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第125話:いつだって前を向いて

「あのおじさん達、放っておいて大丈夫だったのかな……わりと重傷だった気がするけど」


 リース達は裏通りを抜け、大通りを三人で手を繋いで歩きながら会話する。

 心配そうに言葉を紡ぐリースに対し、イクサは返事を返した。


「問題ありません。命に関わるほどの怪我はありませんし、王国騎士団にも連絡済みです。後は彼らが治療及び投獄をしてくれるはずです」


 魔法少女への変身が解けたイクサは、リースとティアラの手を引きながら大通りを進んでいく。

 そんなイクサの言葉を受けたリースは、こくりと頷きながら返事を返した。


「そっか。そうだよね。ティアラは大丈夫? 怪我とかしてない?」


 リースは心配そうに、イクサを挟んで反対側を歩いているティアラへと声をかける。

 ティアラはひょこっと頭を出すと、リースへ笑顔で返事を返した。


「だいじょぶだよ! てぃあらね、すっごくげんき!」

「あははっ。そっか。それは良かった」


 出会った当初よりずっと表情が豊かになったティアラを見て、ほっと胸を撫で下ろすリース。

 イクサはそんなティアラの笑顔を横目で見ると、目的地に向かって進める足を少し速めた。


「そういえばイクサさん、今はどこに向かってるの?」


 リースはイクサに向かって、目的地を質問する。

 イクサは前方から視線を外さず、歩いてくる人々が二人にぶつからないよう気をつけながら返事を返した。


「現在の目的地は、大通りに面している王国騎士団の待機所です。迷子が発生した場合、その両親は高確率でその場所へ行く傾向があります」


 イクサはここ数日ラスカトニアの街を見て回り、それによって得た情報からティアラの母親の居場所を推測する。

 リースは「なるほどー」と頷くと、イクサと同じように進行方向へと顔を向けた。


「ねえねえ、おねえちゃん! おねえちゃんはいつからまほうしょうじょなの?」


 ティアラは首を傾げ、大きな瞳をキラキラと輝かせながらイクサへと質問する。

 イクサはそんなティアラの質問を受けると、目線を合わせながら返答した。


「魔法少女になった時期、ですか。それは、ついさっきです」

「さっき? さっきはじめてへんしんしたの?」

「その通りです。私は本日から魔法少女に変身できるようになりました」

「え、ちょ、イクサさん。それ言っちゃっていいの?」


 リースは頭に大粒の汗を流し、イクサへと小さな声で言葉を紡ぐ。

 そんなリースの様子に首を傾げると、イクサはさらに言葉を続けた。


「魔法少女は生まれつきなるものではなく、後天的になるものです。……つまり、ティアラ様だって魔法少女になれる可能性はあります」

「っ!?」


 リースはイクサの言葉に驚き、その青い目を大きく見開く。

 あれほど機械的だったイクサが、相手の感情を考え、言葉を選ぶようになっている。

 そういったことが苦手なのかと思っていたリースは、そんなイクサの変化に内心驚いていた。

 一方ティアラはイクサの言葉を受けると、より一層瞳を輝かせ、返事を返した。


「ほんとぉ!? そっかぁ! てぃあらがんばるね!」

「ええ。ティアラ様ならきっと、魔法少女になれるでしょう」


 イクサはその白い瞳と感情の灯っていない表情で、ティアラに向けて大きく頷く。

 そんなイクサを見たティアラは、満面の笑顔で「うん!」と返事を返した。


「ああ、見えてきましたね。あれが王国騎士団の待機所です。そして我々のミッションも、どうやらここで終わりのようです」

「えっ? ……あ!?」

「おかあさん!」


 ティアラはイクサの手から離れ、待機所の前で泣いていた女性へと抱きつく。

 ティアラの母親らしきその女性は涙を流しながら、ティアラを強く抱きしめていた。


「ティアラ……ああ。本当によかった」

「あはは、おかあさん。いたいよぉ」


 母親に抱きしめられたティアラは、くすぐったそうに笑う。

 その様子を見た母親は、驚いた表情で目を見開いた。


「あの内気だったティアラが、こんなに笑顔になるなんて……何かあったの?」


 母親は驚いた表情のまま、ティアラに向かって言葉を紡ぐ。

