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第124話:ファンシー・バトル

「覚悟しろよこのアマ。ズタズタにしてやるぜ」


 ガラの悪い男達はイクサを睨みつけながら、じりじりとその距離を詰める。

 その様子を見たティアラは、不安そうにイクサを見上げた。


「おねえちゃん……だいじょうぶ?」


 ティアラは絵本をぎゅっと抱きしめ、少し潤んだ瞳でイクサを見つめる。

 イクサはスティックを身体の前に出して構えを取ると、ティアラに向かって返事を返した。


「問題ありません、ティアラ様。何せ私は……魔法少女ですから」


 イクサはティアラに向かってポーズを決め、優しい声で返事を返す。

 その言葉を受けたティアラは、まるで花咲くような笑顔を見せた。


「そっかぁ! そうだよね! おねえちゃんがんばれー!」


 ティアラは笑いながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねてイクサへと声援を送る。

 イクサは横目でそんなティアラを見ると、再び男達へと視線を戻した。


「と、いうわけです。さっさとやられて頂けますか?」

「やだよ! コンチクショウ馬鹿にしやがって! もう女だからって容赦しねえぞ!」


 ガラの悪い服装をした男は鼻息荒くナイフを振りかざし、イクサに向かって刺突を繰り出す。

 イクサはひらりとその攻撃を回避すると、男に向かってステッキをかざした。


「仕方ありませんね……ぷりてぃ☆びーむ♪」

「おわぁっ!? な、なんじゃこりゃあ!?」


 イクサのステッキから放たれたビームを受けた男は、全身をファンシーな着ぐるみへと姿を変える。

 男は可愛らしい肉球になってしまった両手を見て、声を荒げた。


「お、お前、頭も何かかぶってるぞ! すげえ可愛いやつ!」

「ええっ!? くそっ! 馬鹿にしやがって!」


 男はいつのまにか頭にかぶらされていた着ぐるみの頭を放り投げ、鋭い視線をイクサへぶつける。

 しかしイクサはそんな男の視線を無視し、ティアラへと言葉を紡いだ。


「今の技はどうでしょう、ティアラ様。なかなか可愛かったと思うのですが」

「うん! おねえちゃんすごい! もっとやってー!」


 ティアラはぴょんぴょんと飛び跳ねながら、イクサにアンコールを依頼する。

 リースは片手で額を押さえながら「ぼ、僕にはもう何が何だか……」と困ったように眉を顰めた。


「どうしました? リース様。何か困り事でも?」

「いや、主にイクサさんが原因なんだけど……なんでもないよ。きっと僕がズレてるんだ」

「???」


 両手で頭を抱えるリースに対し、小さく首を傾げるイクサ。

 一方ガラの悪い男達はいよいよ怒りの頂点となり、イクサへと襲い掛かった。


「くそっ! 所詮はひとりだ! 全員で一斉に行くぜ!」

「「「おう!」」」


 男達は連携し、前後から挟み込む形でイクサへと襲い掛かる。

 イクサはそんな男達の動きを看破すると、ステッキを空中に投げてその上に跳び乗った。


「挟み打ちならこれですね。ふわふわ☆すてっき♪」

「「「「おわぁっ!?」」」」


 イクサは空中に投げたステッキの上に乗り、空中をふわふわと浮遊する。

 前後から挟み込む形で突進していた男達は互いに激突し、地面に転がりながら空中に浮いたイクサを見上げた。


「てめえ、降りてきやがれ! 卑怯だぞ!」

「お断りします。4対1の方が卑怯だと思われます」

「あ、それはもっともだね」


 リースはぽんっと両手を合わせ、イクサの言葉に同意する。

 ガラの悪い男達はそんなリースの言葉に反応し、声を荒げた。


「うるせえ! 俺達はいいんだよ!」

「あ、そうだ! あいつが浮いてるなら、このガキどもを人質にしちまおうぜ!」

「それだ! へへへ、形成逆転だぜ!」


 男達は下種な笑いを浮かべながら、リース達へとその両手を伸ばす。

 しかしその手がリース達に触ようという刹那、一番近づいていた男がイクサのステッキからのビームを受け、黒コゲになって吹き飛んだ。

 突然目の前の仲間が吹き飛ばされ、壁に打ち付けられた男は驚愕し、半狂乱になりながら叫んだ。


「わぁぁぁぁ!? こ、こわい! ていうかお前今、技名言わずにビーム出しただろ! いいのかよそれ!?」

「そうだそうだ! 技名くらいちゃんと言いやがれ!」


 男達はやいやいと声を荒げ、イクサへと言葉をぶつける。

 しかしイクサはその白い瞳で真っ直ぐに男達を射抜き、威圧感を背中に纏いながら返事を返した。


