ルール説明
「強き願いを持つ者……?」
ネットゲームの広告だろうか。それにしてはシンプルなページだ。イラストの類いは一切なく、文章だけが延々と綴られている。
少々興味が湧いたので、僕は、画面を下にスクロールしながら文章に目を通した。
『今、君たちの世界で、俗に"神"と呼ばれている存在が寿命を迎えようとしている』
見出しの下の第一文から、こんな突拍子のないことが書いてあったので、思わず吹き出しそうになった。
『その神の世代交代に際して行われるのが、"選定の儀式"。過去、幾度となく行われてきた儀式であり、此度は君が"選定者"として、それに参ずることを許された』
参ずることを許された、か……。
あれか? 新手の悪徳商法か何かだろうか。
ウン万人の候補者の中から幸運にもあなたが当選いたしました~。この機会を逃すともうチャンスはないですよ~。是非ともうちの超高級低反発枕をご購入くださいでございます~……って感じのあれか?
なんにせよ、胡散臭いことこの上ない。
しかし、ありきたりではあるが、なかなか中二心をくすぐられる文章でもある。こういうのは、恥ずかしくもあるけれど、嫌いではない。
なので、僕はもう少し読み進めてみることにした。
『"選定の儀式"とは、次世代の世界の在り方を決めるための争いだ』
『今まさに寿命を迎えんとしている神のもとより、十人の精霊たちがそれぞれ一つずつ"世界の理"を借り受け、君たちの世界に降り立つ』
『精霊たちは、自分が借り受けた力を行使するのに最も適した願いを持つ者にそれを貸し与え、"選定者"とする』
『選定者たちは各々、精霊に連れられて、戦いのための世界、"選定世界"へと降り立ち、それぞれが神より借り受けた力をぶつけ合うこととなる』
『そして選定者が最後の一人となったとき、その者の、世界に対する願いは、次代の神に聞き届けられ、新たな世界を導くための指針とされる』
『強き願いを持つ者よ、問おう。君は世界に、神に、何を望む?』
以上が、このサイトに書かれていたことの、大まかな概要だ。
商品の宣伝文らしきものがないあたり、どうやらマルチ商法の類いではないようだけど、ただの悪戯というのも違う気がする。
まず、ページを閉じる手段が、どこにも見つからないのだ。右上のⅩボタンはないし、他にも色々な手段を試してみたけれど、どれも効果なしだ。
まるで、ハッキリとした答えを出すまで逃がさないとでも言うかのように……。
「世界に、神に、何を望む。か……」
随分とまた高尚なテーマだ。
このサイトの文章を信じるとすれば、これからの世界の行く末を、僕の意志で決められるかもしれないということになる。
何を望む、か。
無難なところで言えば、戦争根絶・世界平和とかそんなところだろう。ほかに、貧困者の救済とかも、この手の話題ではメジャーな候補だ。あと、病気の根絶、環境問題の解決、科学技術の発展などなど。まあ、パッと思いつくのはこのくらいだろうか。
しかし、それらはどれも、他者に気を使う余裕のある人間が願うものだ。
僕にはそんな余裕はない。
そんな僕が世界に何かを望むとすれば……。
「もうこれ以上、僕には関わらないでくれ」
いつの間にか、僕は無意識に口走っていた。
「誰とも関わらず、生きていけるような世界になったら……、僕はそれ以上何も望まない」
それだけ言った後、僕は今度こそ吹き出した。
中二病もいいところだ。誰かに聞かれていたら、恥ずかしくてますます外に出られなくなるな。
そんな感じに、気取ったことを考えていると、次の瞬間、信じられないことが起こった。
「素晴らしいご返答でゴザイマス!」