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第116話:眩い光の中で

「アスカ……調子に乗るなよ。暗黒球を無効化できるとはいえ、私の絶対的優位は動かぬ」


 ダークマターは両手を左右に広げると、足元に黒い逆巻く風を生成し、空中に浮遊した状態で言葉を発する。

 アスカは二振りの刀で生成した光の刀を下段に構えると、そんなダークマターへと返事を返した。


「……ダークマター。あたしはもう、お前を恐れない。あたしを支えてくれる光がある限り、ずっと前を向いて、戦い続けるだけだ」


 アスカは迷いの無い瞳でダークマターを見返し、背筋をピンと伸ばして光の刀を構える。

 そんなアスカの姿が気に食わないのか、ダークマターは眉間に皺を寄せて右手を前に突き出した。


「ほざけ! 今のところ、私の天敵と呼べるのはこの世で貴様一人……ならば今すぐ、引導を渡してやる!」

「っ!?」


 光の刀を構えたアスカの両足に、自身の影から生み出された黒い縄がいつのまにか絡みつく。

 その縄は地面とアスカの足を固く縛りつけ、アスカは完全にその場に釘付けにされた。


「ダーク・バインド……魔術発動前に必ず、呪文詠唱があると思うな。中級レベルの魔術なら、脳内で詠唱するなど造作もないことだ」


 ダークマターは両手を広げて暗黒球をコートの内側に生成し、それを身動きの取れないアスカの周りへと展開する。

 こうしてアスカは、全方向を暗黒球に包囲される形となった。


「くっ……!? このっ、腕まで縛られ……!?」


 アスカは悔しそうに奥歯を噛み締め、自身の足と腕に絡みついた黒い縄を睨みつける。

 そうこうしている間に、アスカを包囲した暗黒球は勢い良くアスカへと襲いかかった。


「ハハハハハ! 終わりだ、陽山アスカ! 満足に動けぬその状態で、一体何個の暗黒球を破壊できる!? 最後に私に見せてくれ!」


 ダークマターは両手を広げて笑い声を響かせ、身動きの取れないアスカを満足そうに見つめる。

 するとその刹那、金色に輝く剣が黒い縄を切り裂いた。


「っ!? お姉ちゃん!」

「……っ!」


 カレンは残り少ない魔力を注ぎ、光の剣をもって黒い縄を切り裂く。

 しかし暗黒球は無常にも、アスカの眼前へと迫っていた。


「ハハハハハ! 今更遅い! 滅びよおおおおおおおおおおお!」


 両手を広げたダークマターの、笑うような咆哮が部屋中に響く。

 暗黒球は全方位からアスカを包み込み、その身体を貫いた―――

 そう思えた瞬間。アスカを包む暗黒の隙間から眩い光が放たれ、四散した暗黒球のその中心に、アスカが立つ。

 アスカは光の刀を横薙ぎに振った後の体勢で、乱れた呼吸を放っていた。


「くっ……この、死に損ないがああああああああああああああ!」


 ダークマターは渾身の魔力をつぎ込み、これまでで最大数の暗黒球をコートの内側に生成する。

 しかし次の瞬間、アスカの姿が視界から完全に消えていた。


「なっ!? ど、どこだ。どこにいったアスカぁ!」


 ダークマターは動揺した様子で部屋の中を見回すが、どこにもアスカの気配はない。

 そんなダークマターの頭上から……大量の光と共に、アスカが落ちてきた。


「ここ、だ! ダークマター!」

「っ!?」


 光の刀を身体の前面に突き出したアスカは、ダークマターの頭上から一直線に落ちてくる。

 ダークマターは咄嗟に右手をアスカへと突き出し、そして叫んだ。


「なめるな……なめるなよ。ただの小娘ごときがああああああ!」


 ダークマターは突き出した右手に沿うような形で、アスカに向かって全ての暗黒球を発射する。

 その暗黒球は空中で合体し、アスカの身体をまるごと包み込むほどのサイズとなって襲い掛かった。


「これが……これが我が魔術、真の姿よ! 闇に抱かれて消えよアスカ!」


 ダークマターは両手を頭上のアスカに向かって突き出し、巨大な暗黒球をアスカに向かって一直線に進ませる。

 アスカは光の刀を身体の前に突き出したまま、その暗黒球へと突進した。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「はあああああああああああああああああああああ!」


 ダークマターとアスカ、二人の咆哮が部屋中に響き渡る。

 暗黒球が光の刀に衝突すると、一瞬の静寂の後、けたたましく高い音が部屋中に鳴り響いた。

 まるで鍔迫り合いのような押し合いを続ける、光の刀と巨大な暗黒球。

 やがて暗黒球は自身の身体にヒビを入れながら、光の刀の一部を刈り取った。


「くっ……おおおおお!」


 その様子を見たダークマターは、突き出した両腕から最後の魔力を暗黒球へと注ぎ込む。

 そんな暗黒球の勢いに押され、アスカは光の刀を後ろへと下げさせられた。


「ぐっ……ううっ」


 アスカは奥歯を噛み締めて光の刀を押し出そうとするが、巨大な暗黒球はピクリとも動かない。

 それどころか段々勢いを増してくる暗黒球に、心が折られそうになっていた。


「だめ……なの? ここまでやってもまだ、とどかない、の……?」


 アスカは両目に涙を溜めながら、目の前の暗黒に絶望を見る。

 しかしそんなアスカの両手に、カレンの両手がそっと添えられた。


「だいじょぶだよ……アスカちゃん。だいじょぶだから、ね」


 カレンは穏やかな笑顔を浮かべながら、アスカの両手をそっと前に押し出す。

 その暖かな手に包まれたアスカは……涙を散らしながら、叫んだ。


「そうだ……あたしは、ひとりじゃない。ひとりじゃ、ないんだああああああああああああああああ!」

「っ!? お、おおおおおおおおおお!」


 光の刀はより一層の輝きを放ち、その大きさを二倍三倍と大きくしていく。

 すると巨大な暗黒球のヒビが、どんどん大きく広がっていった。


「ば、かな。私の、私の究極魔術が!」


 半分に割れ、壊れゆく暗黒球を見ると、ダークマターは両目を見開いて叫ぶ。

 アスカは完全に暗黒球を四散させると、そのままダークマターに向かって落下していった。


「はあああああああああああああああ!」


 アスカはこれまでで最大の咆哮と共に、光の刀をダークマターへと突き出す。

 力なく両手をだらりと下げた、ダークマター。

アスカの放つその光の中で……ダークマターの瞳には、遠き日の思い出と笑顔が、次々と映し出された。



『あの……セイ様。お待たせしてしまって、ごめんなさい』



『でも、本当に……綺麗です。私もこの季節は、大好きですよ』



『えへへ。おにいたま! あそぼ!』



『じゃあじゃあ、おうちまでいっしょ! ね!』



『おにいさま。今日はとても良い夜ですね』



『もうっ。笑わないでください。……ふふっ』



『おにいたま! おやしゅみ~!』



『私は幸せ者です、おにいさま。おにいさまもカレン様もアスカちゃんも……みんなみんな、大好き』



「っ!?」


 最後にダークマターの瞳に映る、カナデの満面の笑顔。

 その笑顔を見た瞬間……ダークマターは遠くに置いてきた何かを思い出したように、ぽかんと口を開いた。


「―――あっ」


 小さく落とされた、ダークマターの声。

 両目を見開いたダークマターに光が降り注ぎ、そして―――


「あああああああああああああああ!?」


 その身体を白色の光が、完全に包み込んだ。

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