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第十二楽章

間章的な話です。

(……情けない。なんて情けないの)

 私は、お兄ちゃんとアルバートを置いて、先に逃がした二人を追いかけていた。あの二人は怪我をしているから、早く私が行かないと間に合わない。けれど、私は別の事を考えてしまっていた。

(……お兄ちゃん、大丈夫かな)

 私はお兄ちゃんの事を、後輩だと思っていた。冒険者としても、魔法使いとしても、確かに私の方が先輩だ。だけど、結局はこうして守って貰っている。あまりにも、情けない。

 もう、お兄ちゃんの方が強いのは分かっている。ランクの上では私の方が上だけど、実際の強さはお兄ちゃんの方が上。お兄ちゃんは、「自分じゃなくて精霊のおかげ」、とは言っているけど、それは違う。確かに、お兄ちゃんの魔法は精霊さん頼り。だけど、たった一カ月であそこまで成長するのは、紛れも無くお兄ちゃんの凄さなんだ。お兄ちゃんは、「訓練が厳しいから強くもなる」、と愚痴っていたけど、あれほどの訓練を一か月やっても大体の人はあそこまで強くなれない。それに、まずあの訓練についていける人はそうそういない。お姉ちゃんですらついていけなかったのに。

(……お兄ちゃんは、本当にすごい)

 精霊さんに好かれて、ピアノも上手で、歌も上手で、優しくて、強くて、努力家で。そんなお兄ちゃんは……格好いい。

「……あ、見つけた」

 息が切れてきたころ、ようやくあの二人の姿が見えた。どうやら、ハウンドドッグに囲まれているみたい。今の怪我をしている状態じゃあ、歩くのは大丈夫でも、戦うのはムリだと思う。

「……邪魔」

 私は杖を一振りして、魔法を発動する。すると、そのハウンドドッグたちは、地面から生えてきた土で出来た鋭い針に貫かれ、絶命した。一匹につき一本。その全ては的確に心臓を貫いている。

 私は土属性の適性を持っている。他にも火属性も使えるけど、あまり得意ではない。

「……大じょ……え?」

「あ、ああ、済まなかったな。大丈夫……え?」

「あ、あなたが助けてくれたのね! ありが……あっ!」

 お互いに、冷静になって顔を合わせて、知り合いだと分かった。

「アリエルさんとこのミラちゃんじゃないか! 久しぶりだな!」

「また大きくなっちゃって! お姉さん嬉しいよ!」

 まさか、この前家を出た、お姉ちゃんが拾ってきた人たちだったなんて。暑苦しい人と騒がしい人。よく覚えている。あまり好きなタイプではないけれど、不思議と嫌いにならなかった人たち。

 金髪碧眼の人はアッシュ、銀髪黒眼の人はルミナスっていう名前だった気がする。

「いやはや、また領主様ん所のお嬢様に助けられちまったか」

「……とりあえず、山から出よう」

「あ、そうだったな! よし、じゃあ降りるか」

「よしよし、このままいけば降りれる……きゃあっ!」

 ルミナスが、いきなり悲鳴を上げた。私とアッシュはルミナスに何事かと振り返る。ルミナスは、震える手で、ある方向を指さした。その方向にいたのは、

「嘘……だろ……?」

「……二匹目?」

 肌色の筋肉が盛り上がった大きな体、赤色の鋭い目、獰猛な牙……紛れもなく、オーガだった。

「ガアアアッ!」

 オーガは筋肉を隆起させ、咆えた。

 どうする、どうする? 逃げるのは二人が怪我しているから無理、戦うのは実力差的に無理、時間稼ぎでお兄ちゃんたちを待つのも望みは薄い。私だけ逃げる、という選択肢はあり得ない。

「……お兄ちゃん、信じてるよ」

 私は、そう呟いて、オーガと二人の間に立つ。取る選択肢は、時間稼ぎ。望みは薄いけれど、逆に言えばこれしか望みがない。二人は怪我をしているからとても戦えない。ならば、私がこの場をしのぐしかない。

「お、お嬢様……?」

「み、ミラちゃん?」

 後ろの二人が不思議そうに見上げているのが良く想像できる声で呟く。

「……ここは私が引き受ける。二人はなるべく遠くへ逃げて」

 私は、領主の娘だ。死んだだけで大騒ぎになる程度には立場が高い。けれど、

「……貴族である以上、一般人を守るのも務め」

 私はそう呟いて、オーガの足元から土の針を生やす。しかし、オーガの硬い体に当たったら傷もつけれずに折れてしまった。オーガは、私の攻撃なんか気にもせず、こちらに向かってくる。

 私はさらに杖を振り、オーガが踏み出した先に一mほどの穴を作る。オーガは見事に嵌り、その歩みを止めた。私はその隙に、その穴を埋めるように大量の土をかぶせる。オーガの足は地中に埋まり、抜き出すのが困難になった。

「……今」

 私は身動きが取れないオーガの目を狙って、大量の土の針を出す。目ならば、筋肉に覆われていないから弱点になりえる。しかし、オーガはその太い右腕を目の前に持ってきてカバーした。しかし、脚をあそこまで深く埋められた以上、そうそう出てこられるわけがない。

「……いける?」

 私はそう思って、さらに土の針を出そうとする。その時、

「グオオオオオッ!」

 オーガが咆えた。そして、その筋肉は今まで見たことも無いぐらいに膨れ上がっている。そして、

「う……そ……」

 地面が盛り上がり、その中からオーガの太い脚が姿を現した。上には大量の土が被せられていた。並の力なら抜け出せるはずじゃない。

 いや、これは私の油断。オーガは並の力で考えられる相手ではない。Cランクの中でも特に力が強いオーガは、パワーだけならBランクにも匹敵する。

「グルァアアアッ!」

 怒り狂ったオーガが一瞬で距離を詰めてきて、私の頭上に金棒を振り上げる。オーガは私に覆いかぶさる形になり、その影を私に落とす。そして、その影の中で光る、金色の目に映るのは、紛れも無く殺意。

「え……あ……」

 私は、それに圧され、恐怖で何もできなかった。勝手に流れる涙で視界が歪み、私の身体は崩れ落ちる。

「助けて……」

 私の口から、そんな言葉が自然に漏れた。金棒は、ついに振り下ろされる。

「お兄ちゃんっ……!」

 その瞬間、


 私とオーガの間に突風が巻き起こった。


 その突風には緑色の光の球……風の精霊さんが沢山いた。

 そして何よりも、その突風と共に私とオーガの間に立った男の人の姿。オーガの振り下ろしを、『生身で』受けているように見える。

 その男の人は……


「遅くなって済まなかったな、ミラ」


 優しい顔をしたお兄ちゃんだった。

あかん、メインで進めているはずのラプソディーのポイント抜いてもうた。

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