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第十一楽章

ここから、一応第二部です。

それと、一日に一話投稿のつもりでしたが、休日でテンションが高いため二話更新します。

 あの日から一か月、俺はミラと執事に連れられて街中のとある場所に来ていた。

 そこは、ファンタジーの定番である『冒険者ギルド』だ。そう、冒険者ギルドなのだ! 様々な人で溢れかえり、若干酒臭くも情緒ある木目が見える内装は心をくすぐられるものがある。

 この世界には、冒険者という職業があり、素材の採集や魔物の討伐を主に行っている。ギルドでクエストを斡旋して貰い、それをクリアして報酬を受け取るのだ。

 ギルドは国営組織ではなく、複数の国にまたがって広く勢力を広げている。だが、普通に国や領主と手を取り合って協力したりもするらしい。町や村につき、支部ギルドは必ず一つあり、そのギルドを纏めるのが支部ギルドマスターだ。さらにそれを纏めるのがギルドマスターとなる。

 当然と言うべきか、冒険者にもランクがある。最下級はFで、そこから順にE、Dと上がっていく。Aより上にAA、S、SSランクがあり、B以上は才能も絡んでくるレベルになるとか。

 ちなみに、ウェールズさんはAランク、ヒーラさんはBランク、あの屋敷に努めている使用人たちもC~Bランクに値するそうだ。また、ミラはこの歳にして一人前と呼ばれるDランクだそうだ。……あの屋敷は魔界だったようだ。

 唯一、アリエルさんは戦闘に関わっていないが、それは本人いわく才能がないかららしい。ただ、この前少し見せて貰ったアリエルさんとメイドの一人との余興的な模擬戦は大迫力だった。アリエルさんは槍を目にもとまらぬ速度で操っていたのだ。あのおっとり笑顔で。ウェールズさんが「あれで戦闘に関わらないのはもったいない」とため息を吐いていた。

 職業は軽戦士、重戦士、業師わざし、魔法使い、弓使いの五つだ。軽戦士は普通の戦士、重戦士は重装備で前線を支える戦士、業師は隠密性と技術と速さに特化した戦士、魔法使いは魔法専門、弓使いはそのまま弓を使う。業師、というのは日本のファンタジー世界でもあまり聞かない名前だが、簡単に言うと、日本では主に盗賊やシーフと呼ばれる仕事をしている。フィクションの世界では盗賊、という名前で許されるが、実際にそう呼んだら失礼だもんな。

 マーニエル家のメンバーで言うと、ミラは魔法使い、ウェールズさんは戦士、ヒーラさんは弓使いとなる。今一緒に来ている執事は軽戦士だそうな。

 ちなみに、使用人たちにも俺が特異魔法使い(パティキュラー)であることを教えていない。普通の魔法使い見習いとして通っている。

「すみません、登録お願いします」

「はい、ではこちらにお名前を」

 俺は窓口に行って受付嬢にお願いをし、登録用紙を受け取る。記入する内容は名前、年齢、性別、職業だけだ。名前はタクトとだけ書き、年齢は十五歳、職業は魔法使いと書く。性別は当然男。

 冒険者ギルドの登録に年齢制限はない。極論を言ってしまえば生まれてすぐに登録するのもありだ。危険な仕事だから年齢制限は設けそうなものだが、この登録した後にもらえるギルドカードは強力な身分証明書になるらしい。偽名を使っての複数登録や騙りなどを防止のために、ギルドカードには本人の魔力が付与される。この情報はギルドで管理されているため、同じ人間が複数登録するのを防いでおり、カード自体も本人が持たなければ内容が浮かび上がってこないそうだ。便利で、それなりによく出来たシステムだろうと思う。

 登録用紙を渡し、渡されたカードに、同じく渡された針を使って血を垂らす。すると、血はカードに染み込むようにして消え、カードがほんの少し発光する。血の跡も何もないまっさらな白いカードだ。

 俺がそれを手に取ってみると、タクト、Fランク、十五歳、男、魔法使い、犯罪なしと表示される。

「無事登録されたようですね。これにて登録過程は終了です」

 受付嬢はそう言って俺に営業スマイルを浮かべてきた。

「登録終わりましたよー」

 俺はミラと執事の元に歩いていき、ギルドカードを懐にしまう。

 さて、俺がなぜ冒険者に登録したのか。その理由は色々ある。

 まずは身分証明書が欲しかったこと。次に、冒険者が、俺のこの世界でやる仕事の候補の一つということ。最後に、これは周りには教えていないが、冒険者という名前の通り、旅をするには何かと便利な職業だ。俺はこの世界を旅して、日本に帰る方法を探し回るつもりなのだ。

「……それじゃあ、簡単なクエストを一つ受けてみる?」

 ミラは、きれいなオッドアイで俺を見上げて問いかけてくる。

「そうだな。折角だから受けてみたいな」

 俺は改めてファンタジーな世界に胸をときめかせながらそう言った。

「……なら、ハウンドドッグの討伐がおすすめ」

 ミラはそう言って、クエスト用紙が沢山貼ってある掲示板から、頑張ってジャンプして一枚のクエスト用紙を持ってきた。初心者向けのクエストで、ハウンドドッグという、野犬がちょっと賢くなって強くなったような魔物の討伐が仕事だ。一応哺乳類の癖に、異常に繁殖力が高く、数週間放っておくだけで山の中全部がハウンドドッグで溢れかえるレベルらしい。

