第131話:裏庭の決闘
「お待ちください、ファイアロッド様。私と貴方が戦う理由は皆無です。よって、決闘を行うことはできかねます」
イクサは両目を見開いたまま、ファイアロッドへと返事を返す。
しかしファイアロッドは眉間に刻まれた皺を緩めることなく、さらに言葉を続けた。
「今回の依頼人はわたくしです。わたくしの認めた者しか依頼を手伝うことは許しません。これで戦う理由はできましたか?」
「……っ!」
イクサは滅茶苦茶ながらも反論のできないファイアロッドの言葉に閉口し、どう言い返したものかと思案する。
その時、足元に立っていたリースがぴょんぴょんとジャンプしながらファイアロッドへと質問した。
「あ、あの! じゃあ僕も戦わなきゃいけないよね! できれば僕も、アニキさんの任務一緒に行きたいと思ってるんだ!」
リースはぶんぶんと両手を上下に振り、二人の視界に入るよう飛び跳ねながらファイアロッドへと質問する。
ファイアロッドはにっこりと微笑むと、そんなリースへと返事を返した。
「あら、あなたは大丈夫です。わたくしはただ、この方の実力を疑っているだけですもの」
「そ、そんな……」
子どもである自分は良くて、イクサは駄目というのはどう考えてもおかしい。
リースはさらに言葉を続けようと口を開くが、イクサはそんなリースの口元に手を伸ばし、その口を塞いだ。
「わかりました、ファイアロッド様。私の実力が任務達成に足るかどうか、決闘をもって見極めてください」
「イクサさん!?」
リースは驚愕の表情を見せ、呆然としながらイクサを見上げる。
イクサはそんなリースへと顔を向けると、静かに言葉を紡いだ。
「問題ありません、リース様。依頼人の不安を取り除くことも、ハンターの仲間として必要な事と考えます」
「イクサさん……」
真っ直ぐに自分を見つめて言葉を紡ぐイクサを、不安そうな表情で見返すリース。
ファイアロッドはそんなリースの心配をよそに、満足そうに笑いながら言葉を紡いだ。
「良い心がけですわ。では、この支部の裏庭に参りましょう」
「了解しました」
支部の裏口へと歩き出したファイアロッドの後を追って、イクサは早足で歩いていく。
リースはぽかんとした表情をしていたが、ぶんぶんと顔を横に振ってリセットすると、そんな二人の後を慌てて追いかけた。
「ま、待って! 僕も行くよ!」
リースはわたわたと足を動かし、鞄の紐を握りながらファイアロッド達の後を追いかける。
アニキはそんな三人に気付かず、記入欄の多い書類に頭を抱えていた。
ダブルエッジ支部の裏庭は思ったより広く、足元には背の低い草が茂り、遠くに見える山々から流れてきた爽やかな風が身体を包む。
ファイアロッドはひとりで裏庭の中心辺りまで歩みを進めると、イクサ達へと振り返った。
「さあ、いつでも構いませんわ。わたくしの準備はできています」
ファイアロッドはマントを風に靡かせながら、杖の先端をイクサへと向ける。
イクサはそんなファイアロッドに対し、白く長い髪を風に靡かせ、眉間に皺を寄せて真っ直ぐに見返した。
「あの、イクサさん……ほんとにだいじょうぶ?」
リースは不安そうにイクサを見上げ、小さな声で言葉を紡ぐ。
イクサはファイアロッドを警戒し、視線をファイアロッドに向けたまま返事を返した。
「問題ありません、リース様。現在習得している能力でも、充分に戦闘行為は可能と思われます」
イクサはゆっくりとした動作で空に向かって右手を突き出し、レヴォリューションの準備を始める。
その動作を見たリースは、さらに不安そうな表情で空を見上げた。
『違うんだ、イクサさん。僕が余計なこと言ったせいで、今のイクサさんは悩みを抱えてる。そんな状況で集中して戦えるのか、凄く不安なんだ』
リースは祈るような気持ちで鞄の紐を握り、右手を空に突き出したイクサを見守る。
頭上へ手を突き出したイクサに、黄緑色の光が天空から降り注ぐ。
イクサは天空から差し込んできた黄緑色の光に包まれ、ファイアロッドはその光の眩しさに目を細める。
やがてその黄緑色の光から、電子的な声が響いてきた。
CheckingMainSystem. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .. . OK_
RevolutionDriverLoading. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .. . . OK_
RevolutionSystem. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .lock_
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
「―――えっ?」
イクサはぽかんと口を開き、呆然とした表情で空を見上げる。
空から差し込んできた黄緑色の光はやがてその力を弱め、裏庭には片手を上げたままのイクサが残された。
ファイアロッドは余裕の表情を浮かべ、笑いながら言葉を紡ぐ。
「あら。何が始まるのかと思えば……何も変わったところはありませんわね」
「そん、な……」
リースは呆然としながらも、かろうじて小さく言葉を落とす。
しかしこの事態に最も驚いているのは、他ならぬイクサ自身だった。
「レヴォリューションが、使えない……?」
イクサは上げていた片手を力なく下げると、呆然とした表情で空を見上げて言葉を紡ぐ。
不安が的中してしまったことに悲しみを隠せず、リースは心配そうにイクサを見上げていた。