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第168話:勝ちだ!

「まだだ……まだあたしの仕事は、終わってない!」


 アスカは奥歯を噛み締めながら、うつ伏せになって呻いているドラゴンの身体の下へと潜り込む。

 やがて上に見えるドラゴンの腹へ標的を定めると、二本の刀を振りかぶった。


「もっかい行くよ、お姉ちゃん! 陰陽一閃……白夜・光刃!」

「……っ!」


 アスカが二本の刀の間に光の刃を生み出すと、カレンも再び光の刃へ自身の西洋剣を突き刺す。

そうして輝きを増した光の刃を身体の下から抉り出すように振り抜き、自身の上にあるドラゴンの腹部へと激突させる。

 ドラゴンは腹部に走った衝撃に驚くが、その時にはもうその巨体が、空中へと打ち上げられていた。

 光の刃は光の柱へと姿を変え、巨大なドラゴンの身体を空中へと打ち出す。

 ドラゴンは両翼を動かして姿勢を整えようともがくが、先ほどの怪我で両翼が上手く動かない。

 そんなドラゴンの様子を見たアスカはぐったりと地面に大の字になって倒れ、アニキに向かって言葉を発した。


「でき、たぁ! アニキっち! 準備はいい!?」


 アスカの言葉を受けたアニキは、赤の重手甲に包まれた右腕を突き出しながらドラゴンに向かってゆっくりと歩いていく。

 その全身は逆巻く炎に包まれ、背中からは巨大な炎の翼が噴き出す。

 深い赤だった髪は鮮やかな赤に変わり、アニキは奥歯を噛み締めて笑いながら返事を返した。


「ありがとよ……おめーら。ちっと休んでてくれや」


 アニキはその髪までも炎に変え、一歩ずつ確実にドラゴンへと近づいていく。

 圧倒的なエネルギー量に警戒したのか、ドラゴンはアニキに向かって咆哮を響かせた。


「そう吼えるなよ……今すぐ、行ってやるから」


 アニキは左手で地面を殴ると、その反動で一気に空中に浮かぶドラゴンへと近づいていく。

 その後アニキの背中に生えた炎の翼はさらに勢い良く炎を吐き出し、アニキの身体をドラゴンの顔の正面まで運んだ。


「これで……終わりだああああああああああ!」

『グォオオオオオオオオオオオオオ!』


 アニキは重手甲に包まれた右腕を身体の後ろに引くと、背中の炎の翼を手甲の中へと集約していく。

 山を覆うほどの大きさを持っていた炎の翼は全て手甲の中に集約され、赤い手甲は眩いほどの赤い光を発する。

 アニキは突き出した左手をドラゴンの顔面に合わせると、眉間に皺を寄せて照準を合わせる。

 そしてドラゴンがブレスを吐き出そうと口を開いた瞬間、両目を見開いて叫んだ。


「もう遅ぇ! てめえの……負けだ!」


 アニキは両足を炎に変え、空中で推進力を得るとドラゴンの顔面に向かって突進していく。

 そのまま角度を調整してドラゴンの横っ面に回りこむと、引いていた右腕を突き出した。


「メテオハンド……バァァァァァストォォォォォォォォォオ!」


 アニキは左手を引きながら、赤く輝く手甲の拳をドラゴンの横っ面にねじ込む。

 赤い手甲の一撃を受けたドラゴンの顔面からは円形の炎が噴き出し、圧倒的な衝撃によってその顔が変形する。

 そんなドラゴンの様子を見たアニキは、さらに両目を見開いて声を発した。


「それで済むかよ! フレア・バレットォォォォォ!」


 アニキは手甲の拳を開き、手のひらの部分で大爆発を引き起こす。

 その爆発は山々を震えさせ、アニキとドラゴンの身体を同時に吹き飛ばした。


『っ!?』


 ドラゴンは想定以上の火力に意識を失い、山肌へとその巨体を激突させる。

 巨体を受け止めた山には巨大なヒビが入り、やがて崖を作り出していた。

 一方アニキは水晶の森へと落下し、ゴロゴロと転がりながら水晶を破壊していく。

 吹き飛ばされた水晶が輝きながら地面に降りた頃……アニキは右腕を押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。


「…………」


 アニキは焦点の合っていない瞳で、倒れている仲間達を見つめる。

 その後視界の端で失神しているドラゴンを見ると……ほんの少しだけ、頬を緩めた。

 まるでアニキの意識に呼応するように、右腕にあった重手甲は炎へと姿を変え、空中に飛散していく。

 やがて軽くなった右腕をかろうじて肩の高さまで上げたアニキは、ふらつきながら右手の親指だけを立て、やがて地面に向かってそれを突き出した。


「おれ、たちの…………勝ちだ!」


 失神したドラゴンを睨みつけながら歯を見せて笑い、そのまま糸の切れた人形のようにその場に倒れるアニキ。

 その姿を見ていたアスカは、呆然とした表情で青い空を見上げ、小さく笑いながら息を落とした。


「はは。これって勝ちでいい、のかな……?」


 小さく苦笑いを浮かべながら、いつもと変わらぬ青い空をただ見上げるアスカ。

 白目をむいたドラゴンはそんなアスカの言葉に反応することなく、意識を手放していた。


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