しのちゃんとはるくん【ぱーと1】
沢田しのと、片柳はるひこは、今んところただのクラスメートだ。
同じC組で、右隣の席にはるくんは座っている。だけど、はるくんの周りを囲むように、クラスメートがいて…楽しそうに会話している。
あっ…また笑ってる。やっぱりあの笑顔に惹きつけられるモノがあると思うの。
え?お前は、はるくんと喋らないのかって?
んふふ~♪別に、見てるだけで充分なんだよね~。
だって、わたしが勝手に片想いしてるんだから……まぁ、そりゃあ、はるくんと喋ってみたいけどさ、たぶん今はまだ無理だと思う。でも、いつか楽しくお喋りできたらいいなぁ……。
と、心の中で独り言を唱えつつ、今日もはるくんを観察しているのですっ!!
◇◆◇◆◇◆◇
暖かい春のある日の放課後…いつもの様に観察していると、はるくんがこっち側を向きました。
うおぉぉぉぉおおおお‼今日もあの笑顔を見れた~♪やった~♪
すると、そんなちっぽけな幸せに浸っているわたしに気付いて、小さく手を振ってくれましたっ‼
今日、死んでもいい…はっ!?ダメじゃない!死んでしまったらあの笑顔が二度と見られないんだよ!?死んじゃダメじゃない‼
「し~の、よだれ出てるよ?」
「え?うそ!」
「ほんと、早く拭きなよ」
と、可愛らしいハンカチを差し出してくれたのは親友の月村ふうかちゃんです。
「ありがと~ふぅちゃん。これ洗ってから返すね」
「いや、いいよ。そのまんま返してくれても」
「そう?んじゃ、はい」
「で、よだれの原因は…あぁ…愛しの片やむぐっ…」
「それ以上言っちゃダメ‼」
はるくんに聞かれ…てないよね。セーフセーフ。
「んもぅ……あれほど黙っててって言ったのに~」
「あはは…ごめんごめん。だけどさ~しの、いつになったら告白するの?」
「ん~…予定はないね~…」
「え~、絶対イケるって~」
「そうかな…でも、見てるだけで満足しちゃってるっていうか、別にカレカノに憧れているわけでもないというか…」
まぁ…実際、現状維持でいいと思ってるからね~…。
それも、告白する勇気のないわたしの逃げなんだろうけど。
「ふぅん…そっか、しのに勇気がないなら私が与えてあげよう」
「話聞いてた!?」
「聞いてたよ~ん、冗談だって冗談」
「もう…ふぅちゃんの分かりづらい!」
「ははははは、やっぱりしの面白いわ~♪」
「面白くないよ、こっちは…」
ふぅちゃんはちょっと度が過ぎる時が稀によくある。
「さぁて、私は帰るとするかなぁ~」
「あ、じゃあわたしも」
ちゃっちゃか帰る準備を終えて…ふと横を見るとはるくんがいなかった…いつの間にかドアの外に出ていた。そして、振り返り。
「ではでは……さよ~なら~」
「おう、じゃまた明日ー」「あれ?もう帰っちゃうの?」「じゃあね~♪」
やっぱりみんなに好かれているはるくんが好き…かなぁ~…。
「ほら、片柳帰っちゃうよー。追っかけないの?」
「うーん?…はっ!?んじゃ、行ってくるね!ふぅちゃんまた明日~」
「じゃあね~しの、頑張れよ~」
グッと親指をあげて、送ってくれた。
◇◆◇◆◇◆◇
「はるくん、帰っちゃったかな?」
と、呟きながら必死に短い足を回転させ、追いかけている。必死過ぎるあまり足元に意識がお留守だったようで…
ガッ、ビターン‼
「ん?誰?」
…うぅ…まさか、自分の足に引っ掛かってコケるとは…。
「痛い…」
「だ、大丈夫?沢田さん!」
今、下の名前で呼びかけなかった?聞き間違いかなぁ…。
地面に這いつくばっているわけにもいかないので顔をあげて…
「だ、だいじょう…ブッ!?」
顔が近すぎて、パニックになる。
だって、わたしを、わたしの事を心配してくれているんだよ?そんなの、頭まっしろになっちゃうに決まってるじゃん!!
「沢田さん!?鼻血出てるよ!?」
「え?」
鼻の下を触るとぬるっとした感触が…
「あ…ほんとだ。どうし…よう!?」
「保健室に行くよ」
そう、短く告げて、わたしを抱き抱えてくれた。ちなみにお姫様だっこね。今なんか恥ずかしさが一周回ってめっちゃ冷静になっちゃてるんだけど。
たかが、ドジなクラスメートにこんなに優しくしてくれるなんて…あなたは神ですか!?はるくん教信者になると決めました。今日この頃です。