第105話:それぞれの戦い
「おい、馬鹿剣士。こいつは俺がやる。てめえはイクサでも手伝ってな」
「それはこちらの台詞だ馬鹿団長。貴様こそ下がっていろ」
二人はジェイルに向かって構えを取りながら、お互いに下がるよう言葉をぶつける。
その様子を見たジェイルはさらに眉間に皺を寄せ、不機嫌そうに言葉を発した。
「フン、どこまでも舐めた事を言う……。私は別に、二人がかりでも構いませんよ。何故なら―――」
「!?」
ジェイルは両手を地面の上に伸ばし、それぞれの手の影をリリィ達の影まで伸ばして融合させると、その融合した影から人型の黒い塊を創造する。
黒い塊は次第にその形を変え、アニキとリリィ、それぞれの姿へと変化した。
「何故ならあなたたち、は。自分自身と戦うことに、なるの、ですから……くっ!?」
「???」
ジェイルは二つの塊を作ると、荒い息を吐いて地面に膝をつく。
驚愕に両目を見開き、ジェイルはリリィ達を見渡した。
『ば、馬鹿な。分身を作っただけで、何だこの魔力消費量は……こいつら、化け物か!?』
ジェイルは想像以上の魔力消費に驚愕し、アニキとリリィそれぞれを見つめる。
リリィは落ち着いた様子で剣を構えながら、言葉を紡いだ。
「なるほど。対戦相手の影を具現化し、自身のしもべとする能力か。確かにこれなら“自分自身と戦う”ことになりそうだな」
「面白ぇ! 俺と俺どっちがつえーか、はっきりさせてやんぜ!」
アニキは両拳を打ち鳴らし、自身の影と対峙する。
しかしその瞬間アニキの影は、予想に反してリリィに向かってその一撃を繰り出した。
リリィは咄嗟に剣を盾に使い、アニキの影の一撃を寸前の所で受け止める。
その衝撃波はエントランス全体に広がり、リリィの立っていた地面すらも深く抉った。
「くっ……!? あ、危なかった。相変わらずの馬鹿力め……!」
リリィは唐突なアニキの影からの一撃に耐え、拳と剣で押し合いを続ける。
アニキはゴキゴキと首を鳴らすと、リリィの影に向かって構えをとった。
「あん? なんだ、自分の影が来るわけじゃねーのか……まあいいや。だったらてめえが相手だコラアアア!」
アニキは嬉しそうに笑いながら、一瞬にして距離を詰めると、リリィの影に向かって右拳を突き出す。
リリィの影は本物のリリィと同様に剣を抜刀し、咄嗟にその拳を受け止めた。
「へえ、この一撃を受けんのかい。おもしれぇ、おもしれぇぞこの野郎!」
アニキは再び嬉しそうに笑い、リリィの影と押し合いを続ける。
ジェイルはかろうじて立ち上がると、その様子を遠目から見つめた。
『馬鹿な。影達が私の指示を聞かない……この私の魔力より、こいつらの能力の方が上回っているとでも言うのか?』
ジェイルは想定と違う事態に内心動揺しながらも、それを口に出すことはせず、静かに呼吸を整える。
作り出した影はもはやコントロール不能だが、幸いなことにリリィとアニキに、それぞれ向かっていってくれた。
ジェイルにとってはプライドをくじかれる事態だが、魔力が枯渇している今の状況では、この影達に頼るほか無かった。
「ふ……ふふっ。私に勝ちたければ、その影たちを倒してくるがいい。もちろん倒せれば、の話ですがね」
ジェイルは精一杯表面を取り繕い、リリィ達に向かって言葉を発する。
そしてその言葉を合図にするように、リリィ達と影達の戦いの火蓋が、切って落とされた―――
「い、イクサさんどうしよう。囲まれちゃった……」
リースは鞄の紐をぎゅっと握り、イクサと背中合わせになりながら、ダークマターの部下である黒服の男達を見つめる。
イクサは黒服の人数と配置、さらに個々の装備を推察すると、リースに向かって言葉を発した。
「リース様。リース様の現在使える戦闘用創術は、“壁練成”のみという認識ですが、合っていますか?」
イクサは黒服の男達をその白い目で見つめながら、リースに向かって返事を返す。
リースはイクサの意図を汲むと、素直に頷いて返事を返した。
