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第120話:てをつないで

「ふんふーん♪ あ、そういえばイクサさんと二人でおでかけするのって初めてだね!」


 リースは鼻歌を歌いながらイクサと手を繋ぎ、上機嫌でラスカトニアの街を歩いていく。

 そんなリースへと、淡々とした調子でイクサは返事を返した。


「おっしゃる通りです、リース様。私達二人だけで行動するというのは、非常に珍しい状況であると言えます」


 イクサは感情の灯っていない白い瞳で、リースへと返事を返す。

 そんなイクサを見上げながら、リースは先ほどの光景を思い出し、イクサに向かって質問した。


「そーいえばイクサさんって……アニキさんのこと、好きなの?」


 ほとんどの時間をアニキの傍にいることに割いているイクサに対し、リースは純粋な疑問をぶつける。

 イクサはリースを見返し、そして返事を返した。


「??? “好き”とは、どういう感情でしょうか。私が情報を得た現代語辞書には“心がひかれること。気に入ること”とありますが、私のマスターへの感情は“好き”に該当するのでしょうか」


 イクサはリースの質問に答えることはなく、逆にリースへと質問を返す。

 リースは困ったように眉を顰め、うーんうーんと唸り始めた。


「そっか。“好き”にも色々あるもんね……えっと、イクサさんはアニキさんの事、どう思ってるのかな?」


 リースは質問の内容を変え、イクサへと再び質問する。

 イクサはリースの言葉を受けると、即座に返答した。


「マスターは……私がお仕えすべきマスターです。そして非常に理解不能な思考をする人間。という認識です」

「あ、あはは。結構厳しいね……」


 淡々と言葉を発するイクサに対し、頭に大粒の汗を流すリース。

 率直に質問に回答したつもりだが、困ったように笑うリースを、イクサは不思議そうに見つめていた。


「じゃあまあ、好きとはちょっと違うのかなぁ? 僕もよくわかんないや」


 えへへ、と小さく笑い、イクサを見上げるリース。

 イクサはそんなリースの笑顔を見ると、遠くを見つめながら返事を返した。


「なるほど。しかし“好き”というのは非常に曖昧で、とても興味を引かれる感情です。私の中で是非、一考してみたいと思います」


 イクサは自身が今感じている事を、ストレートに言葉で表現する。

 そんなイクサの言葉を受けたリースは、花開くように満開の笑顔を見せた。


「うん! 僕もちょっと、考えてみるね!」


 リースは満開の笑顔を浮かべ、イクサを見上げる。

 そんなリースを見たイクサは、その表情は変わらないまでも、心なしか微笑んでいるように思えた。


「いつか……いつか私にも、好きとは何なのか、分かる日が来るのでしょうか」


 イクサはその白い瞳で幸せそうに行き来するラスカトニアの人々を見つめ、少し不安そうに言葉を落とす。

 その声を聞いたリースは、イクサの手を強く握った。


「だいじょーぶだよ! イクサさん頭いいもん! いつかきっとわかる日が来るって!」


 リースは相変わらずの笑顔を浮かべ、イクサに向かって言葉を紡ぐ。

 イクサはその笑顔を見返すと、こくりと頷いた。


「了解です、リース様。私、考えてみます」


 イクサは頷きながら言葉を紡ぎ、リースは「うん!」と元気良く返事を返す。

 その時、順調に進んでいたイクサの足が急に止まった。


「??? イクサさん、どうかしたの?」


 急に立ち止まったイクサを不思議に思い、頭に疑問符を浮かべて首を傾げるリース。

 イクサはそんなリースに視線を向けると、淡々と言葉を発した。


「水が売っている市場へは、左にある裏通りを通るのが最短ルートです。よって、ここは左折して裏通りを通ることを推奨します」


 イクサは裏通りへの入り口を見つめながら、淡々とした調子で言葉を発する。

 その言葉を受けたリースは、こくりと頷きながら返事を返した。


「そっか。じゃあ裏通りに入ろう。速いに越したことないもんね」


 リースは笑顔を浮かべ、イクサへと返事を返す。

 返事を受け取ったイクサはこくりと頷き、そのまま裏通りへと歩みを進めた。






 ラスカトニアの大通りから左に一本入った裏通り。

 人通りはほとんどなく、家々によって作られた影が全ての地面を黒く染めている。

 しかし遠くからは人々の喧騒が響いてきており、決して寂しい印象は持たない。

 むしろ民家の裏口が密集していることもあってか、使い込まれたバケツなどが裏口の横に置いてあり、人々のこの国での生活が表れているように思えた。


「うーん。裏通りになると一気に人が減るんだね……ちょっと寂しいけど、静かで落ち着いた雰囲気でもあるよね」


 リースは裏通りの雰囲気を前向きに捉え、再び鼻歌を歌いながら軽快に歩みを進めていく。

 イクサは脳内にあるこの国のマップを頭に描きながら、リースの手を引いていた。

 しかし、軽快に裏通りを進む二人に、突然の悲鳴が轟いた。


「!? 今の……女の子、かな? とにかく悲鳴だったよね!?」


 リースはイクサの手を強く握り、イクサを見上げながら言葉を発する。

 こくりと頷きながら、イクサはリースへと返事を返した。


「肯定です、リース様。恐らく児童……そして女子の悲鳴と推測されます。聞こえてきた音量及び方向から考えるに、その角を右に曲がった先から発せられたものかと思われます」


 イクサは淡々とした調子で、リースへと言葉を発する。

 そんなイクサの言葉を聞いたリースは、イクサの手を引っ張って歩みを進めた。


「とにかく、行ってみよう! 何かあったのかもしれない!」

「あっ……」


 リースはイクサの手を引っ張り、ずんずんと裏通りを進んでいく。

 イクサは低い位置にあるリースに手を引かれ、おぼつかない足取りで裏通りを歩いていった。

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