表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
152/262

第151話:もふもふアタック

「うひょっほう! もふもふだぁ。結局三人でけもみみ生やしちゃったねー」


 アスカは楽しそうに自身のねこ耳を触りながら、リリィとイクサに向かって言葉を紡ぐ。

 その言葉を受けたイクサは、自身のうさ耳を満足げに触りながら返事を返した。


「そうですね。遊園地にいるという現在の状況を考えれば、妥当な行為であると判断します」

「つまり?」

「超楽しいです」

「イエーイ!」


 満面の笑顔を浮かべるアスカと、相変わらず無表情なままのイクサは息の合った様子でハイタッチする。

 その姿を見たリリィは、困ったように笑いながら言葉を発した。


「ふふっ。楽しむのはいいが、節度を守るようにな」

「うん! だいじょーぶだって! あたしだって子どもじゃないんだから!」

「いや、今のところ子どものような動きしかしてないけどな」


 リリィは小さく笑いながら、アスカに向かって言葉を紡ぐ。

 その言葉を受けたアスカは、頬を膨らませながら返事を返した。


「ぶぅー、なんだよぉ。あたしのどこが子どもっぽいって―――あ! なんだあれ! 行ってみよう!」

「あっ、おい!? 子どもっぽいと言ってるのはそういうところだ!」


 またしても急に駆け出したアスカを、リリィは慌てて追いかける。

 アスカを追いかけた先に見えてきたのは、大量のぬいぐるみで溢れているおとぎの国のような雰囲気のする一角だった。


「ここは見た目の通り“ファンシー通り”と呼ばれている区間です。ぬいぐるみを販売している店舗が多く集まり、特にねこにゃーグッズが人気です」


 イクサは視界いっぱいに広がるぬいぐるみ達を見つめ、淡々とした調子で説明する。

 その説明を聞いたリリィは、ごくりと唾を飲み込みながら頷いた。


「ぬ、ぬいぐるみがいっぱい……か。確かに凄い量だな」


 リリィは少しだけ頬を赤く染め、陳列されているぬいぐるみを両手でそっと持ち上げる。

 イヌの形をしたそのぬいぐるみはリリィの頭に生えている耳の色とお揃いで、ふわふわとした感触が愛おしさを盛り上げてくれる。

 リリィは抱きしめたい感情を必死に抑え、言葉を発した。


「ま、まあ、我々には不要の長物だろう。思い出は心の中にあれば良いのだからな」


 リリィは震える手でぬいぐるみを元の場所に戻し、両目を瞑って胸の下で腕を組む。

 やがてリリィがその目を開くと、視界いっぱいにねこにゃーのどアップが映し出された。


「ほわっ!? ね、ねこにゃー!?」


 リリィは驚きに両目を見開き、その頬を赤く紅潮させる。

 入場ゲートにいたねこにゃーと同じサイズのそのぬいぐるみは、真っ直ぐにリリィを見つめている。

そんなぬいぐるみを背後で操っているアスカは、裏声を出してリリィへと言葉を発した。


『リリィちゃん。ねこにゃーも買ってくれないのかにゃ? ねこにゃー寂しいのにゃ』

「えっ!? で、でも、旅をしている以上、あまり無駄使いはできないし……」


 リリィは困ったように目線を伏せ、ねこにゃー(アスカ)へと返事を返す。

 ねこにゃーはそんなリリィの言葉を受けると、さらに近づいて言葉を発した。


『いやにゃ! そんにゃこと言わないで、買って欲しいのにゃ!』


 アスカは巨大なぬいぐるみを巧みに操り、リリィの身体を強く抱きしめる。

 そのもふもふな身体に抱きしめられたリリィは、震えながら声を発した。


「あぅ。ね、ねこにゃー……!」


 リリィは頬を赤く染めながら、ねこにゃーのぬいぐるみを強く抱きしめ返す。

 その姿を見たアスカはねこにゃーのぬいぐるみから手を離し、イクサと共にリリィを見つめた。


「ふふふ。落ちたね、リリィっち」

「落ちましたね」


 アスカはニヤニヤと笑い、イクサはいつも通り無表情なまま小さく言葉を落とす。

 その言葉を聞き取ったリリィは正常な意識を取り戻し、真っ赤になりながら二人へと言葉をぶつけた。


「あっ!? こ、これは、違う! 違うんだ!」


 リリィはねこにゃーの巨大ぬいぐるみを抱きしめたまま、真っ赤な顔で言葉を発する。

 そんなリリィを見たアスカは、ねこ口になりながら返事を返した。


「またまたー。嘘つかなくていいんだよ? リリィちゃん♪」

「ちゃん言うな!」


 リリィはさらに頬を赤くしながら、からかうような態度のアスカへ言葉をぶつける。

 しかしそんなリリィ達の様子を客観的に見ていたイクサは、冷静な様子で言葉を返した。


「それよりも……リリィ様。そちらの子どもはお知り合いですか?」

「―――へっ?」


 イクサの唐突すぎる言葉が理解できず、ぽかんと口を開けて声を発するリリィ。

 その時初めてリリィは、自身のはいているスカートが小さな手に引っ張られていることに気付いた。


「おかあ、さん。どこぉ……?」

「え―――」


 リリィはぽかんと口を開いたまま、自身のスカートを引っ張っている涙目の子どもを見つめる。

 どうやら獣人族らしきその子どもは、黄色くて小さなねこ耳をぷるぷると震わせながら、賢明にリリィのスカートを掴んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