「うん、そうだね。戦闘で役に立つとすれば、壁練成くらいかな。レンに会ってから随分練習したし、実戦でも防御くらいはできるはずだよ」
リースはイクサに向かって、はっきりとした声色で言葉を発する。
イクサはこくりと頷くと、リースに向かって返事を返した。
「それは何よりです。ではリース様は、後方からの魔術攻撃の防御をお願い致します。私は前方にいる敵と、近距離で乱戦を行います」
「えっ……!? で、でも、あのビームを撃つやつで、あの人たちと戦うの? 距離も随分詰められちゃってるし、難しいんじゃ……」
リースは不安そうな表情を浮かべながら、イクサに向かって言葉を発する。
イクサはリースの言葉を受けると、ゆっくりとした動作で右手を天井へと掲げた。
「その点でしたら、問題ありません。今、解決いたします」
右手を上げたイクサに、カラクティアで見た時と同じような黄緑色の光が降り注ぐ。
その光は天空より去来し、屋敷を貫通してイクサまで届いていた。
やがてその黄緑色の光から、電子的な声が響いてくる。
CheckingMainSystem. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .. . OK_
RevolutionDriverLoading. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .. . . OK_
RevolutionSystem. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .Unlock_
Type. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . Sword_
AreYouReady? . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
REVOLUTION_
「はああああああああああああああああああああ!」
イクサは黄緑色の光に包まれながら、大声で叫ぶ。
その光の中で、イクサの右腕の後ろに宙に浮く剣が7本創造され、イクサの右腕の動きに連動して、剣は宙を舞う。
やがて黄緑色の光が無くなると、突然現れた7本の剣に、黒服たちは動揺した様子でざわついた。
「これが、リリィ様からコピーした“ソード”の能力です。これで近距離戦闘は、問題ありません」
イクサは体勢を低くした独特の構えで、前方の黒服達と対峙する。
リースはそんなイクサの姿を横目で見ると、目を丸くしながら言葉を発した。
「すごい……凄いよイクサさん! 剣術も使えるの!?」
「リリィ様ほどではありませんが、肯定です。現在の相手を殲滅するには、充分な能力であると判断します」
イクサは相変わらず追いついた様子で、リースに向かって返事を返す。
しかし二人が言葉を交わしているその刹那、リースの正面に集まっていた黒服達から、炎の弾が発射された。
「!? 危ない! “壁練成:シェルベルム”!」
リースは両手を身体の正面に出すと、一瞬にして練成陣から壁を創造し、炎の弾を壁で受け止める。
その様子を見たイクサは、目を見開いて息を落とした。
「……リース様。私、不思議です。現状は決して甘いものではない。なのに、なんだかとても安心しています」
イクサは前方の敵と間合いを計りながら、リースに向かって言葉を発する。
その言葉を受けたリースは、微笑みながら返事を返した。
「そっ……か。安心してくれてるなら、僕は嬉しいな」
「???」
イクサはリースの言葉の意味がわからず、頭に疑問符を浮かべて首を傾げる。
そんなイクサの様子を見たリースが小さく笑うと、その瞬間、前方の黒服達が一斉にイクサへと襲い掛かった。
「!? 来るよ、イクサさん! 後ろは僕に任せて、集中して!」
「了解です、リース様。お任せください」
イクサは低い体勢での構えから、右手を振って7本の宙に浮いた剣を操る。
こうして二人の戦いの火蓋もまた、唐突に切って落とされていた。