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第158話:笑顔のちから

「イクサ……とりあえず落ち着け。子ども達が泣きじゃくっている」


 リリィは頭に大粒の汗を流し、子ども達をあやそうとしているイクサの肩にぽんと手を置く。

 そんなリリィに気付いたイクサは、不思議そうに首を傾げながら返事を返した。


「リリィ様、丁度良かった。先ほどから不思議なのです。子ども達が泣き止んでくれません」

「あー……まあ、うん。人には適材適所というものがあるからな」

「???」


 イクサはリリィの言葉の意味がわからず、反対側に首を傾げる。

 その頭に生えたうさ耳はぴこぴこと動き、まるでリリィの言葉をもっと聞き取ろうとしているかのようだ。


「とりあえずイクサは、裏方に回ってもらったほうが良さそうだな。そろそろ夕食の時間だし、食事の準備をお願いできるか?」


 リリィは日の光が次第に茜色になってきている事を感じ、イクサに向かって提案する。

 しかしイクサはしゅぴっと片手をリリィの方に突き出すと、方頬をぷくーっと膨らませながら返事を返した。


「いえ、問題ありませんリリィ様。私にもお子様の相手くらいできます」

「お、おお。なんか、意地になってないか?」

「なってません」


 イクサはぷくーっと頬を膨らませたまま、片手を前に突き出して言葉を発する。

 アスカは楽しそうに笑いながら、イクサの膨らんだほっぺをプニプニとつついていた。


「それにリリィ様。私には“レヴォリューション”という特殊能力があることをお忘れですか?」

「!? ま、まさか……子どもをあやせる能力が既にある、ということか?」


 リリィは変にシリアスになりながら、イクサに向かって返事を返す。

 そんなリリィの言葉を受けたイクサは、こっくりと力強く頷きながら返事を返した。


「肯定です、リリィ様。とっておきのこの能力は、“暴漢の腕を数秒でへし折った”実績があります。これなら必ずや子ども達に笑顔を―――」

「いや、もういい。裏方に行くぞイクサ」

「解せません」


 イクサは無表情のまま、ずるずるとリリィに裏方へと引き摺られていく。

 そんなリリィを見たアスカは、両手をメガホンのように使いながら言葉を発した。


「ちょっと待ってリリィっち。ここの子ども達の相手はどうするん? あたしやっとこうか?」

「うっ……そうだった。アスカひとりに子ども達を任せるのは心配だし、とはいえ料理をイクサに任せるのも不安だな……」


 リリィは両手で頭を抱え、どうしたものかと考え込む。

 今度はそんなリリィの肩をイクサがぽんっと叩き、言葉を発した。


「お任せください、リリィ様。料理ごとき数秒で“殲滅”してみせます」

「それ料理に使う単語じゃないからな!? やっぱりダメだ。イクサひとりに任せられん」

「なんと。またNGが出ました」

「余計なこと言っちゃってるだけな気もするけどね~」


 アスカは悪戯に歯を見せて笑いながら、頭の後ろで手を組む。

 ため息を落としながら、リリィは再び思考を回転させた。


「さて、どうするか。これだけの人数分料理を作るのだから、イクサを手伝うのが順当だ。しかし、ここをアスカ一人に任せるというのも―――」

「ふぅ、まったく。あのわっぱ共ようやく寝おった。おいアスカ! 貴様わらわにわっぱの世話をさせるとは、覚悟はできておるのじゃろうな!?」


 沢山の乳児の世話に追われていたはずの玉藻が、怒り心頭といった様子でこちらに向かってずんずんと歩いてくる。

 その姿を見たリリィとアスカは、互いに視線を合わせてこくりと頷いた。


「玉藻、ちょうどよかった。ちょっとこちらに来てくれ」

「はいはーい♪ タマちゃんはこっちだよー♪」

「おお!? な、なんじゃおぬしら! 何故わらわを運ぶ!?」


 素早く動いたリリィとアスカは玉藻の両腕をがっしりと掴み、イクサの担当していた区間の中央へと運んでいく。

 泣きじゃくっていた子ども達は、もふもふと動く九本の尻尾を見ると呆然とした様子でそれに注視した。


「はいみんなー。ここからはこの狐のお姉さんが遊んでくれるよ! お触り自由だから、いっぱい尻尾に触ってあげてね♪」


 アスカはバチコーン! とウィンクしながら、子ども達に向かって言葉を発する。

 その言葉を聞いた子ども達は、その大きな瞳をキラキラさせながら玉藻の尻尾へと飛びついた。


「ちょ、アスカ貴様何を言って―――こらわっぱ! 尻尾に触るんじゃ……あんっ!?」


 玉藻は一瞬にして子ども達に囲まれ、その対応に追われる。

 先ほどまで泣いていた子ども達も、いつのまにか夢中になって動き回る尻尾を追いかけていた。


「というわけで、その辺りの子ども達は頼んだぞ玉藻。なに、心配するな。アスカもここに置いていく」

「置いていかれます! よろしく!」


