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第160話:いつかやってくるその日に

「皆さん……ほんっとうに、ありがとうございました!」

 

フラルは迷子センターの前で深々と頭を下げ、リリィ達に向かって言葉を紡ぐ。

 そんなフラルの言葉を受けたリリィは、微笑みながら返事を返した。


「なに、私達は依頼に従って行動したまでだ。そんなに恩を感じる必要はない」

「そうそう! あたし達も楽しかったし! ね、イクサっち!」

「はい。とても有意義な時間を過ごせました」


 イクサはアスカに肩を組まれながらもこくりと頷き、いつも通りの無機質な声で返事を返す。

 そんな三人の言葉を受けたフラルは、感激に涙を溜めながら返事を返した。


「ありがとうございます! 皆さんにお願いして本当によかった……」


 フラルは胸の前で手を合わせながら、にっこりと微笑んで言葉を紡ぐ。

 そんなフラルを見たリリィは、大きく頷きながら返事を返した。


「こちらこそありがとう、フラル。イクサも私も、子ども達には大切なことを教えてもらったような気がするよ」

「???」


 いまいち的を得ないリリィの言葉に、首を傾げながら疑問符を浮かべるフラル。

 しかしリリィはそんなフラルに構わず、笑いながら踵を返して歩き始めた。


「では、報酬はダブルエッジ支部まで届けておいてくれ。今日はお疲れ様」

「あっ、は、はい! お疲れ様でした!」


 フラルはリリィの言葉を聞くと、再び慌てて頭を下げる。

 アスカとイクサはリリィの隣に並ぶと、フラルに向かってそれぞれ言葉を紡いだ。


「んじゃ、フラルっちまたねー! お元気で!」

「フラル様、お疲れ様でした」


 アスカとイクサの言葉を聞いたフラルは、再度深々と頭を下げる。

 三人は夜になりライトアップされたマホマホ☆ランドの中を、ゆっくりと歩き始めた。


「いやー、なんか色々あったけどさ、楽しかったよね!」

「はい。とても有意義な時間でした」


 歯を見せて笑うアスカに対し、こくりと頷きながら返事を返すイクサ。

 そんな二人の様子を見たリリィは、にっこりと微笑みながら星空を見上げた。


「そう……だな。楽しかった」


 今日一日バタバタしていたけれど、自分はきっと自然に笑えていただろう。

 今は亡き父の前以外で、自分がこんなにも楽しそうに笑える日が来るなんて、思いもしなかった。

 それはきっと……今左右を歩いている、この二人おかげで。

 その事を誰よりも理解しているリリィは、俯いて流れていく石畳を見つめながら、小さく言葉を落とした。


「その、二人とも。今日は…………さそってくれて、ありがとう」


 最後の方は消え入りそうな声になりながら、リリィは小さく言葉を紡ぐ。

 そんなリリィの言葉を受けたアスカは楽しそうに笑いながらリリィに飛び掛り、それを見たイクサも同じようにリリィへと抱きついた。


「ええー? なんだってぇ? よく聞こえなぁーい」

「私も、よく聞こえませんでした。もう一度お願いします、リリィ様」

「んだぁぁ、くっつくなお前達! 絶対聞こえていただろう!」


 リリィはひっついてきたアスカ達を引き剥がそうと、ぶんぶんと身体を振る。

 しかし二人はがっしりとリリィにしがみ付き、その手の力を緩めることはなかった。


「まあまあ、落ち着いてリリィっち。ちゃんと―――ん?」


 言葉を続けようとしたアスカの肩を、何か冷たい手ががっしりと掴む。

 華美な着物に包まれたその右手の主は、金色の髪を輝かせながら鬼の形相でアスカへと近づいた。


「あぁーすぅーかぁー……。貴様わらわをこき使った事、よもや忘れておるまいな?」

「たっ、タマちゃん!? やだなぁ、落ち着いて。落ち着いて話合おうじゃまいか」

「問答無用じゃ! こんのー!」


 玉藻はアスカの顔を両手でがっしりと掴み、そのほっぺをグニグニと引っ張る。

 アスカも負けじと玉藻の顔を掴むと、同じようにほっぺを引っ張った。


「ひひゃは! へいほうふふは!」(貴様、抵抗するな!)

「ひゃへふー! ひぇっはいひゃへふー!」(やですぅー! 絶対やですぅー!)


 アスカと玉藻は召還者と召還対象という関係を忘れ、その場で喧嘩を始める。

 カレンは二人の間で困ったように眉を顰め、どう止めたものかと両手をさ迷わせていた。


「…………」


 しかしリリィはそんなアスカ達の喧嘩を見ることもなく、静かに星空を見上げる。

 そんなリリィを見たイクサは、不思議そうに首を傾げた。


「リリィ様、どうかなさいましたか? 星に何か異常でも?」

「あ、いや……そうじゃない。ただ今日の子ども達を見ていたら“リースもいつかは親元に帰る日がくるのだな”……と思っただけだ」


 リリィは嬉しそうに、しかしどこか寂しそうな複雑な表情で、星空を見上げる。

 そんなリリィの言葉を聞いたイクサはリースの姿を思い出しながら、小さく言葉を返した。


「それは、どうでしょう。リース様に限っては、そうとは限らないと思われます」

「えっ……」


 リリィはイクサの意外な言葉に驚き、ぽかんと口を開きながら声を落とす。

 そんなリリィの様子を見たイクサは、構わず言葉を続けた。


「それよりリリィ様。そろそろアスカ様達を止めましょう。人目についています」

「あっ!? そ、そうだな。こらお前達、往来のある場所で喧嘩などするな!」


 こうしてリリィはアスカと玉藻の間に割って入り、声を荒げる。

 その後は四人でくんずほずれつの大乱闘になるわけだが……イクサは一人離れた場所で、先ほどのリリィのように星空を見上げていた。


「……リース様のご両親、ですか」


 イクサのその真っ白な瞳には、一体何が映っているのか。

 その答えは、イクサ自身にもわからないだろう。

 ただひとつ、わかっているのは―――


「でも、今を楽しまないのはきっと……一生後悔しますね」


 イクサは歯を見せて笑顔になりながら星空を見送ると、やがて楽しそうにリリィ達の乱闘へと介入する。

 夜のマホマホ☆ランドに響く、女性達の楽しそうな声。

 こうして女の子チームの楽しい遊園地探訪は……実に彼女達らしい、随分と荒っぽい最後を迎えるのだった。

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