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第154話:助っ人、召還!

「ごめんなさい。この迷子センターは当ランドのスタッフの子どもを預かっていて、それでこんなに沢山に……」


 係員の女性は困ったように眉を顰め、子ども達が溢れる大広間を見つめる。

 その言葉を聞いたリリィは、真剣な表情で大広間の様子を見ながら返事を返した。


「ということは、少なくともマホマホ☆ランドが閉園するまでは子ども達を見る必要があるということだな。そうなると、夕飯なども考える必要があるか」


 リリィは曲げた人差し指を顎に当て、考えるような仕草で言葉を発する。

 その言葉を受けた女性は、頷きながら返事を返した。


「そうですね。ですが当ランドのスタッフは皆シフト制ですので、閉園前に迎えに来るスタッフも少なからずいるはずです」

「なるほど。それならまだなんとかなるかもしれんな」


 リリィは閉園までの時間を計算し、さらに考えを巡らせる。

 そんな二人を見ていたアスカは、横からひょこっと顔を出して言葉を発した。


「ねーねー、考える前にみんなを見てあげたほうがいんでない?」


 アスカの言う通り、大広間にいる子ども達の中には喧嘩をしてしまっている子ども達もいる。

 これは早急に、リリィ達が間に入る必要があるだろう。


「ふむ……そうだな。担当する子どもだけ決めて、後は臨機応変に対応しよう」


 アスカの言葉を受けたリリィは、大きく縦に頷いて返事を返す。

 そのまま大広間を見回したリリィは、さらに言葉を続けた。


「割り当てを決めよう。この部屋を四つに分けて考えてくれ。入り口正面の角にいる子ども達をアスカが、入り口から左斜め前にいる子ども達をイクサが、そして左側にいる子ども達を元々の係員である彼女に担当してもらう。問題は、乳児達をどうするかだが―――」

「あ、それならあたしに任して! 今人数増やすから!」

「へ?」


 アスカはリリィの言葉を途中で遮ると懐から一枚のお札を取り出し、呪文詠唱を始める。

 リリィは呆然としながら、そんなアスカを見つめた。


「いっくよー! 式神召還、“妖姫・玉藻”!」


 アスカが最後の呪文詠唱を終えると、その手にあったお札から金色の光が発光する。

近くにいた子ども達は一様にアスカの方に注目し、リリィと同じようにぽかんとその口を開いた。


「わらわを呼んだかえ? アスカよ……」


 アスカの背後に突然、豪華な着物に身を包んだ豊満な体の女性が現れる。

 その女性はふんわりと抱きしめるようにアスカを包み、妖しく微笑んだ。

 着ている着物は肩のところまではだけ、その大きな胸がこぼれそうになっており、髪色は眩いほどの金色で、瞳も同じく金色に輝き、中心にある黒い瞳孔を際立たせている。

 唯一人間の女性と違う部分があるとすれば、その女性には狐の耳と、九本の尻尾が生えていることくらいだろうか。

 そんな女性を見て笑顔になったアスカは、弾むように返事を返した。


「おおーっ、タマちゃん久しぶりぃ! じゃ、とりあえずこの子よろしくね!」

「はぇ!? な、なんじゃこの赤子は!?」


 出現した玉藻を見たアスカは、素早く泣いている乳児を抱き上げ、玉藻へと手渡す。

 玉藻はぽかんと口を開きながら、アスカに向かって言葉をぶつけた。


「おい、アスカ! 一体この赤子は―――」

「ぎゃあああん! ぎゃあああん!」

「お、おう。泣くでない赤子。よーしよしよし……」

「うんうん。そんな感じ! じゃあその辺に集まってる子達の面倒、よろしくね♪」


 アスカはいつのまにか玉藻の周りに乳児のベッドを集め、しゅぴっと片手を上げて言葉を発する。

 その言葉を受けた玉藻は、噛み付くように言葉をぶつけた。


「ば、馬鹿者! わらわに赤子の面倒じゃと!? 貴様、式神をなんだと思って―――こ、こら! 尻尾を引っ張るでないわっぱ!」


 見た目で圧倒的派手さを誇る玉藻は即座に子ども達に囲まれ、その九本の尻尾ひとつひとつに子ども達がくっついている。

 子ども達は無垢な笑顔を浮かべ、玉藻に向かって言葉を発した。


「おねえちゃんきれぇー!」

「おっぱいでけー!」

「しっぽもふもふー!」

「ねえねえ、あそんでー!」

「あ、ちょ……あんっ!? し、尻尾をもふもふするなぁ! わかった、わかったから!」


 玉藻は身体全体を左右に揺らして乳児をあやしながら、周囲の子ども達へと言葉を発する。

 その様子を見たアスカは、親指を立てた拳をリリィに向かって突き出した。


「これでよし! じゃ、残り三ブロックの割り振りを決めよっか!」

「あ、ああ。そうだな……」


 リリィは頭に大粒の汗を流しながら、悪戦苦闘している玉藻を見つめる。

 後で手伝いに行くことを心に誓いつつ、リリィは顔を上げて言葉を続けた。


「では、各自担当した場所に向かってくれ。ところで、ええと……」


 リリィは係員の女性の名前がわからず、困ったように眉を顰める。

 その様子を見た女性は自身の胸に手を当て、返事を返した。


「あ、えと、私の名前はフラル。フラル=ショートと申します」


 フラルは深々と頭を下げ、リリィに向かって言葉を紡ぐ。

 その言葉を受けたリリィはにっこりと微笑み、返事を返した。


「フラルだな。こちらこそ、よろしく頼む。先ほど伝えた通り、フラルは左側の角にいる子ども達の世話を頼む。私は全体を見回し、手が回っていない場所をフォローする」

「なるほど……わかりました。お任せください!」


 フラルはふんすと鼻息を荒くしながら、ぐっと両手を握り込む。

 獣人族特有のけもみみがぴこぴこ動いている様子を見たリリィは、微笑みながら右手を横に振った。


「よし。では各員、各々の配置で頑張ってくれ!」

「あいよ!」

「了解しました」


 こうしてリリィ達は大広間に散開し、それぞれの持ち場につく。

 マホマホ☆ランドにはまだまだ強い日の光が差し込み、これからやってくる嵐の予感など、欠片も感じさせなかった。



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