第122話:少女の見た花は
ガラの悪い男達に路地裏で囲まれてしまったリース達。
ティアラは不安そうにリースとイクサを見上げ、今にも泣き出しそうな表情だった。
「ご安心ください。リース様、ティアラ様。今すぐ敵を殲滅します」
イクサはゆっくりと右手を空へと突き上げ、ソードの能力を使おうと口を開く。
しかしその瞬間、リースは大声で口を挟んだ。
「ち、ちょっと待ってイクサさん! ティアラの前でそんなことしたら、また泣き出しちゃうよ!? せっかく泣き止んでくれたのに……」
リースは悲しそうな顔でイクサを見上げ、言葉を紡ぐ。
その言葉を受けたイクサは、ゆっくりとティアラへ視線を向けた。
「うぅ……どうしよう。こわいよぉ……」
ティアラはぷるぷると震えながら、大好きな絵本をその小さな両手で抱きしめている。
恐怖に染まりつつあるその顔を見たイクサは、先ほどのリースとティアラのやり取りを思い出していた。
自分は早く母親を見つけるため、最適な質問の仕方をした。しかしティアラは泣き出してしまい、答えてもらえなかった。
一方リースはティアラの心を開き、一瞬だが、その可愛らしい笑顔を引き出した。
イクサは自分とリースの違いを考え、ティアラの持っている絵本を見ると、膝を折ってティアラと視線の高さを合わせた。
「ご安心ください、ティアラ様。ティアラ様のことは、私が全力でお守りします」
イクサは相変わらず淡々とした調子で、ティアラへと言葉を紡ぐ。
ティアラはそんなイクサを見返すと、その大きな瞳を潤ませながら返事を返した。
「ほ……ほんとう?」
「ええ、本当です。何も心配はいりませんよ」
イクサは無表情なまま、こくりと頷く。
ティアラはずっと表情の変わらないイクサの様子に恐怖を感じ、その両目に涙を溜めた。
「はぅ……ううっ……」
ティアラはその両目いっぱいに涙を溜め、いまにもその滴が零れ落ちそうだ。
その様子を見たリースが再び会話に割り込もうと口を開いた瞬間、イクサはひとつの質問をティアラへ届けた。
「ティアラ様。お母さんのことは“好き”……ですか?」
イクサは首を傾げ、ティアラへと質問する。
ティアラはイクサからの意外な言葉に驚きながらも、どうにか返事を返した。
「ふぇ? あ、うん! てぃあらね、おかあさんだいすきだよ!」
ティアラは強く絵本を抱きしめながら、イクサへ一生懸命返事を返す。
その言葉を受けたイクサは表情を変え、今までにない優しい声で言葉を紡いだ。
「―――そうですか。わかりました……もう、大丈夫ですよ」
「っ!?」
ティアラはイクサの表情を見るとその大きな瞳をめいっぱい見開き、ぽかんと口を開ける。
そしてそのまま、小さく言葉を落とした。
「おねえ、ちゃん。きれい……」
「えっ?」
ぽかんと口を開けたまま小さく落とされたティアラの言葉に反応し、リースはイクサの前に回りこんでその表情を見る。
しかしイクサはいつも通りの無表情に戻っており、回り込んできたリースに疑問符を浮かべた。
「どうかなさいましたか? リース様」
「あ、いや……なんでもない、です」
「???」
ぶんぶんと両手を振るリースを見つめ、イクサは疑問符を浮かべながら首を傾げる。
やがてティアラへ視線を戻すと、真っ直ぐにティアラの大きな瞳を見つめた。
「い、イクサさん。一体どうするつもりなの?」
リースは鞄の紐を強く握り、心配そうにイクサへと質問する。
イクサはそんなリースに顔を向けることもなく、返事を返した。
「問題ありません、リース様。殲滅戦でティアラ様を怖がらせてしまう事については、今解決致します」
「え……?」
リースの疑問をよそに、イクサはゆっくりとその細い腕をティアラに伸ばし、ティアラの持っている絵本に触れる。
その絵本の表紙には“魔法を操る少女”とタイトルが書かれており、表紙では可愛らしい服を着た少女が笑顔でステッキを振っていた。
「ティアラ様。ティアラ様はこのご本がお好きなのですね?」
イクサは指先で絵本に触れながら、ティアラへと質問する。
ティアラはこくりと頷きながら、イクサの質問に返答した。
「あ、うん! てぃあらね、いつもこのごほんをよんでるの!」
こくこくと勢い良く頷き、イクサへと返事を返すティアラ。
イクサはその言葉を聞くと「了解しました」と返事を返し、膝を伸ばして立ち上がった。
そしてそのまま、前後から迫ってくるガラの悪い男達を見回す。
「ああん? なんだ姉ちゃん。ストリップでもしてくれんのかよ?」
「ぎゃはははは! そりゃいいや!」
男達は下品な笑い声を響かせながら、じりじりと距離を詰めてくる。
イクサは小さく息を落として前後の男達に両手を突き出すと、低い声で言葉を紡いだ。
「ティアラ様を怖がらせ、“大好き”なものに触れるのを邪魔する貴方達に、私は怒りを感じています。このまま威圧を続けるならこちらも手加減はできませんので、そのつもりでいてください」
イクサは淡々とした様子で、男達へと言葉を発する。
そんなイクサの発言を聞いた男達は、一斉に笑い声を響かせた。
「はぁ? ただの女に何ができるってんだよ! ぎゃはははは!」
「そうそう! おとなしく俺らを楽しませてりゃいーんだよ馬鹿が!」
男達はイクサへ馬鹿にしたような視線をぶつけ、腹を抱えて笑い出す。
イクサは小さく息を落とすと両目を瞑り、頭上へと片手を突き出した。
「警告はしました。ここからは……手加減致しません」
頭上へ片手を突き出したイクサに、黄緑色の光が天空から降り注ぐ。
イクサは天空から差し込んできた黄緑色の光に包まれ、男達はその光の眩しさに目を細める。
やがてその黄緑色の光から、電子的な声が響いてきた。
CheckingMainSystem. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .. . OK_
RevolutionDriverLoading. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .. . . OK_
RevolutionSystem. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .Unlock_
Type. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .MagicGirl_
AreYouReady? . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
REVOLUTION_
「はああああああああああああああああああああ!」
イクサは黄緑色の光に包まれながら、大声で叫ぶ。
その光は近くにいたリース達の目もくらませ、路地裏は黄緑色の光一色に包まれていた。