第157話:イクサお姉ちゃん、苦戦中
「さて……ここはカレンに任せるとして、私はイクサの様子を見てこよう」
「あれぇ!? “カレンに任せる”って、あたしは!? あたしもここにいるんですけど!?」
アスカはジャンプするように飛んでリリィの腰にしがみつき、ぶーぶーと声を荒げる。
リリィはそんなアスカの頭を掴み、言葉を返した。
「ええい、やかましい! お前はちゃんと面倒を見てないだろうが!」
自身の腰にしがみついたアスカを振りほどきながら、リリィは声を荒げる。
そんなリリィの言葉を受けたアスカは、大きく口を開いて言葉を返した。
「あんですと!? あたしのどこが―――」
「きーっく! やーい、まな板おっぱいー!」
先ほどアスカにジャイアントスイングを食らっていた少年が、今度は暴言を吐きながらアスカの足にキックを入れる。
そんな少年のキックを受けたアスカは、少年を肩に担いでグルグルとコマのように回転した。
「こんがきゃー! 怒りのローリングアスカスペシャルを食らいやがれ!」
「おわぁあああ!? ……あははははは!」
少年は肩に担がれた瞬間こそ驚いていたが、ぐるぐると目まぐるしく変わる景色に笑顔となり、やがて笑い声を響かせた。
しかしそんな二人の様子を見たリリィは、ため息を吐きながらアスカの頭にチョップを叩き込む。
「そういうところがダメだと言ってるんだ。子どもに技をかけるな」
「いたひっ!? もーリリィっち手加減してよぉ!」
アスカはチョップの衝撃で涙目になりながら、恨めしそうにリリィを見上げる。
リリィはチョップした手をぷらぷらと振りながら、ため息混じりに返事を返した。
「これでも手加減はしている。それより私はもう行くぞ。なんだか胸騒ぎがする」
リリィは何とも言えない不安を抱え、イクサの元に向かおうと踵を返す。
そんなリリィの隣に、アスカは慌てて並び立った。
「まってまって! そんならあたしも行くよ! ぶっちゃけここはお姉ちゃん一人で充分だし!」
「自覚はあったんだな!? というか、アスカが離れてもカレンは大丈夫なのか? 何か術を使って呼び出しているのだろう?」
リリィは不思議そうに首を傾げ、少し離れた場所で子ども達と遊ぶカレンを見つめる。
アスカはえっへんと胸を張りながら、そんなリリィへと返事を返した。
「だいじょーぶ! さっきタマちゃんを呼び出した時にちょちょいっと術を重ねがけしといたから。あたしが離れても平気だよん♪」
アスカはパチッとウィンクをしながら、リリィに向かって弾むように言葉を発する。
そんなアスカの言葉を受けたリリィは、ゲンナリとした様子で返事を返した。
「……その手際の良さを、ほんの少しで良いから子ども達にも発揮してくれればいいのに」
「???」
片手で頭を抱えて俯いてしまったリリィを、頭に疑問符を浮かべながら見つめるアスカ。
落ち込んだ様子のリリィを見たアスカは、やがて何かを思いついたように拳を手のひらに打ち付け、リリィのお尻を叩いて歩き出した。
「そうだ。しょげてないで早く行かなきゃ! イクサっちが心配なんしょ!?」
「いたっ!? それはそうだが、尻を叩くな尻を!」
リリィは乱暴なアスカの動作に不満をぶつけ、噛み付くように言葉をぶつける。
そんなリリィの言葉を受けたアスカは「いいからいいから、ほら急ご?」とリリィの手を引いて歩き出した。
「ちょ!? 引っ張るな! チェルダが落ちるだろう!」
リリィは背中に背負ったままのチェルダを気にしながら、アスカに手を引かれるまま歩き出す。
ほどなくして見えてきたイクサの状況は、リリィが思っていたよりずっと悪いものだった。
「このおねえちゃんこわーい!」
「おこってるー!」
「わぁぁぁぁん!」
「怒ってないよー。怖くないよー」
イクサは周囲で泣きじゃくる子ども達に対し、ぶんぶんと両手を左右に振りながら無表情のまま言葉を紡ぐ。
しかし抑揚のない声と無表情のせいで、その言葉は子ども達に全く届いていなかった。
「ねえ、リリィっち……なにこの状況」
「うっすらと予想してはいたが―――これはひどい」
リリィは狂ったように泣きじゃくる子ども達を見渡すと、片手で両目を覆い、がっくりと項垂れる。
ぽかんと口を開けたアスカの視線の先では、無表情なままのイクサが子どもをあやそうとし、さらにその泣き声を増大させていた。