第103話:結束
「家を出た後お姉ちゃんは極東の国を出発して、キミノヅカ=セイ……いや、ダークマターを探しながら、とある国で騎士をしていたんだ。そして―――」
「そして、国ごとダークマターに滅ぼされてしまった……ということか。なんてことだ……」
思いもよらないカレンとダークマターの過去を聞いたリリィは、眉間に皺を寄せながら腕を組む。
アスカは真剣な表情で、さらに言葉を続けた。
「とにかくあいつは、この世界を悪と決め付けて……罪の無い人たちもろとも、滅ぼそうと考えてる。そんな人を、放ってはおけないよ」
アスカは座った状態で手を組み、そこに口を当てながら言葉を発する。
そんなアスカへ、リリィは腕を組んだまま返事を返した。
「確かにそうだな。同情はするが……たとえどんな理由があろうと、世界を滅ぼして良い理由にはならんだろう」
リリィはこくりと頷きながら、アスカの言葉に同意する。
一方話を聞いていたイクサは、少し困惑した様子で言葉を発した。
「マスター。お話を聞く限り、ダークマター氏にも同情の余地があります。しかし、理屈で言えば彼を倒すべきなのは明白です。私は一体、どうすれば良いのでしょう?」
イクサは首を傾げながら、アニキへと言葉を紡ぐ。
アニキは面倒くさそうに頭を搔くと、イクサへと返事を返した。
「知るかよんなもん。でもまあ、ダークマターの奴は国を滅ぼして、第二、第三の“カナデ”を作っちまってるんだろ? だったら答えなんか簡単じゃねーか」
「???」
イクサはアニキの言葉の意図するところがわからず、頭に疑問符を浮かべて首を傾げる。
アニキは両手を頭の後ろで組み、さらに言葉を続けた。
「要するに、今のダークマターを放っておいたら、また悲しむ人間が増えていくってこった。そりゃあよ、止めなきゃなんねーだろ」
「……はい。確かに、マスターの言う通りです」
イクサは納得した様子で頷き、アニキに向かって返事を返す。
しかしアニキ自身はどこか腑に落ちない様子で、つまらなそうに空を見上げていた。
「ダークマターさん……か。僕達の手で、止められるのかな……」
リースは自身の小さな手を見つめ、少しだけ悔しそうに、奥歯を噛み締める。
そんな一行の会話を聞いていたアスカは、ぽかんと口を開けて言葉を発した。
「あの、えっと……みんな。手伝って……くれるの? ダークマターは本当に危険だし、みんなの命だって―――」
「それ以上言うな、アスカ。我々の心は決まっている」
リリィは人差し指でアスカの口を押さえ、やがて立ち上がる。
路地裏はいつのまにか夜の闇に包まれ、沢山の星が狭い空の中で輝いていた。
「だな。ダークマターの野郎を止めねーと、この世界が危ねえ。それに何より……つえー奴との喧嘩は望むところだぜ」
「マスターが戦うというのなら、私に是非はありません。ご協力致します」
リリィに続いてアニキとイクサは立ち上がり、共に言葉を発する。
アスカはぽかんとしながら、そんな二人を見上げた。
「アスカさん……僕は、足手まといになっちゃうかもだけど……それでも出来ることがあるなら、手伝わせて欲しいんだ」
リースは立ち上がり、まだ座っているアスカへと手を伸ばす。
アスカは溢れてきた涙を勢い良く着物の袖で拭うと、その小さな手を握りしめて立ち上がった。
「ありがとう……みんな。本当にありがとう……!」
アスカは立ち上がると、一行に向かってにっこりと微笑む。
カレンはそんなアスカの隣で無言のまま、こくこくと頷いていた。
「ふむ……では、行くとしよう。ダークマターの元へ」
リリィはマントを靡かせ、路地裏の奥へと歩いていく。
まずはこの辺りにいる魔術士達に、片っ端から聞き込みをしていくしかないだろう。
しかし当初のリリィ達の思惑とは裏腹に、ダークマターの居場所は、すぐに判明することとなる。
それはリリィ達が聞き込みを始めて、数分後のことだった。