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第171話:風の大精霊

「あっはっは! まあアニキちゃんの言うことはもっともだけど、ここは俺を信用してくれよ。どっちにしろ三人を次の街まで担いでいくのはリスクが高いだろ?」


 ウィルドはポリポリと頬を搔きながら、アニキに向かって言葉を紡ぐ。

 その毒気の無い表情を見たアニキは、小さくため息を落としながら返事を返した。


「……ちっ、まあいいか。どうせドラゴンが目覚めたら全滅なんだ。こうなりゃヤケだぜ」


 アニキは震える膝を無理矢理押さえつけ、泉に向かってゆっくり近づいていく。

 そうして自力で水までたどり着いたアニキは、左手を動かして水の溜まった陶器の器に入れ、中に溜まっている水を口に含んだ。


「んっ……んっ……んん!? んめえ! しかも怪我が治ってやがる!」


 アニキは手の甲で口を拭いながら、初めて感じる味と喉越しに驚愕する。

 さらに自身の身体に刻まれていたはずの傷が全て癒え、疲労感も無くなっていることに驚いていた。


「でしょ~!? この水めちゃウマだよね!」


 両目を見開いたアニキに満足そうに頷き、アスカは腕を組んで何故かドヤ顔を見せる。

 アニキは頭に大粒の汗を流しながら、そんなアスカへとツッコミを入れた。


「いや確かに美味えけど、なんでお前が偉そうなんだ?」

「えへへ、ごみんごみん。それよりほら、三人にも飲ませてあげようよ!」


 アスカは慌てて両手を使って水をすくうと、リリィへ向かって駆け寄っていく。

 そんなアスカの背中を見送ったアニキは、小さくため息を落としながら手で水をすくってイクサ達へと飲ませていった。


「うう、ん。私は一体……」

「お、リリィっち気付いたね~。大丈夫かい?」


 水を飲んだリリィはすぐに意識を取り戻し、空から降り注ぐ日差しの強さに目を細める。

 そんなリリィの視界の中では、アスカが歯を見せて笑っていた。


「あのね! イケメン水がマジで凄いの! 突然地面から湧き出てきたんだけど、傷が治って疲れも吹っ飛ぶんだよ!」

「ああ……なるほど。何一つわからないな」


 リリィは素っ頓狂な発言をするアスカに辟易した様子で、ぐったりと返事を返す。

 そんなリリィを横目で見たアニキは、イクサ達を起こしながら返事を返した。


「要するに、そこにいる男……ウィルドが、俺達を助けてくれたんだよ。どうやったんだかさっぱりだがな」

「どーもー、ウィルド=カムイっす。よろしく~」


 ウィルドはアニキの言葉を受けると、しゅぴっと片手を上げ、朗らかな笑顔を浮かべながら言葉を紡ぐ。

 そんなウィルドの自己紹介を聞いたリリィは、驚愕に目を見開いて立ち上がった。


「う、ウィルド!? ウィルド=カムイだと!?」

「おおっ!? リリィっちいきなり元気だね~」


 突然立ち上がったリリィを見上げ、能天気な声を響かせるアスカ。

 リリィはそんなアスカを気にする事もなく、曲げた人差し指を顎に当てて思考を回転させた。


『大量の風の水晶。存在すら夢物語と言われるウィンドドラゴンの襲来。さらに黄緑色の髪をした青年で、ウィルド=カムイという青年の登場。全身の傷を一瞬で治癒する水の精製。この一連の出来事を繋げると、考えられるのは―――』

「ま、まさか……あなたは風の大精霊、ウィルド=カムイ様?」


 リリィは震える指先でウィルドを指差すと、同じくらい震える喉でかろうじて言葉を紡ぐ。

 そんなリリィの言葉を聞いたウィルドは、反対にリリィを指差しながら元気良く返事を返した。


「それせいかーい! よくわかったな竜の娘! 確かに俺が大精霊のウィルドだ!」


 ウィルドはえっへんと胸を張りながら、にいっと笑って言葉を返す。

 そしてその言葉を受けたリリィは、驚きのあまりゆっくりと意識を手放し、硬直した状態で後ろへと倒れた。


「ちょ、リリィっち!? 水! イケメン水もっと持ってきてー!」


 薄れゆく意識の中で、アスカの声を頭の中に響かせるリリィ。

 そんなアスカの言葉を聞いたリリィは心の中で「イケメン水はやめろ」ツッコミを入れながら、再びその意識を手放していった。


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