第130話:ファイアロッド=リターナー
「ったくお前ら何話してたんだ? 待ちくたびれちまったぜ」
アニキはゴキゴキと首を鳴らしながら、後から歩いてきたイクサ達を見つめる。
リースは少し息を切らせた状態で、そんなアニキへと返事を返した。
「ご、ごめんねアニキさん。ちょっと盛り上がっちゃって……」
リースはえへへと頭を搔き、アニキに向かって返事を返す。
アニキは片眉を吊り上げながら言葉を返した。
「ふーん? まあ、いいけどよ。じゃあ受付に行ってみっか」
「うん!」
「了解しました」
アニキの声に反応し、それぞれ頷いて見せるリースとイクサ。
その様子を確認したアニキは、ダブルエッジ支部の奥にある受付の担当者へと身体を乗り出して質問した。
「よう。俺宛に依頼があったらしいんだけどよ、何か知らねえか?」
アニキは受付の窓口部分へと身体を乗り出し、至近距離で言葉を紡ぐ。
その言葉を受けた受付担当者は、アニキの髪と態度を見てぽんっと両手を合わせた。
「ああ、あんたがクロイシスの支部団長か。その依頼人なら、そろそろここに来る頃だぜ」
受付の窓口部分から、若い男の声が響く。
その言葉を受けたアニキは、方眉を上げて両目を見開いた。
「あん? ここに来んのか。そりゃ好都合だな」
アニキは受付からの思いがけぬ返答に驚きながらも、背後にあった入り口へと視線を移す。
そしてその瞬間、入り口からアニキに向かって、地面を走る二本の炎が真っ直ぐに伸びてきた。
二本の炎は唸るような音を出しながら、高速でアニキに向かって伸びてくる。
その間にイクサ達が立っていることに気付いたアニキは、咄嗟に声を張り上げた。
「っ!? あぶねえ! 二人とも下がれ!」
「ほわっ!?」
「っ!」
アニキはリースとイクサの二人を右手で強引に横へ押しのけ、地面を走ってきた炎と真正面から対峙する。
しかし炎はアニキにぶつかる手前で停止し、結果的に入り口からアニキに向かって、二本の炎で出来た道が作られただけだった。
そしてその後、入り口から高い声が響いてくる。
「ご安心なさって。わたくしに攻撃の意思はありませんわ」
その声の主は入り口をそっとくぐると、二本の炎で形作られた道を真っ直ぐに歩いてきた。
「それにしても、その反応速度……さすがですわね」
入り口から姿を見せたのは、茶色のロングヘアに赤いマント、首元にある白いファーが輝く美しい女性だった。
女性は装飾の施された大きめの杖をつき、ゆっくりとアニキ達へ近づいてくる。
「申し遅れました。わたくしの名はファイアロッド=リターナー。気軽に“ファイアロッド”とお呼びくださいませ」
ファイアロッドと名乗った女性はその大きな赤いマントを片手で広げ、上品な動作でアニキに向かって深々と頭を下げる。
アニキは戦闘態勢にあった両拳を収めると、ファイアロッドを正面から見据えた。
「ふーん……ファイアロッドね。俺の事はまあ、“アニキ”とでも呼んでくれや。今回依頼してきた依頼人ってのは、もしかしてあんたか?」
アニキは両腕を組み、ファイアロッドへと言葉を紡ぐ。
その言葉を受けたファイアロッドは何故かプルプルと肩を震わせ、その後真っ直ぐにアニキの目を見つめると、にっこり微笑みながら返事を返した。
「ええ。さすがはアニキ様。察しが良くて助かりますわ」
「別に褒めても何も出ねえぞ。それで、依頼内容ってのは何なんだよ?」
アニキは苦手な女性であることも手伝ってか、ファイアロッドから少し距離を取って質問する。
ファイアロッドはそんなアニキの態度も予想通りであるかのように、怪訝な表情ひとつ見せずに返事を返した。
「ええ。依頼内容をお話したいのは山々なのですけれど……その前に後ろの窓口で、依頼受領の手続きをしていただけますか? 面倒ですが、これも規則ですので」
ファイアロッドはにっこりと微笑みながら、アニキに向かって言葉を紡ぐ。
その言葉を受けたアニキは、面倒くさそうにボリボリと頭を搔いた。
「ああ? ちっ、面倒くせえな……しかしまあ、しょうがねえか」
アニキは頭を搔きながら受付へと身体を向け、「依頼受領させてくれ」と面倒くさそうに言葉を発する。
その後受付担当者から差し出された入力書類を見ると「めんどくせっ!」と悪態をつきながら汚い字で記入を始めた。
「……ところで、そこのあなた。あなたはアニキ様の何なんですの?」
ファイアロッドはその表情から笑顔を消し、杖の先端をイクサに向けながら言葉を発する。
その言葉を受けたイクサは、淡々とした様子で返事を返した。
「はい。私はイクサ。アニキ様のサポートをするためにここへ来ています。わかりやすく言うなら、仲間……といったところです」
イクサはその白い瞳でファイアロッドを見返し、淡々とした調子で返事を返す。
その言葉を受けたファイアロッドは、眉間に皺を寄せながら返事を返した。
「そう、仲間……ですの。ではあなた、わたくしと決闘しなさい」
「―――はい?」
イクサはファイアロッドの唐突な命令に両目を見開き、呆然とした様子で言葉を落とす。
ファイアロッドはそんなイクサから欠片も視線を外すことなく、真剣な表情のまま瞳の奥に闘志を燃やしていた。




