第156話:じゃいあんとすいんぐ!
「リリィさん。こちらの子ども達は私が見ておきますので、リリィさんは他の皆さんをお手伝いしてあげてください。元々ここの係員は私ですし、アスカさん達に負担がかかっていないか心配なんです」
多くの子ども達と遊ぶリリィを見たフラルは、心配そうに胸元へ手を当てながら言葉を紡ぐ。
そんなフラルの言葉を受けたリリィは、素直に頷いて返事を返した。
「ん、そうか。ではお言葉に甘えて、私は二人の様子を見てくるとしよう」
フラルの言葉を受けたリリィは、そのまま背を向けてアスカのいる方へと歩き出す。
そんなリリィの背中を見たフラルは、片手を口元に当てて驚きながら言葉を発した。
「あっ!? リリィさん、あの、背中のチェルダちゃんはそのままで良いんですか?」
フラルはあわあわと両手を動かしながら、チェルダをどうするべきか頭を悩ませる。
そんなフラルの言葉を受けたリリィは、困ったように笑いながら返事を返した。
「……そうだな。チェルダ、すまないが降りて―――」
「やっ!」
「即答か。参ったな」
リリィは困ったように笑いながら、制服を強く掴んでいるチェルダを背中越しに見つめる。
チェルダは頬をぷくーっと膨らませながらリリィの背中に顔をくっつけ、ぴこぴことねこ耳を動かした。
「まあ、仕方ないさ。このまま二人の様子を見てくるとしよう」
無理矢理に引き剥がして、チェルダに泣かれてしまうほうが大変だ。
そう判断したリリィは、フラルに向かって返事を返す。
リリィの返事を聞いたフラルは、微笑みながら頷いた。
「わかりました。大変かとは思いますが、よろしくお願いします」
フラルは深々と頭を下げ、リリィに向かって言葉を紡ぐ。
そんなフラルの姿を見たリリィは、返事を返そうと口を開くが―――
「フラルおねえちゃんあそんでー!」
「おれはらへった!」
「だっこー!」
一瞬で子ども達にもみくちゃにされるフラルを見て、リリィは開いた口を閉じる。
どうやら今のフラルに、自分と話をしている余裕はなさそうだ。
そう判断したリリィは、とりあえずアスカの様子を見に行くことに決めた。
「さて、では行こうかチェルダ。落ちないようにな?」
「うん! ……えへへ」
チェルダはリリィと長い時間くっついていて機嫌が良いのか、歯を見せて悪戯な笑顔を見せ、そのしっぽを左右にぶんぶんと振る。
楽しそうなチェルダの様子を見たリリィは穏やかに微笑み、アスカのいる方角へと歩きながら、アスカに向かって言葉を発した。
「おーい、アスカ。そっちの調子はどう―――」
「こんのー! 誰がまな板おっぱいじゃ! くそがきゃー!」
「あはははは!」
「えええええええ!?」
アスカは人間の少年の両足を掴み、ぐるぐるとジャイアントスイングをしている。
その状況を見たリリィは驚愕の表情をしながら、大声で言葉を発した。
「アスカ! お前何をしてるんだ!? というか、危ないから今すぐやめろ!」
「止めてくれるなリリィっち! こいつぁ、こいつぁ越えちゃいけねえ一線を越えたんだ!」
「お前が今まさに越えちゃいけない一線を越えてるから! 今すぐやめろ!」
リリィは即座にアスカへ近づき、こつんと拳骨で頭を殴る。
アスカは涙目になりながら、リリィに向かって言葉を返した。
「いったぁ!? わりとマジで痛いよリリィっち! 手加減して!」
「手加減はしてるが、痛くないとお前は止めないだろう?」
リリィはため息を落としながら言葉を紡ぎ、呆れるような視線をアスカに向ける。
そんなリリィの言葉と視線を受けたアスカは、口を3の形にしながらしぶしぶ少年を床に降ろした。
一方少年は「もうおわりー?」と不満そうにしながら、アスカの袴をくいくいと引っ張っている。
「HAHAHA。自分から地獄を見たいとは見上げた奴だ。さっきより酷いのをお見舞いしてやる」
「お見舞いするな。危険だから」
「いたひっ!? リリィっちその拳骨やめて! わりと泣きそうだから!」
アスカは涙目になりながら、リリィに向かって言葉を発する。
そんなアスカに返事を返そうとリリィは口を開くが、その時には既にアスカが少年へと自身の頭を見せながら言葉を発していた。
「あーいてて。ねえねえ、あたしの頭割れてない?」
「われてるわれてる。もうだめだよ」
「マジで!?」
「いや嘘だから。真に受けてどうする」
少年のニヤニヤとした笑顔とショックを受けているアスカを見たリリィは、大粒の汗を流しながらツッコミを入れる。
そんなリリィの言葉を受けたアスカは、ぽりぽりと頭をかきながら返事を返した。
「なんだ嘘かぁ。まったく、びっくりさせ―――」
「きーっく!」
「いっでぇ!? またお前かぁ! こんのー!」
「あははははは!」
「ちょおおおお!? だからその技をやめろアスカ!」
再び少年をジャイアントスイングし始めたアスカへ、再び拳骨を振り下ろすリリィ。
アスカは涙目でリリィを見上げながら、頭を抱えた状態で返事を返した。
「うう、痛いよリリィっち。馬鹿になったらどうするの?」
「ああ、それなら大丈夫だ。絶対に大丈夫」
「なんでそんな確信が!? もう馬鹿だから!? ねえもう馬鹿だから大丈夫ってこと!?」
アスカは動揺した様子でリリィの肩を掴み、前後にがくがくと揺さぶる。
しばらく揺さぶられるままだったリリィだが、チェルダが背中にいることを思い出し、その身体を制止させた。
「ええい、落ち着け! それよりこの辺りにいた子ども達は大丈夫なのか? ほったらかしだろう!」
「失礼な! ちゃんと見てるよ! お姉ちゃんが!」
「カレンが!? あ、本当だ!」
アスカの言葉を受けたリリィが視線をアスカの後ろに向けると、そこでは無言のまま子ども達と穏やかに遊んでいるカレンの姿が見える。
上半身しかないその身体には沢山の子ども達がひっついているが、カレン自身は笑顔で遊んでいるようだ。
「おねえちゃんちょうきれぇー!」
「ねえねえ、なんでういてるのー!? おれもうけるかな!?」
「わーい! おんぶおんぶー!」
「……っ!」
カレンは大量の子どもを身体に引っ付けながら、賢明に浮遊してひとりひとり丁寧に対応している。
そんなカレンの様子を見たアスカは、うんうんと満足げに頷いた。
「いやー、さすがお姉ちゃん。頼りになるぅ」
「お前もちょっとは頑張れ!」
「あだぁ!? ちょ、マジで頭割れちゃうから勘弁してください!」
横からチョップを食らったアスカは、涙目になりながらリリィへと言葉をぶつける。
そんなアスカを見たリリィは、小さく息を落としながらカレンへと視線を戻した。
「それにしても凄いな、カレンは。無言であれだけの子どもを相手するとは」
「……っ!」
カレンはリリィの視線に気付いた様子で、頬を赤く染めながら恥ずかしそうに俯く。
そんなカレンを見た周りの子ども達は頭に疑問符を浮かべ、小さく首を傾げていた。