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第111話:陰の力

「久しぶりだな、カレン。もう十数年ぶりになるか」


 ダークマターは空中を浮遊したまま、アスカの懐から出現したカレンへと言葉を発する。

 しかしカレンは口を一文字に結ぶと、真っ直ぐにダークマターを睨みつけた。


「十数年ぶりって……覚えて、ないの? お姉ちゃんが騎士をしていた国を、お前が滅ぼしたはずでしょ?」


 アスカは空中に飛翔しながら、呆気に取られた表情でダークマターへと言葉を返す。

 その後着地したアスカに対し、ダークマターは空中から見下すようにしながら返事を返した。


「確かに、滅ぼしたのは私だろう。だがあの実験は一瞬で国一つを消失させたのでな。一介の騎士など、いちいち覚えていない」

「―――っこいつ……!」


 アスカは悪びれない様子のダークマターに怒りを覚え、声を発しようと口を開く。

 しかしその口はカレンの手によって優しく閉じられ、カレンはふるふると顔を横に振った。


「お姉ちゃん……どうして? お姉ちゃんが言えない分、あたしが言わなきゃ……!」


 アスカは自身の口を閉じさせたカレンに対し、眉を顰めながら言葉を紡ぐ。

 カレンはそんなアスカの様子に小さく微笑むと、その頭を優しく撫でた。


「お姉ちゃん……」


 昔と変わらぬ笑顔で自身の頭を撫でるカレンに、穏やかな声色で言葉を落とすアスカ。

 しかしダークマターはそんなアスカに構わず、さらに言葉を続けた。


「ほう、カレンは声を失っているのか。まあ、私にとってはどうでも良い事だが……」


 ダークマターは地面に降り立ちながら、カレンを見つめて小さく息を落とす。

 アスカはそんなダークマターの態度に怒り、噛み付くように言葉をぶつけた。


「くっ……! お姉ちゃんはお前に殺されたショックで、声を失ったんだぞ!? それを……!」

「っ!」


 荒々しく言葉を発していたアスカの口元に、カレンの指が優しく当てられる。

 アスカは思わず口を噤み、カレンは困ったように笑いながら息を落とした。


「どうやらカレンの方は問答を望んでいないらしいな。もっとも、私とて暇ではない。元より死に逝く者に言うことなど何も無いが」


 ダークマターは堪えきれずに笑い出し、多くの闇を身体に纏いながら両手を広げる。

 アスカはそんなダークマターの態度に奥歯を噛み締め、抜刀術の体勢を取った。

 その姿を見たカレンも瞳に光を宿し、構えた剣の切っ先をダークマターに向ける。


「ふむ、二人がかりか……それもよかろう。かかってくるがいい」


 ダークマターは余裕の表情で両手を広げ、アスカ達に向かって言葉を発する。

 その言葉が終わると同時に、アスカはダークマターに向かって最高速で距離を詰めた。


「はあああああああああ!」

「っ!」


 アスカの抜刀と同時に、その刃に重なるようにして、カレンの剣が振るわれる。

 その様子を見たダークマターは両目を見開き、咄嗟に逆巻く風を足元に発生させて後ろへと後退した。

 ダークマターの元いた場所にはアスカの剣線とカレンの剣線が同時に引かれ、カレンの光の刃が眩い光を放ちながら横薙ぎに振られる。

 その光を見たダークマターは、ため息と共に言葉を発した。


「まったく、忌々しきはカレンの“陽”の力よ。私の“陰”を貫くその剣、この世から完全に消し去ってやろう」


 ダークマターは右手をアスカの方へと突き出し、その右手に黒い霧を纏わせる。

 しかしアスカはダークマターの言葉が引っかかり、思わず口を開いた。


「ち、ちょっと待って。“カレンの……”ってどういうこと? あたしの刀だって、“陽”の属性を持っているはずでしょ……?」


 アスカはぽかんと口を開きながら、ダークマターの言葉の引っかかりを指摘する。

 ダークマターは突き出していた右手を引くと、嘲るような笑顔を浮かべ、返事を返した。


「何を言っている……? アスカ、貴様自分で気付いていないのか?」


 ダークマターは見下すような笑顔を浮かべながら、アスカへと言葉を発する。

 そんなダークマターの態度が腑に落ちないアスカは、さらに言葉を続けた。


「自分で気付いてないって……何のこと? お姉ちゃん、あいつは何を言ってるの?」


 アスカは頭に疑問符を浮かべ、眉間に皺を寄せながらカレンの方を向く。

 カレンは困ったように眉を顰めると、一文字に口を噤んだ。


「フン、まさかカレンも隠していたとはな……。アスカ、貴様は自分の事を、何もわかっていない」


 ダークマターは肩を竦め、やれやれといった様子で顔を横に振る。

 アスカはそんなダークマターの態度に苛立ちながら、ぶつけるように返事を返した。


「だから! さっきから何のこと!? あたしが何をわかってないって言うの!?」


 噛み付くようなアスカの言葉に、ふむと頷くダークマター。

 曲げた人差し指を顎に当てると、ダークマターは笑いながら言葉を続けた。


「知らないのなら、教えてやろう。貴様はそもそも―――」

「っ!」

「えっ!? お姉ちゃん!?」


 ダークマターが言葉を発しようとした瞬間、カレンの顔色が変わり、焦った様子でダークマターへと切りかかる。

 しかしダークマターは黒い風に乗ってその攻撃範囲から逃れ、涼しい顔をしながら言葉を紡いだ。


「アスカ。貴様はそもそも、“陰”の属性を持っているのだ。陽山の家に生まれながら、陰の属性を持つ子ども。まさに異端の子というわけだ」

「っ!?」


 アスカはダークマターの声を聞くと言葉を失い、両目を見開いてその場に留まる。

 カレンはがくりと肩を落とすと、悔しそうに奥歯を噛み締めた。


「どうやらカレンが秘密にしていたようだが……まあ、無駄な事だ。自身の生まれ持った属性など、どうあっても変えられないのだからな」


 嘲るように笑い声を響かせるダークマター。

 アスカはぽかんと口を開きながら、その瞳から光を失い、言葉を落とした。


「嘘……嘘だ。あたしとお前が、同じ? お姉ちゃんとあたしが、違う……?」


 アスカはこれまでの価値観を全てひっくり返され、驚愕の表情で言葉を紡ぐ。

 その表情を見たダークマターは何かを思いつき、右手をアスカに向かって突き出した。


「いい表情だ、陽山アスカ! 貴様は殺すつもりでいたが、私の下僕とするのも面白い!」

「っ!?」


 ダークマターの右手から黒い霧が発生し、その霧はまるで地面を這うようにして、アスカへと進んでいく。

 その様子にカレンは両目を見開き、アスカの方へと振り返った。


「あ、ああ、お、ねえ、ちゃ……」


 カタカタと震えるアスカの身体を、次第に黒い霧が浸食していく。

 その下半身から徐々に伸びてくる黒い霧は、アスカの全身を包み込もうとしていた。


「ハハハハハ! 面白い余興だ! 同じ陰の属性を持つ者であれば、私の魔術で下僕とするのも容易い! 姉妹で殺しあうのも良かろう!」


 ダークマターは両目を見開いて笑いながら、アスカの身体に黒い霧を侵食させていく。

 カレンは強く口元を結ぶと、そんなアスカに向かって猛スピードで近づいていった。


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