第123話:魔法少女、参上
空から落ちてきた黄緑色の光に包まれるイクサ。
その光の中で宙に浮くと、身体の手や足にフリフリの衣装が装着されていった。
「な、なんだ!? 何が起こってんだ!?」
「わかんねぇよ馬鹿! 俺が知るか!」
ガラの悪い男達は突然の事態にどうすることもできず、イクサの変身を呆然と見守る。
やがて光の中で全身の変身を終えたイクサは、白いフリフリの衣装に身を包み、ゆっくりと地面へ降り立った。
「魔法少女マジカル☆イクサ……参上です」
イクサは無表情のまま逆にしたピースを目元に当て、男達へポーズを決める。
その手には天使の羽がデザインされた可愛らしいステッキが装備されており、全身は白とピンクを基調としたフリフリドレスに包まれている。
長いロングだった白い髪はピンクのリボンで二つにまとめられ、長いツインテールと化していた。
その様子を見たリースはぽかんと口を開きながら、イクサへと質問する。
「えっと……ご、ごめんイクサさん。まじかる……なんだって?」
リースは片手で頭を抱えながら、イクサへと言葉を発する。
イクサはわざわざリースに身体を向けてポーズを取り直すと、質問に返答した。
「あ、聞こえませんでしたか? 魔法少女マジカル☆イクサです」
「どゆこと!? いや確かに剣とか銃はティアラが怖がると思ったけど、今は別の意味で怖いよ!?」
リースの言う通り、イクサの肉体年齢で魔法少女はだいぶ厳しい。いくら美人とはいえ、魔法少女には適正年齢というものもあるだろう。
正直かつストレートなリースのツッコミに、イクサは首を傾げて返事を返した。
「ティアラ様がご覧になっている現状では、もっとも適切な能力であると判断しました。何か間違っていますか?」
「いや、まあ、間違っているといえば、スタートからもう間違えてるんだけども……」
リースは頭に大粒の汗を流しながら、変身したイクサの全身を見つめる。
フリフリのレースは風に揺れ、髪を束ねるピンクのリボンも同じように揺れる。
ティアラはそんなイクサを見上げると、俯きながらぷるぷると震えた。
「…………」
「てぃ、ティアラ? えっと、ごめん。怒ってる?」
リースはわたわたと両手を動かしながら、ティアラへと言葉を紡ぐ。
その言葉を受けたティアラはがばっと顔を上げると、キラキラとした瞳でイクサへと言葉を発した。
「すごい! すごいよおねえちゃん! まほーしょうじょだったんだぁ!」
「ええっ!? あれOKなの!?」
ティアラは絵本を抱きしめた状態で、羨望の眼差しをイクサへと向ける。
リースはだいぶ失礼な発言をしているが、イクサは気にせずティアラへと返事を返した。
「そうです。実は私は魔法少女マジカル☆イクサだったのです」
「すごーい! かっこいぃー!」
「かっこいいの!?」
その大きな瞳をキラキラさせて感想を述べるティアラへ、両目を見開いて返事を返すリース。
イクサはそんなリースの肩をぽんっと叩くと、言葉を発した。
「リース様……男の子と女の子では、感性が異なるものですよ」
「そ、そう? 僕がおかしいのかな……」
イクサに肩を叩かれたリースは、腕を組みながらうーんと悩み始める。
一方ガラの悪い男達はぽかんと口を開けた状態から復活すると、一斉にイクサへと罵声を浴びせた。
「な、なんなんだよお前! いい歳こいて魔法少女だぁ!? つうか少女じゃねえだろ!」
「そうだそうだ! てめえの歳考えやがれ!」
「……ぽよよん☆びーむ♪」
「「ぎゃああああああああ!?」」
罵声を浴びせた男達の足元を、ステッキの先端から放たれたビームが爆破する。
男達は黒コゲになりながら吹き飛び、地面へと倒れこんだ。
「こ、怖っ!? 魔法少女怖い! 何今の技!?」
リースはがくがくと膝を揺らしながら、吹き飛んだ男二人の変わり果てた姿(黒コゲ)を見つめる。
そんなリースの言葉を受けたイクサは、淡々とした調子で返事を返した。
「あ、聞こえませんでしたか? あれはマジカル☆イクサ百の技のひとつ、“ぽよよん☆びーむ♪”です」
「いや技名はばっちり聞こえてたよ! そうじゃなくて怖すぎない!? チンピラさんたち吹き飛んだよ!?」
「正義とは時に残酷なものです」
「残酷すぎるよ! これもう子ども向けじゃないよね!?」
淡々とした調子で返事を返すイクサに対し、鋭いツッコミを入れるリース。
しかしティアラはぱちぱちと拍手をしながら、笑顔でイクサへと声援を送った。
「すごーい! おねえちゃんかっこいぃー!」
「あ、いいんだ!? いやそれなら良いんだけども!」
リースはぱちぱちと拍手をするティアラを見て、驚きながら言葉を発する。
しかしイクサを取り囲んだ男達は諦めることなく、それぞれの懐からナイフなどの武器を取り出した。
「て、てめえ、ふざけやがって……」
「もう謝っても許さねえぞコラァ!」
男達はそれぞれの武器を手に、ジリジリとイクサとの間の距離を詰める。
イクサは片手でくるんっとステッキを回すと、そんな男達を真っ直ぐに見返した。