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第135話:ゴーレムとの戦い

『グォオオオオオオオオ!』


 ゴーレムは雄たけびを上げながら、アニキに向かってその巨大な拳を振り下ろす。

 その拳の終着点である地面は円形のヒビ割れと共に砕かれ、クレーターのような巨大な穴がそこに生まれる。

 しかしその穴の中心にアニキの姿は無く、拳を引いたゴーレムは困惑した様子で首を傾げた。


「どーこ見てんだよおめぇは。ちゃんと狙えや」

『っ!?』


 ゴーレムは背後からの声に驚いて振り返ろうとするが、その瞬間ゴーレムの頭部に強烈な痛みが走り、その巨大な体躯は遠くへと吹き飛ばされる。

 回し蹴りを放ったアニキはそのまま地面へと着地し、遠くに吹き飛ばされたゴーレムを遠めに見つめた。


「ちぃっ。やっぱ体がなまってやがるぜ」


 アニキは遠目に吹き飛んだゴーレムを見つめると、悔しそうに言葉を落とす。

 そんなアニキの隙を突いたのか、今度は別のゴーレムがアニキへとその巨大な拳を振り下ろした。


『グォオオオオオオオ! ―――グォッ!?』

「…………」


 自分の強靭な拳は確かに、脆弱なはずの人間を押しつぶした。

 そのはずなのに、肉を潰した感触が、骨を折る感覚が拳に伝わってこない。

 代わりに自身の拳を焦がす圧倒的な“熱”に驚いたゴーレムは、その無機質な目を見開いた。


「へっ……いいねえ。たいしたパワーじゃねえの、お前」


 アニキは右腕を頭上に上げ、ゴーレムの巨大な拳をその腕一本で受け止める。

 その髪色は深い赤から鮮やかな赤に変わり、上げられた右腕にはいつのまにか逆巻く炎が発生していた。


『グッ……グォオオオオオオオオ!』


 自分の強靭な拳が、どんなものでも砕いてきた拳が脆弱な人間ごときに止められるわけがない。

 ゴーレムは自身の中にある力を信じ、再度右拳に力を込める。

 しかしその巨大な拳はピクリとも動かず、アニキは歯を見せて笑った。


「それが本気か……なら、こっちもいくぜぇ!」


 アニキは楽しそうな笑顔を浮かべながら自身を押しつぶそうとする拳を跳ね返し、体勢を崩したゴーレムの腹部へと潜り込む。

 後ろに倒れそうになる身体を立て直そうとしているゴーレムは、そんなアニキを遠ざけることもできず、その無機質な瞳をアニキに向けるしかない。

 アニキは右拳に炎を集約させると、ゴーレムの腹部へと一撃を叩き込んだ。


「っ!?」


 ゴーレムは腹部への強烈な一撃に痛みを感じる間もなく吹き飛び、炎と共にその身体を四散させる。

 その様子を見たアニキは両拳を打ち鳴らし、他のゴーレム達を睨みつけた。


「っしゃあ! どんどん来いやぁ!」


 アニキはゴーレム達を視界に収め、右拳を身体の後ろに引きながら体勢を低く構える。

 そんなアニキの様子を遠目から見ていたファイアロッドは、にっこりと笑って自身の担当するゴーレム達へと身体を向けた。


「あらあら、これはわたくしも頑張らないといけませんわね……お相手いたしますわ、モンスターさん」


 ファイアロッドは馬鹿にするような視線をゴーレムたちへ向け、杖を身体の前に構える。

 その時、距離を詰めようとしたゴーレムの動きを看破すると、ファイアロッドは即座に呪文を詠唱した。


「絆も廃塵に帰する紅蓮の炎。眼前の敵を焼き尽くせ。”ヴォルケーノ”」


 ファイアロッドの足元に赤い魔法陣が出現すると、その輝きに呼応するように茶色いロングヘアは空中に浮遊する。

 構えたその杖の先端が眩いほどの赤い光を放つと、上空から超巨大な火球がいくつも姿を現し、ゴーレム達へと降り注いだ。


『グオオオオオオオオッ!?』


 ゴーレム達の屈強な身体はファイアロッドの呼び出した巨大火球によって砕かれ、ゴーレム達は次々に膝を折って倒れていく。

 まるで世界の終わりのようなその光景に、リースは両目を見開いた。


「すご、い。炎の上級魔法を、あんなに簡単に……」

「…………」


 イクサはリースの呟きを聞くと、切なそうな表情で瞳を伏せる。

 その様子を遠目から見ていたファイアロッドは、ニヤリと口元を歪めた。


「どうですの!? アニキ様! わたくしの魔術は!」


 ファイアロッドは大げさな仕草でアニキへと身体を向けると、マントを翻しながら両手を広げて叫ぶ。

 アニキはゴーレムの攻撃を回避しながら、ファイアロッドへと返事を返した。


「ああっ!? おー! 結構やるじゃねーか!」


 アニキはファイアロッドの実力を認めたのか、親指を立てた拳をぐっと突き出す。

 その様子を満足げに見たファイアロッドは、遠くに立つイクサへと馬鹿にするような視線を送った。


「……っ!」


 ファイアロッドに視線を向けられたイクサは、自身の胸に去来した感情に違和感を覚える。

 しかしその感情が発生した理由も、その感情自体も説明できないイクサは黙って口を噤み、ファイアロッドを見返すことしかできなかった。


「フン……ま、いいですわ。あなたはただ、そこでぼーっと見ていなさい」

「…………」


 イクサはファイアロッドの言葉が届いたのか、悲しそうにその瞳を伏せる。

 ファイアロッドはそんなイクサの様子を確認もせず、笑顔を浮かべながら襲い来るゴーレム達へと向き直った。


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