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第115話:陰陽師・陽山アスカ

「なっ……なんだ、この光は!?」


 アスカが二振りの刀を振りぬいたその瞬間、部屋の中を白色の光が走る。

 ダークマターはその眩さに目を細めるが、アスカ達の様子を見ることはできなかった。


「はあっはあっはあっはあっはあっ……」


 アスカは二振りの刀をそれぞれの手に持ち、二刀流の形でがっくりと両肩を下げる。

 やがて部屋の中に広がっていた光が次第にアスカの刀に収束すると、無傷で浮かぶカレンと、粉々に散った暗黒球が視認できた。


「っ!? ば、かな。私の暗黒球を、打ち破っただと!? ありえん!」


 ダークマターは取り乱した様子で右手を横に振り、アスカに向かって言葉をぶつける。

 その後ゆっくりと前のめりに倒れそうになったアスカを、カレンはしっかりと身体で受け止めた。


「アスカ……ちゃん。一体何を……」


 カレンは両目を見開いて驚きながら、アスカに向かって質問する。

 ダークマターはそんなカレンの言葉に続き、声を荒げた。


「そう……だ。貴様、一体何をした! 私の暗黒球を打ち破るなど、不可能なはずだ!」

「はぁっ、はぁ……へやぁ、落ち着いた。ありがと、お姉ちゃん」


 アスカはカレンにお礼の言葉を述べ、ゆっくりと自力で立ち上がる。

 カレンは頭に複数の疑問符を浮かべて、そんなアスカを見つめた。


「ふぅ……あたしはただ、自分を信じただけだよ。お姉ちゃんがあたしを信じてくれたから、あたしも自分自身を信じてみようって、そう思ったんだ」

「アスカちゃん……」


 的を得ないながらも、真っ直ぐに自分を見つめて言葉を紡ぐアスカに対し、困惑した様子で返事を返すカレン。

 当然ダークマターはそんな説明では納得できず、さらに声を荒げた。


「貴様ぁ! ふざけているのか!? 何をやったのかと聞いてるんだ!」


 ダークマターは両目を見開きながら、アスカに向かって言葉をぶつける。

 アスカは刀の鍔で頭を搔くと、気だるそうに答えた。


「あたしはただ……“合わせた”だけだよ。自分の中にある“陰”と、お姉ちゃんから貰った“陽”をね」

「な、に……?」


 ダークマターはアスカの言葉がよく理解できず、不思議そうにその場で硬直する。

 アスカはそんなダークマターへ身体を向けると、さらに言葉を続けた。


「……あたしさ、気付いたんだ。あたしの中には確かに“陰”の属性がある。それは認めるよ。でも―――」

「でも?」


 カレンは小さく首を傾げ、アスカへと続きを促す。

 アスカは二振りの刀をそれぞれ肩に担ぐと、歯を見せて笑いながら言葉を続けた。


「でも、あたしの中にはお姉ちゃんから貰った暖かさが……つまり“陽”の属性が、確かに灯ってるんだ。ちっちゃい頃からずっと一緒だった、大好きなお姉ちゃんの暖かさが、あたしの中にあるんだってわかったら……陰とか陽とかそんなの、どうでもよくなっちゃったんだ」

「どうでもいい、だと……?」


 ダークマターは信じられないものを見るような目で、アスカを見つめる。

 アスカはそんなダークマターの視線を気にせず、言葉を続けた。


「うん。どうでもいいんだ、そんなこと。あたしは元々陰の属性で生まれたかもしれない。でもお姉ちゃんに触れて、その暖かさを知ることで、ある程度陽術を操ることができた。それならあたしの中にある陰と陽、その二つを“合わせる”こともできるんじゃないかって思ったんだ」

「っ!?」


 アスカの言葉を聞いたダークマターは驚愕に両目を見開き、数歩後ろへと後ずさる。

 そのまま奥歯を噛み締めると、アスカを睨みつけながら言葉を返した。


「つまり貴様は、私が“陰”と“闇”を融合させてダークマターを生み出したのと同じように、“陰”と“陽”を融合させ、新たな術を発動したと言うのか? ハッ……そんなこと不可能だ」


 ダークマターは馬鹿馬鹿しそうに顔を横に振り、アスカに向かって言葉をぶつける。

 アスカはそんなダークマターを見返すと、穏やかな瞳で返事を返した。


「結果はさっき見た通りだよ、ダークマター。その証拠にあたしの刀は、それぞれの属性を宿したままだ」

「えっ……? あ!?」


 アスカの言葉につられてその刀を見たカレンは、両手を口元に当てて目を見開く。

 アスカの持つ刀、その一振りは刀身が黒く染まり、反対に脇差は金色に輝いている。

 アスカはその二振りの刀を自身の前に差し出して合わせると、合わさった二振りの刀の間から、再び白色の光を放った。


「陰と陽。この二つを併せ持つ者。すなわち……“陰陽師”」


 カレンは胸元に手を置き、その眩い光に目を奪われながら、小さく言葉を落とす。

 その背後に立つダークマターは、俯きながら片手で額を押さえると、肩を震わせて笑った。


「ふっ……くっくっ。つまり貴様は、この私との戦いの中で完成させたというのか? 極東の国で長年求められてきた極地、“陰陽道”を」

「…………」


 俯きながら言葉を発するダークマターに対し、沈黙をもってその言葉を肯定するアスカ。

 ダークマターは見開いた目でアスカを睨みつけると、その黒いコートを翻しながら両手を広げた。


「ふざけるな……ふざけるなよ。ただの小娘ごときがああああああああ!」

「っ!? アスカちゃん、危ない!」


 ダークマターのコートの内側に、これまでで最大数の暗黒球が生成され、一直線にアスカに向かって発射されていく。

 しかしアスカは一度深呼吸すると、ゆっくりとした動きで二振りの刀を合わせた。


「“陰陽一閃:白夜”」


 そう呟いたアスカの刀の間から白色の光が放たれ、その光はやがて、大きな一振りの刀の形を形成する。

 その巨大な光の刀を、アスカは飛んでくる暗黒球に向かって横薙ぎに振り抜いた。


「なっ……!?」


 白夜と名づけられた光の刀は飛んできた全ての暗黒球をかき消し、その存在を四散させる。

 ダークマターは四散する暗黒球の向こうで驚愕に目を見開き、アスカを見つめた。


「……まだまだ。ここからだよ、ダークマター」


 アスカは両手を使って光の刀を下段に構え、ダークマターを正面から睨みつける。

 ダークマターは奥歯を噛み締め、そんなアスカを睨み返した。


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