 アスカはしゅぴっと敬礼しながら、満面の笑顔で玉藻へと言葉を紡ぐ。

 そんなアスカの言葉を受けた玉藻は、糸切り歯をむき出しにしながら言葉をぶつけた。


「なにぃ!? ふざけるな貴様! わらわはそもそも式神であって、子どもの世話など―――」

「おねえちゃんあそんでー!」

「つみきしよ! つみき!」

「それよりおままごとがいいー!」

「でぇ!? こ、こらわっぱ! 引っ張るでない!」


 玉藻は反論しようと口を開くが、すぐに大量の子ども達に飛びつかれてそれどころではない。

 アスカは能天気な笑顔を浮かべながら、リリィ達に向かって手を振った。


「というわけで、ここはあたしとタマちゃんに任せといて! 二人は料理よろしくぅー」

 アスカはぼーっと立っていた子どもを抱き上げると、またしても敬礼しながら言葉を発する。

 そんなアスカの言葉を受けたリリィは、片手を上げながら返事を返した。


「ああ。頼んだぞ二人とも」

「おいこら! わらわはまだ納得して……ああ!? こら、つみきを投げるでない! 危ないであろう!」


 文句を言いつつもきっちり子ども達の世話をしている玉藻の姿を視界に収め、にっこりと微笑んで大広間を後にするリリィ。

 そんなリリィの隣を歩くイクサは、俯いた状態で言葉を紡いだ。


「……何故でしょう、リリィ様。子ども達が笑顔になって嬉しいはずなのに……私は何故か今、悲しいと感じています」


 イクサは複雑な表情で、大広間のドアの窓から見える、子ども達の笑顔を見つめる。

 そんなイクサの心中を察したリリィは、頭に優しく手を乗せて返事を返した。


「まあ、そう落ち込むことはないさ。私も昔は笑顔が苦手だったが……いつのまにか笑えるようになっていたからな」


 リリィは少しだけ恥ずかしそうに笑いながら、イクサに向かって言葉を紡ぐ。

 そんなリリィの笑顔と言葉を受けたイクサは、無表情のまま返事を返した。


「ありがとうございます、リリィ様。善処いたします」

「あ、ああ。お互い頑張ろう」


リリィは無表情なイクサの様子に改善すべき何かを感じたが、上手く説明することができず、困ったように笑いながら返事を返す。

そんなリリィ達の声が聞こえたのか、いつのまにかうたた寝していたチェルダが、リリィの背中で目を覚ました。


「ふあ……ちぇるだ、ねちゃった?」

「おお。大人しいと思ったら眠っていたんだな」


 背中越しに聞こえた声に驚きながらも、微笑んで返事を返すリリィ。

 チェルダはねこ耳をぺたんと折り、少し眠そうに目をこすりながらも、そんなリリィに笑顔を返す。

 やがてチェルダは、頭に疑問符を浮かべながらイクサに向かって言葉を紡いだ。


「??? おねえちゃん。なにかかなしいこと、あったの?」

「えっ……」

 

 リリィの隣を歩いていたイクサに、突然声をかけるチェルダ。

 突然の言葉に驚いたイクサは、呆然としながらチェルダへと顔を向けた。


「ええと……大丈夫です。何も問題ありません」


 イクサは気を取り直し、いつもの無表情で淡々と返事を返す。

 そんなイクサを見たチェルダは、ぼーっとした表情のまま言葉を紡いだ。


「ふゅ……おねえちゃん、ちょっとこっちにきて?」

「??? はい」


 イクサは突然のチェルダの言葉を不思議に思いながらも、一歩リリィへ近づく。

 するとチェルダはその小さな両手をイクサに伸ばし、身体全体でイクサの顔を抱きしめた。


「わぷっ……!?」


 イクサは突然やってきた温もりに驚き、チェルダの小さな腕の中で目を見開く。

 やがてチェルダはイクサの頭を解放すると、眠たそうな目でにっこりと微笑んだ。


「これで、げんきだしてね。おねえ、ちゃん……」

「ち、チェルダ?」


 チェルダはいつのまにかリリィの制服をしっかりと掴んだまま、再び眠りへと落ちる。

 その様子を見たリリィは、慌ててイクサへと言葉を紡いだ。


「す、すまないなイクサ。チェルダも寝ぼけていたようだ」

「…………」


 イクサは呆然と目を見開いたまま、じっとチェルダを見つめる。

 未だ残っているチェルダの暖かさを感じたイクサは……いつのまにか、自然と微笑んでいた。


「いえ。ありがとうございますリリィ様、チェルダ様。私はもう少し、自分の可能性を信じてみようと思います」

「―――っ」


 イクサの自然な笑顔を見たリリィは、その美しさに息を飲む。

 やがて顔を横に振ると、笑いながら返事を返した。


「ふふっ……まったく。お前も私も、不器用なものだな」

「???」


 昔の自分と同じく不器用なイクサを見て、笑いながらその背中をポンポンと叩くリリィ。

 イクサはそんなリリィの様子を不思議に思いながら、頭に疑問符を浮かべて小さく首を傾げていた。


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