表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/262

第117話:そしてまた朝がくる

「はぁっはぁっはぁっはぁっ……」


 アスカはボロボロになった着物と刀を引き摺り、部屋の中をふらつきながら歩いていく。

 その背後では黒ずくめだったダークマターが、全身真っ白に染まり、アスカの一撃を受けた状態のまま動かない。

 両手を広げた状態で膝立ちになったダークマターは、白目を剥いたまま天を仰ぎ、そしてぴくりとも動かない。

 その身体からは闇の気配が消え、戦闘意識は欠片も感じられない。

 アスカはそんなダークマターを最後に一度だけ横目で見ると、ガクリと膝を折り、その場で膝立ちの状態となった。


「うっ……ぐっ……」


 真っ暗な天井を見上げるアスカの瞳の奥に、優しかった昔のダークマター……いや、君乃塚セイの姿が浮かんでくる。

 自分に暖かさを与えてくれたのは、カレンだけではない。幼き頃に見上げたセイの姿が、その大きな手の温もりが、自分に強さを与えてくれた。

 今はもう、その温もりに触れることはできない。

 いや、もう二度とあの笑顔を見上げることはないだろう。

 その事実がアスカの胸を締め付け、その両目から大粒の涙を流させた。

 アスカは両目を瞑ってポロポロと涙を落とし、しゃくりあげて鼻水をたらしながら、天井に向かって声を張り上げた。


「ぐっ……がっだ。がっだぞぉ! ばかああああああああああああ!」


 アスカはその言葉を発すると同時に、まるで何かのタガが外れたように、両目から涙を流す。

 アスカはただ……泣いた。

 自分でも何故、こんなに悲しいのか。自分自身で決めて自分自身で行ったことなのに、何故こんなにも胸が苦しいのか理解できない。

 それでもただ、涙は流れる。

 まるでダークマターと陽山姉妹の過去を洗い流すように、アスカの瞳からは大粒の涙が流れ続けた。


「アスカ、ちゃん。ありがとう。ごめんね……」


 カレンはアスカの頭を胸元に寄せ、眉を顰めてその頭を撫でる。

 そんなカレンの瞳からも、大粒の涙が落ちては輝いていた。


「ふっぐ、おねえじゃ、おねえじゃああああああああん」


 アスカは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらカレンの胸元に飛び込んで、抱きつく腕に力を込める。

 カレンはそんなアスカを抱きとめ、その頭をずっと撫で続けていた。

 そうして涙を流す二人の下に、リリィ達がふらつきながら到着する。

 リリィは泣きじゃくるアスカと動かないダークマターを見て状況を察すると、その場にストンと腰を落とした。


「アスカ……カレン。そうか。終わったんだな……」

「アスカさん……」


 リースは汗と汚れでボロボロになった服でリリィの隣に立つと、鞄の紐をぎゅっと握り、遠目からアスカを見守る。

 イクサはアスカの様子を見ると沈黙を守り……アニキもまた同じように、腕を組みながら沈黙した。

 アスカの泣き声だけが響いていた、部屋の中。

 そんな部屋の窓から……暖かな色の淡い光がゆっくりと差し込んできた。

 その光は穏やかな速度で、ゆっくりと部屋の中を明るく照らしていく。

 リリィはその光に目を細め……そして小さく呟いた。


「―――ああ、そうか……。もう、朝になるんだ」


 リリィは窓からの眩い光に目を細め、小さく言葉を落とす。

 ラスカトニアの遠くに見える山の間から、暖かな日の光が差し込む。

 その光は優しく、暖かく、ラスカトニア全体を包み込み。

 一つの物語の終焉を。そして一つの物語の始まりを……穏やかに見守っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