 ティアラはイクサ達を指差すと、興奮した様子で言葉を発した。


「あのね、おかあさん! おねえちゃんとおにいちゃんが、てぃあらをたすけてくれたの! それでね、すごいんだよ! あのおねえちゃんまほうしょうじょなの!」


 ティアラは興奮した様子でぴょんぴょんと飛びはねながら、母親へと返事を返す。

 母親は頭に疑問符を浮かべながらも立ち上がり、深々と頭を下げながらイクサ達へとお礼の言葉を述べた。


「お二人とも、本当にありがとうございました。えっと、魔法少女というのは……ひょっとして魔術士さんのことでしょうか?」


 母親は頭に疑問符を浮かべ、首を傾げながら言葉を発する。

 その仕草はティアラとよく似ていて、イクサは内心驚きながらも返事を返した。


「いえ、魔法少女が正しい表現です。私は魔法少女ですので」

「ちょっ!?」


 せっかく普通の話としてまとまりかけていたところで、まさかのカウンターを返すイクサ。リースはそんなイクサに対し、驚きの声を上げた。

 しかしティアラの母親はそれほど気にする事もなく、再び頭を下げる。


「えっと……とにかく本当に、ありがとうございました。家で夫も心配しておりますので、申し訳ありませんがこれで失礼します。あ、騎士様たちにもお礼を言わないと……」


 母親は三度深々と頭を下げながら、待機所の奥にいる騎士たちへと近づいていく。

 母親の言葉を聞いたティアラは、悲しそうに眉を顰めながらイクサへと近づいた。


「おねえちゃん……ばいばい? もうあえないの?」


 ティアラはその瞳に涙を溜めながら、イクサへと言葉を紡ぐ。

 その様子を見たイクサはぽんっとティアラの頭を撫でると、無表情のまま言葉を紡いだ。


「ばいばいです、ティアラ様。しかし、いつかまた会えるでしょう。ティアラ様が良い子でいればいつか、きっと」


 イクサは無表情のまま、淡々と言葉を発する。

 その言葉を受けたティアラは、今にも泣き出しそうな表情で返事を返した。


「ふぇ。ほんとぉ? ほんとにまた、あえう?」


 ティアラは若干舌足らずになりながら、イクサへと言葉を紡ぐ。

 イクサはそんなティアラの頭を優しく撫でながら、その表情を変化させた。


「―――大丈夫ですよ、ティアラ様。魔法少女はいつだって前向き、でしょう?」

「っ!?」


 ティアラは変化したイクサの表情に目を見開き、ぽかんと口を開ける。

 その後涙を溜めながらにっこりと微笑み、大きく頷いた。


「うん! てぃあらね、ぜったいおねえちゃんみたいにきれーなまほうしょうじょになる!」


 元気よく頷いたティアラの頭を、優しく撫で続けるイクサ。

 やがて母親が戻ってくると、そっとその手からティアラを開放した。


「では本当に、ありがとうございました。失礼いたします」

「おねえちゃん、おにいちゃん。またねー!」


 ティアラは母親に絵本を渡すと、その手を引かれながら、いつまでもぶんぶんと片手を振る。

 リースは笑いながら両手をぶんぶんと横に振ると、「またねー!」と言葉を届けた。


『あのお姉さん、美人さんだけど表情が固かったわねぇ』

『えへへ、しらないんだおかーさん。あのおねえちゃんはね―――』


 遠くを歩く親子の話し声が、所々聞こえてくる。

 その声もやがて人々の喧騒の中に消え、やがて後ろ姿も見えなくなった。


「ふぅっ。良かったぁ。もうちょっとで夜がきちゃうところだったもんね」

「はい。しかしながら、我々のミッションを達成することは不可能になりました」

「えっ!? ……あ」


 イクサの言葉を受けたリースは、慌てて周囲の商店の様子を見る。

 すると商店は次々に販売時間を終え、看板などを片付けていた。


「もう、各店舗の閉店時間です。よって、本来の目的である“水を買う”ことは困難であると思われます」

「あ、あはは…………どうしよう」


 リースは乾いた笑顔を浮かべながら、がっくりと両肩を落とす。

 イクサはティアラ達の歩いていった道を、いつまでも見つめ続ける。

 やがて周囲が暗くなると、輝く星たちへと、その視線を移していた。

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