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第155話:竜族タワー、爆誕

「さて……チェルダ。すまないが一旦降りてもらえるかな? ほら、お友達も沢山いるし、一緒に遊ぼう?」


 リリィは今まで抱きかかえていた獣人族の子どもチェルダへ、暖かな声で促すように言葉を紡ぐ。

 その言葉を受けたチェルダはねこ耳をぴこぴこと動かしながら、リリィへ返事を返そうと口を開いた。


「うん! わかった―――」

「おねえちゃんきれぇー!」

「おっきぃー!」

「あたしもだっこ! だっこしてー!」

「お、おお!? いつのまに!?」


 気付いた時にはすでに沢山の子ども達に囲まれ、リリィは慌てた様子で周囲を見渡す。

 子ども達は一様にリリィを見上げ、その大きな瞳を輝かせる。

 そしてそんな子ども達の様子を見たチェルダは、片頬を膨らませながら言葉を続けた。


「うー……やっぱり、やだ。ちぇるだおりない」

「突然の心変わり!? ち、チェルダ。降りないとほら、みんなと遊べないぞ?」

「いいもん! ちぇるだここがいい!」

「えええ……」


 リリィは困ったように眉を顰め、至近距離にあるチェルダの丸い顔を見つめる。

 チェルダはぷくーっと頬を膨らませたまま、ぷいっとそっぽを向いていた。


「チェルダ。お友達もいるし、おもちゃもあるし、一緒に遊んだ方が―――」

「やっ!」

「Oh……」


 リリィは思わず普段使わない単語を口にしながら、片手で頭を抱える。

 何故かはわからないが、チェルダは完全に意固地になってしまっているようだ。


「チェルダ。チェルダは良い子だろう? それならお友達とも遊ばなくちゃ」


 リリィは困ったように笑いながら、チェルダの頭をそっと撫でる。

 チェルダは気持ちよさそうに目を細め、ねこの尻尾をぶんぶんと左右に振った。


「ふぇ…………あ! だ、だめ! ぜったいおりないもん!」

「うぅ。意外と強固な守りだな……」


 チェルダは一瞬その手をリリィから離しそうになるが、すぐにはっと我に返り、リリィに抱きつく力を強める。

 小さな手で服を掴まれ、瞳を潤ませていくチェルダを見たリリィは、その手を振りほどくこともできず困ったように眉を顰めた。


「わかったよチェルダ。じゃあおんぶにしよう。それなら良いだろう?」


 リリィは小さく首を傾げながら、祈るような気持ちでチェルダへと言葉を発する。

 チェルダは頬を膨らませた状態で涙を零しそうになりながら、こくんと小さく頷いた。


「ほっ……じゃあ、おんぶだ。背中も悪くないだろう?」


 リリィはチェルダをおんぶした状態で、背中に向かって言葉を発する。

 チェルダは返事を返す代わりにぴこぴことねこ耳を動かし、リリィの首に回したその手に力を込めた。


「おねえちゃん! あたしも! あたしもだっこー!」

「つぎあたしもー!」

「おれもおれも!」

「あ、ああ。順番な。順番」


 リリィは困ったように笑いながら、次々と子ども達を抱っこしていく。

 抱っこされた子どもはその高さに瞳を輝かせ、「たかーい!」やら「あったかーい!」といった率直な感想を口にした。

 こうして人間……もとい竜族タワーと化したリリィは、次々と子ども達を抱っこし、時に自分より高く持ち上げたりしながら時を過ごしていく。

 そうして子ども達と時間を共有していくうちに、リリィの中に暖かな感情が宿っていることに気付いた。


「そう、か。私もきっと、いつかは……」


 リリィは抱き上げた子どもに頬を付けながらにっこりと微笑み、遠くに見える未来予想図に想いを馳せる。

 しかしそんなリリィの足に、小さな衝撃が走った。


「こんなおっきいねえちゃんみたことない! きっとわるいやつだ!」

「ん……なるほど。そういう考え方もあるか」


 いつのまにか自身の足を蹴っていた人間の子ども(少年)を見たリリィは、確かにそういう見方もできると素直に納得する。

 その様子を見た少年は、唸るような声を発しながら言葉を紡いだ。


「みんな、だまされるな! こいつはわるいやつだ!」


 少年はびしっとポーズを決め、リリィに向かって言葉をぶつける。

 恐らくヒーローものの絵本か何かに影響されているのだろう。妙に演技がかった台詞がリリィにそれを気付かせた。

 リリィは小さく微笑むと、抱えていた子どもを降ろして屈み、少年へと両手を伸ばしながら言葉を発した。


「ふっふっふ、よくわかったな。わたしは悪い奴だ。だから……こうしてやる!」

「あっ、なにをする!? やめ……あははははは!」


 リリィは歯を見せて笑いながら、少年のわきをこちょこちょとくすぐる。

 少年はこそばゆい感覚に耐えられず、大口を開けて笑い始めた。


「この! やめろー! あははははは!」

「どうしたヒーロー。ここまでか? ……ふふっ」


 リリィは楽しそうに笑いながら、少年の身体をくすぐる。

 その様子を見た周囲の子ども達は、結束してリリィへと飛び掛った。


「わるいおねえちゃんだ!」

「やっつけろー!」

「あはははは!」


 子ども達は笑いながらリリィに飛びつき、その身体に引っ付いていく。

 体中に子どもを引っ付けたリリィは、めげることなく立ち上がった。


「きかぬわー。ふふふふふっ」


 リリィは心の底から楽しそうに笑い、子ども達を持ち上げてみせる。

 視界が高くなった子ども達はリリィと同じくらい楽しそうに笑い、大広間の一角には、いつのまにか笑いが満ち溢れていた。


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