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第108話:星明かりの下で

 ジェイルは苦戦しているリリィとアニキを見つめ、思わずほくそ笑む。

 ニヤニヤと笑いながら、ジェイルはさらに小さく言葉を発した。


「なんだ……あの影たち、かなりやるじゃないか。このままなら、私の勝ちだ……!」


 ジェイルは己の勝利を確信し、片方の口角を上げて笑う。

 しかしそんなジェイルの言葉をかき消すように、アニキの声がエントランスに響いた。


「ちっ……! ったくよぉ。どうせなら炎撃を封印したまま勝ちたかったのに、やっぱ駄目かよ」


 アニキは口の端から血を流し、勝気な瞳でニヤリと笑う。

 そのまま右拳を身体の後ろに引くと、体勢を低く落とし、その背中に炎を宿らせる。

 髪は鮮やかな赤にその色を変え、身体の後ろに引かれた右拳に背中の炎が渦巻くように集約されていった。


「ふん、なんかあの馬鹿剣士も苦戦してるみてーだし……ま、いいか」


 アニキは身体の後ろに引いた右拳に炎を集約し、さらに力を込めていく。

 その様子を見たリリィの影は、アニキを中心とした円形の高速移動を中断し、驚異的なスピードでアニキとの距離を詰め始めた。

 しかしその刹那、アニキの足元から大きな炎が燃え上がり、その炎が消えた時、アニキの姿もまたエントランスから完全に消えていた。

 一方、リリィは左肩の傷によって左手をだらりと垂らし、ふらふらした状態でアニキの影と対峙する。

 アニキの影は確実に相手を倒すため、全身全霊の力を持って距離を詰めてきている。

 リリィは右手だけを使って剣を持つと、タン、タン、と両足で刻むようにステップを踏み始めた。


「出来れば無傷で勝利したかったのだが……そうもいかんらしい。まあ馬鹿団長も苦戦しているようだし、それで良しとするか」


 リリィは口の端から血を流し、勝気な瞳でニヤリと笑う。

 そしてリリィの片足が地面に触れたその刹那、リリィは完全にエントランスからその姿を消した。


「!?」


 リリィに突進していたアニキの影は驚いた様子で、リリィの元いた場所に到着すると、キョロキョロと辺りを見回す。

 しかしその視界にリリィの姿は無く、アニキの影はますます混乱した。

 そしてアニキとリリィは、ほぼ同時にそれぞれの相手の前に現れ、言葉を発する。


「確かに貴様は強い。だが―――」

「てめーはつええよ。だがな―――」

「「!?」」


 リリィの影とアニキの影はそれぞれ、目の前に突然現れた相手に面食らい、一瞬身体が硬直する。

 その隙にリリィとアニキは、同時に言葉を発しながら、渾身の一撃をそれぞれの相手に叩き込んだ。


「「あいつの剣(拳)は―――もっと重い!」」

「「!?」」


 リリィの影はアニキの炎撃によってエントランスの壁に直撃し、そのまま壁を突き破ると、屋敷の裏にある森を破壊しながら吹き飛んでいく。

 アニキの影はリリィの渾身の斬撃を受けると、真っ二つに切り裂かれ、その斬撃の余波はエントランスの壁を切り裂き、屋敷の裏にある森をその地層ごと切り裂いていく。

 こうして二つの風穴が開いたエントランスに、星の柔らかな光が降り注いだ。


「ば、馬鹿……な。私の作った影が、敗れた、だと……?」


 ジェイルはがくんと膝を折って地面に膝立ちとなり、呆然としながら中空を見つめる。

 やがてリリィとアニキはふらふらと歩きながら、共にジェイルの目の前に立った。


「フン……情けないな、馬鹿団長。私の影に随分と苦戦した様子じゃないか」

「ちっ……言ってろ。てめーこそ、俺の影に左肩持ってかれてんじゃねーか」


 リリィとアニキは互いに悪態をつきながら、ジェイルの目の前に並び立つ。

 ジェイルは自身の置かれた状況を鑑みると、はっと意識を取り戻して言葉を発した。


「!? ま、待ってくれ! 私はただ主人の命に従っただけだ。見ればわかるだろ!?」


 ジェイルはわたわたと両手を動かしながら、口の端を緩めて懸命に言い訳を並べる。

 その様子を見たリリィは、ため息を落としながら言葉を発した。


「……はぁ。どうやらあの影を作るのに、魔力を使いきったようだな。こいつにもはや、攻撃手段は残されていまい」

「なんだよつまんねーな……あれで終わりかよ」


 リリィの言葉を受けたアニキは、右手でボリボリと頭を搔きながら言葉を発する。

 リリィは再びため息を吐きながら、さらに言葉を続けた。


「まあ、もういいだろう。戦う意思のない者を倒しても意味は無い」

「ちっ……まあな。じゃ、行くか」


 リリィとアニキはほぼ同時に踵を返し、ジェイルに背中を向けて歩いていく。

 その刹那、ジェイルは狂ったような笑顔を浮かべ、両手を二人に向かって突き出した。


「馬鹿め……油断したな。ダークランサー!」


 ジェイルの両手に纏った闇から、複数の黒い槍がリリィとアニキを襲う。

 しかし二人は背中を向けたままそれらの槍を全て回避し、再びジェイルの前に聳え立つ。

 その姿を見たジェイルは再び口の端を緩め、眉を顰めて言葉を発した。


「あ、いや、今のは違うんだ。ちょっとした間違いで……だから、私の話を聞いてくれ!」


 リリィとアニキは互いの顔を見合わせ、アイコンタクトをすると、無言のまま同時に頷いた。


「「他の星で話してろ」」

「!?」


 次の瞬間、リリィの右足とアニキの右拳が、同時にジェイルの身体に放たれる。

 ジェイルの身体に強烈な衝撃が走り、ジェイルはそのまま屋敷の天井を貫くと、遠くに見える山の向こうまで吹き飛ばされた。

 リリィとアニキは同時にため息を落とすと、再び踵を返し、言葉を落とす。


「「まったく……期待外れだった(ぜ)」」


 二人は壊れた天井の隙間から降り注ぐ星の柔らかな光に照らされながら、イクサ達の元へと歩みを進める。

 少し冷たい風が屋敷の中へと流れ込み、いくつもあるロウソクの火を、静かに揺らしていた。


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