


「ああ、あれ? そのまんまの意味だよ。そこにいるリースは俺の息子だから」

「ああ、なるほど。リースがウィルド様の息子。それなら…………はああああああああああああ!?」


 リリィはウィルドの言葉を受けると、動揺した様子で言葉を返す。

 一方リースは呆然としながら、小さく言葉を落とした。


「えっ……僕の、おとうさん……!?」


 突然の事態についていけず、斜めがけにした鞄の紐を強く握り締めるリース。

 ウィルドはそんなリースを真っ直ぐに見つめると、柔らかな笑顔を浮かべて暖かな視線を送っていた。


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