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第八楽章

日間3位とか夢のようです。ありがとうございます。

追記・タイトルがおかしかったので修正。

さらに追記・恥ずかしいことに、加法混合と減法混合が逆でした。黒と白が逆になります。

さらに追記・ご指摘いただいた表現修正いたしました。

 ミラの歌は美しかった。初めて声を聞いた時に感じたことはハズレではなかったな。音程も外していないし、何よりも気持ちが籠っていた。それにしても、基本的に内向的らしいミラがどうしていきなり歌いだしたのだろうか。食事中に、周りに聞こえないようにこっそり聞いてみたところ、

「……精霊さんが、お兄ちゃんが弾いているときに、凄い嬉しそうだったから。私も嬉しくなっちゃって」

 ミラは、わずかに頬を染めて照れくさそうに眼をそらしながらそう言った。

「じゃあ精霊は案外、音楽が好きなのかもな。いやはや、それにしても、やっぱりミラは歌が上手かったようだな。綺麗な歌声だったぞ」

 俺はそう言ってミラの頭を撫でる。

『…………』

「…………」

 すると、何故だかこちらに複数の視線を感じた。特に二つの目、つまりある一人から発せられる視線はとくに強い。

 子供たちは自分の食事に夢中だ。

「……どうしたんですか?」

『…………』

「…………」

 そう、大人組が何故かほわ~んとした目でミラを見ていたのだ。アリエルさんは何故か俺をジト目で見ている。他の大人組は普段見せないミラの子供らしさに和んでいるのだろう。だが、アリエルさんの視線に込められている意図は不明だ。

「あの、アリエルさん?」

「むぅ~」

 普段の大人らしい仕草から一転、口をとがらせて拗ねたような声を出す子供っぽい仕草。見た目がきれいなのと、今までとのギャップでとても可愛く見えるが、その視線に晒されている今はそれどころではない。

「タクト君さ、ミラと仲良くなりすぎじゃない?」

「いや、仲良くしてくれつった人は誰だか覚えていますか?」

 アリエルさんの発言に俺は思わず素に戻って皮肉で返してしまう。敬語が崩れなかっただけましだろう。

「おやおや、アリエルお嬢様、嫉妬ですか?」

「あらやだ可愛い。年下の男の子がお好みですか?」

「ちょ、ちょっと!」

 一緒に料理をしていたであろうおばちゃんたちからからかわれ、アリエルさんは顔を真っ赤にしている。恋愛方面には初なのだろうか。それにしても、親しまれてるなぁ。領主にして伯爵家の長女なのに。上に立つ貴族、というのもカッコいいけど、こうして一般人になじむ貴族というのもいいよなぁ。


                 ■


 午前中のみだったとはいえ、そこそこいい仕事だった孤児院の手伝いを終えて帰宅した。とはいってもここは俺の家ではないがな。それぞれの部屋で少し休んでから、俺は執事に案内して貰って魔法訓練室に向かった。大きい屋敷なだけあってこういった訓練施設もしっかりあるんだもんなぁ。距離や的の大きさや障害物等がある程度設定できる的当てや、魔法の威力調節を上手くするためのゲームなどがある。

「あ、タクト君ね。さて、じゃあ始めるわよ」

 そこにいたのはアリエルさんだ。そう、俺は魔法を教わろうとしているのだ。

 この世界は魔法が扱えないとお話にならないらしいので、帰り道にアリエルさんに頼んで教えてもらうことにしたのだ。ミラは勉強があるそうで、悔しそうではあったが参加は見送りだ。

「魔法の基本知識は覚えているわよね?」

 おっとりとアリエルさんがそう問いかけてくる。

「はい、大体は」

 俺はそう答えながら昨日の夜に興味本位で読んだ本の内容を思い出す。

 魔法には火、水、風、地の四つの属性があり、それらに属さないごく少数の魔法は基本魔法と呼ばれる。基本魔法以外の属性には適性があり、その適性がなければその属性の魔法は使えないのだ。

 魔法を操るには、魔力、イメージ、意志、魔力操作技術が必要となる。魔法とは、簡単に言うと『イメージを現実にする』ものなのだ。よって、イメージは絶対に必要だ。また、使おうと言う意思がなければ当然使えないし、魔法を使うためのエネルギーともいえる魔力が足りないと使用できない。また、魔力の操作が起こしたいイメージに見合うほどのことが出来なければ、魔法は不発となる。