「ふぅ……その子たちに手を出さなければ、まだ半殺しで済ませたのに。これはもう全殺ししかありませんね」

「こ、怖っ!? イクサさん落ち着いて! 魔法少女としてそのセリフと威圧感はアウトだから!」


 リースはわたわたと両手を動かし、イクサに向かって言葉をぶつける。

 そんなリースの言葉にはっと意識を取り戻したイクサは、頭を横に振って返事を返した。


「はっ。いけない……そうでした。あくまでファンシーに、可愛らしく、ティアラ様を怖がらせないように―――ぶっ殺します」

「それアウトォォ! 最後のセリフ完全アウトだよイクサさん!」


 リースは未だ冷静さを取り戻せていないイクサに対し、勢いよくツッコミを入れる。

 イクサは何度か深呼吸を繰り返すと、さらにくるくると杖を回転させて男達へとその先端を突きつけた。


「なかなか魔法少女も難しいものですね。ちょっとくじけそうです」

「いや難しいっていうか、そもそも向いてないんじゃ……」


 リースは頭に大粒の汗を流しながら、スティックを構えたイクサを見つめる。

 ティアラはキラキラとした瞳でイクサを見ながら、先ほどよりもずっと大きな声で言葉を発した。


「くじけちゃだめだよ、おねえちゃん! まほうしょうじょはいつだってまえむきだもん!」


 ティアラはその大きな瞳を輝かせ、真っ直ぐにイクサを見つめて言葉を発する。

 その迷いの無い瞳と言葉を受けたイクサは、両目を見開いて驚いた。


「いつだって、前向き……なるほど。了解しました」


 イクサは再びくるくるとスティックを回転させ、その先端を男達へと突きつける。

 男達は手に持っていた武器を捨て、懐から別の武器を取り出すと、その銃口をイクサへと向けた。


「へ、へへへ。俺達にこれを使わせるとは、馬鹿な奴だぜ」

「こいつはなぁ、ラスカトニアでしか製造されてない魔道銃だ。てめえなんか一発で殺っちまうぜ」


 男達は下種な笑いを浮かべながら勝利を確信し、イクサへとその銃口を向ける。

 飛び道具であることを見切ったイクサは、ため息を落としながら杖を掲げた。


「魔道銃……ですか。確かに珍しい代物ですが、私には通じません」


 イクサはスティックを身体の前に掲げ、男達へと返事を返す。

 男達は一様に勝ち誇った笑みを浮かべながら、引き金に指をかけた。


「へっ……言ってやがれ。死ねや、魔法ババァがあぁ!」


 男達は全員で同時に引き金を引き、それと同時に炎や水、風の属性を持った魔術が銃口から放たれる。

 それらの魔術は真っ直ぐにイクサへと向かい、容赦なくその牙を剥いた。


「!? 危ない、イクサさん!」


 リースは予想以上の威力を持った魔術に驚き、イクサに向かって声を荒げる。

 しかし当のイクサは欠片も動揺を顔に出すことはなく、小さな声で技名を言い放った。


「無駄です……いやいや☆ばりあー♪」

「「「「っ!?」」」」


 イクサの杖の先端からピンク色のバリアが出現し、男達の放った魔術を柔らかく吸収する。

 そしてそのまま、ぼよんという音と共に男達へと魔術を反射した。


「いぎゃあああああ!? あ、足が、足が折れた!」

「ひいいいいい!?」


 自分達の放った魔術に撃たれた男達は、全員動けないほどの負傷を負って地面をのたうちまわる。

 その様子を見たリースは口元に手を当て、若干引きながら言葉を発した。


「う、うわぁ、ひどい状況。おじさんたちだいじょうぶ?」

「いでえよおおおおおおお!」


 男達はリースの言葉を聞く余裕も無く、その激痛にのたうち回る。

 自業自得とはいえ、普通の神経なら目を背けたくなるような光景である。

 そんな男達を見たイクサは背中を向け、ポーズを決めながら言葉を発した。


「……よし。今日も可愛く悪を打ち倒した、にゃん?」

「いや、今可愛いポーズしても駄目でしょ! だって背景が“のたうちまわるおじさん”だもん!」


 両手を軽く握って可愛いポーズを決めるイクサに対し、リースは再びツッコミを入れる。

 しかしティアラはそんなイクサにぱちぱちと拍手を送り、笑顔で言葉を発した。


「すごい! おねえちゃんかわいいー!」

「可愛いの!?」


 イクサの魔法少女化がよほど嬉しかったのか、もはや男達が視界に入っていないティアラは、笑顔でイクサへと拍手を送る。

 リースはそんなティアラに対し、大粒の汗を流しながらツッコミを入れていた。

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