 また、魔力は体内のものを使い、これが切れた場合は生死の境を彷徨うらしい。

 さすが、物理法則を無視するだけあってシビアだ。四つも条件があるのか。でも、この条件をクリアすれば夢の魔法が使えるのだから、頑張ってみよう。異世界に飛ばされる、ということは異常な事だ。同じように魔法は異常(日本人基準)なことだ。もしかしたら、あれには魔法が絡んでいるかもしれないから、勉強をしておいても損はあるまい。

「じゃあ、まずはタクト君の適性を測ってみようかしら。ちょっとこの透明な球を手で包んでくれる?」

 そう言って、アリエルさんは部屋の隅で台の上に置かれている水晶玉のようなものを指し示す。

「あれに触って、そこから放たれる光の色によって適正属性を測るの。赤は火、青は水、緑は風、黄色は地属性になるわよ。うふふ、タクト君はどれかしらね?」

 アリエルさんは楽しそうに笑ってそう言った。かくいう俺はというと緊張気味だ。これで自分の才能の一端が測れるのだと思うと、緊張もするよなぁ。

「…………」

 透明な球を手で包む。すると、

「……へ?」

「……え?」

 透明な球は『黒く』光った。俺とアリエルさんの口からマヌケな声が漏れるが、そんなの知ったこっちゃない。そうなるだけの理由がある。俺は黒く光るだなんて聞いていないぞ? しかもアリエルさんまで驚いた表情をしているからな。これはつまり、アリエルさんにも分からない、ということだろう。

「えっと……念のために聞きますが、アリエルさんには理由がわかりますか?」

「いえ、全然」

 俺がおずおずと聞いてみると、アリエルさんは即答した。

「ちょっと、自分はお父さんに聞いてくるわね。しばらく、そこにある本とか読んでていいわよ」

 アリエルさんはそう言い残して、部屋から駆けて出て行った。


                 ■


「どういうことだね!? タクト君!?」

「俺、だって、知りま、せんよ!」

 数分後、魔法訓練室には胸倉をつかんで揺さぶるウェールズさんと揺さぶられる俺、という珍妙な光景が繰り広げられた。あ、やばい、この人かなり力が強いぞ……そろそろ吐きそう……。

「お父さん! そろそろやめてあげないとタクト君が……」

「ん? お、おおう、すまん……」

「うげっ……はぁ、はぁ……ふぅ」

 アリエルさんがウェールズさんを宥めてくれたおかげで、俺は何とか呼吸を整えられた。危なかった……。

「黒い光、黒い光だと……? 複数の色が混じって光った時の見間違いじゃないのか?」

 ウェールズさんはぶつぶつと呟いている。ちなみに、複数の色が混ざって光った時は、その混ざった色が示す属性全てに適性がある、ということになる。光の混ざり方として、複数の光が出た結果混ざるのではなく、最初から混ざった色で出るらしい。例えば、地と風に適性があれば緑と黄色で黄緑となる。理論上、四つの適性があれば白になるのかな? その考えで行くと、黒は『適正なし』となる。いや、それは勘弁してほしいな。

「と、とりあえず、タクト君、もう一度やってみせてくれ」

 ウェールズさんはさきほどの透明な球を指し示しながら俺にそう言った。嘘を見破る能力があるなら信じてくれてもいいのに、とは思ったが、勘違いと嘘は違うということに気付いたので素直にまた透明な球に手を置く。すると、また先ほどと同じように黒い光が放たれた。

「……信じたくないぞ。私は信じたくないぞ。正真正銘の『特異魔法使い(パティキュラー)』が目の前にいるだなんて……」

 ウェールズさんが首を振って呟く。その呟きに、アリエルさんが目を見開いて驚く。

「そんな、特異魔法使いなの? タクト君は特異魔法使いだというの?」

 そして、ウェールズさんに詰め寄って問いかける。

「あの、特異魔法使いってなんですか?」

 二人の反応につい不安になってしまい、横から問いかける。

「特異魔法使いとは、英雄譚、神話……数々の物語に登場する、類を見ない強力な魔法を扱う者のことだ。基本魔法にも、四属性にも当てはまらない魔法を使い、そのどれもが強力だ。物語の中の人物がそうであることが多いが、それは実際にいるんだ。百年に一人と言われており、実際に私が知っているのは先代騎士団長だ。彼も特異魔法使いだった。今は老衰でお亡くなりになったがな」

 ウェールズさんは興奮したような顔をしながら俺に説明してくれた。

「特異魔法使いは、適性を測る際に黒い光を放つ。特異な、どれにも当てはまらない魔法を使える代わりに四属性魔法が使えないのが欠点だな。さらに、黒い光を放つだけでどんな魔法が使えるかは分からないから、それを探すのにも苦労する。ちなみに先代騎士団長は植物を操る能力だったな」

 その説明を聞いた俺はげんなりする。つまり、ゲームの勇者や主人公みたいに凄い魔法を使えるけど、基本魔法以外の普通の魔法は使えないし、特異魔法もどんなのが使えるか分からないから苦労もする、と。微妙だなぁ……凄い微妙だなぁ……。

「タクト君、アリエル。これは、国家機密に相当するレベルの出来事だ。これうちの家族以外には知られないようにしよう。下手をすれば色々なところからの勧誘、脅迫、暗殺が懸念される。研究の材料にされて一生を実験体として過ごす羽目になるかもしれん」

 ウェールズさんは深刻な表情でそう俺たちに、低い声で話した。俺とアリエルさんは固唾をのんでそれを聞き、頷く。

 マジか。そんなにヤバい能力なのか。特異な魔法を使える、とかいうのはカッコいいからいいけど、実用的じゃなかったり、周りにばれて厄介なことになったらどうしよう。

「とりあえず、今日は夕食までタクト君の能力を探ろう。タクト君、何か心当たりはあるかね?」

 ウェールズさんは一転、好奇心が抑えられない、と言った顔で俺に詰め寄ってそう質問してくる。目が子供のようにキラキラしている。なんだこの人、切り替え速すぎだろ。

 アリエルさんはそんなウェールズさんを冷たい目で見ているが、一方で好奇心はぬぐえなさそうだ。

「ん~、心当たりですか……。俺の特異な部分……」

 異世界から来たこと? いかん、そんなこと話してたまるか。……あ、あれか。

「精霊、一体でいいからこの人たちに見えるようになれるか? あ、俺にもな」

 俺が虚空に向かって呟くと、いきなり青色の光の球が空中に現れた。それを見たアリエルさんとウェールズさんが素っ頓狂な声を上げる。

「俺って精霊とコミュニケーションが取れるみたいです」

 俺は優しく精霊を手で包んで引き寄せながら二人にそう言った。

「……なるほど、精霊か。となると、どんなことが出来るかな?」

 ウェールズさんの目の中の光が凄まじいことになっている。まるで少女漫画みたいだ。好奇心旺盛な人の様だな。

「す、凄い! 精霊が生で見られるなんて!」

 アリエルさんは子供のように跳ねながら感激している。それに伴って大きな胸が揺れるのが目に毒だが、それは、今は関係ない

「精霊の色って属性と共通しているんですかね? 精霊、ちょっと属性別に一体ずつ出てきてもらっていい?」

 俺は疑問を呟いてから精霊たちにお願いする。すると、赤、青、緑、黄色の光の球が現れる。

「ふむ! 精霊の光の色はあの適性の光の色と同じなのか!」

 ウェールズさんが懐から取り出した紙に、一心不乱にメモを取っている。

「タクト君。もしかしたら、精霊にお願いしたら、四属性魔法に近いことが出来るかもしれないわよ」

 アリエルさんが俺に提案してきた。

「あー、じゃあ土の精霊にお願い。あの的に岩を当てて」

 俺はそう言いながら十mほど先にある的を指さす。頭にイメージしたのは岩が的に当たる光景。すると、

 ドッカーン!

 的は空中に突如現れた大きな三つの岩によって砕け散った。

「……精霊は人間では遠く及ばないほどの魔法と魔力に関する知恵と力を持っている、か……」

 今の結果からして、俺がしっかり威力に関してイメージしないと、毎回威力がバラバラになりそうだ。

「……となると、いつ、どれを、どれが、どれくらい、ていうのを毎回正確に把握しなければならないのか」

 普通の魔法だったら自分のイメージ通りに直接自分でやるからいいが、俺の場合は精霊に伝えて『やってもらう』ことになる。そうなると、やはり正確に情報を伝えなければならないな。

「うーん、伝言ゲームみたいになりそうね」

 アリエルさんが俺の考えを聞いて(うっかり声に出ていたようだ)そう呟く。

「お願い、やって貰う、指示をする、かぁ……あ!」

「ん? 何か思いついたかしら?」

「ほうほう、何か案がありそうだね?」

 御あつらえ向きのがあることに気付いた。俺のその様子に気づいたのか、二人が問いかけてくる。

「これは俺の本業と言っても過言じゃないな」

 俺はその問いかけには答えずに呟いた。

以降、特異魔法使い、という単語が出てきたら脳内でパティキュラーと変換してください。本来の意味とは違いますがね。

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