 ちなみに、魔物にも冒険者同様にランク付けがされている。例えばDランクの魔物だったら、Dランク冒険者が二人いて五分五分、という決め方となる。ただ、最低ランクのFと常識はずれのAA以上は、そのあたりは適当らしい。前者は弱すぎて、後者は強すぎてランク分けが難しいのだ。

 俺は、この一か月間でミラやヒーラさん執事やメイドから徹底的に冒険者としての知識と戦闘技能を叩きこまれた。あの魔界でのスパルタは相当きつかったが、それでも充実していた。勉強や訓練で疲れた夜には、部屋に遊びに来たミラと精霊が戯れているところを見て心を癒したのだ。ミラの笑顔、マジ天使。

 というのも、あれから毎晩、ミラが俺の部屋に遊びに来るようになった。精霊も交えて遊んだり、一緒に歌ってみたり、チェスで惨敗したりと楽しい時間を過ごしている。

「ハウンドドッグでございますか。確かに、はじめてにはちょうどいいでしょうな。馬車で一時間ほどのところに山がありますので、そこで狩りましょう」

 執事さんが俺たちの会話を受けてそう説明してくれた。彼はCランクの戦士で、武器は槍を使う。アリエルさんの師匠らしい。俺の付添兼アドバイサー兼保護者としてミラがついてくることになったので、領主の娘であるミラを護る為にこうしてついてきてくれた。

 ちなみに、今の説明から分かる通り、俺『の』保護者がミラなのだ。小学生ぐらいの女の子が保護者というのも情けない話だが、俺は新人、ミラは一人前と呼ばれるDランク。こうなるのも納得できる話だ。

 俺はそんな事を考えながらそのクエスト用紙を受付に持って行って受注する。

「……じゃあ、出発」

 ミラがそれを見て、若干嬉しそうな顔で入り口を示した。


                 ■


「……ハウンドドッグの習性は?」

「三~七匹の群れで行動するけど、ちょいちょいはぐれる個体がいる」

「……ハウンドドッグの有名な対処法は?」

「まっすぐにしか早く行動できないから障害物を使って翻弄」

「……ではこの山で注意する点は?」

「ハウンドドッグと同じFランクのゴブリンが仕掛けた罠。稚拙ではあるけど初心者は意外と引っかかる」

「……全問正解」

 俺たちは目的地に着いた。ミラからクイズ形式での復習を受けながら木々の中を進んでいく。ここ一カ月で体力が大分ついたから、こんな悪路もへっちゃらだ。

「ガウウッ!」

「グルォッ!」

「ググッ!」

 しばらく散策していると、三匹のハウンドドッグが出てきた。

 俺は軽く腕を振る。すると、ハウンドドッグ達は風によってできた不可視の刃で体を斬り裂かれ、一瞬で絶命した。俺の右手には『細長い棒』が軽く握られている。

「……大分操作に慣れている。地獄特訓もそうだけど、才能もある」

 ミラは俺の初実戦をそう評価した。

「褒めてくれてありがと」

 俺はそう言いながら腰につけているポーチから水筒を取り出して水を飲む。

「……それを杖に使うのは初めて見た」

 ミラはそう言いながら、俺が持っている棒を指す。

「人……ではないけど、相手に指示をすると言ったら、俺にとってはこれなんだよな」

 俺が持っているのは『指揮棒』だ。指揮で指示をするなら、やっぱりこれだよな。これを使い始めてから、不思議と精霊とのコミュニケーションが上手くいっているし、指示の通りも早い。

 ちなみに、魔法使いは杖を使って魔法を使うのが基本だ。大体の人は、木製で一mほどの杖を使う。場合によっては魔物の素材から作ったりもするがな。

 それと、俺は風属性と水属性に適性がある、と誤魔化すことにした。だから、これからしばらくは風と水の精霊にしか指示を出さない。というのも、特異魔法使い(パティキュラー)では目立つし、四属性適性あり、というのも目立つからだ。幸い、この世界の魔法は名前を唱えるとか、専用の魔方陣を使うとかそういった工程はないため、普通に誤魔化せる。

 俺たちはまたハウンドドッグを探しながら歩き回る。今回はハウンドドッグのどこどこが欲しい、というわけではなく、討伐をするクエストだ。討伐数がギルドカードに自動で表示される便利システムがあるので、討伐証明部位を取ってくるとか面倒な真似はしなくてもよい。

「……この分なら、すぐにDランクになれそう」

 ミラは、俺が新たに表れた五匹のハウンドドッグを風の刃で斬り裂いたのを見てそう呟いた。

「そりゃあ散々訓練したからなぁ」

 精霊とのコミュニケーションに始まり、体術、知識、コントロール……一か月の中で大分詰め込まれた。昨日なんかは、Cランクの魔法使いであるメイドさんとの模擬戦で勝った。そのくらい成長したのだ。

 俺はそんなことを思い出しながら軽く腕を振り、その方向にいたハウンドドッグを水の刃で斬り裂いた。


                 ■


「うわあああっ!」

「きゃあああっ!」

 三十匹目のハウンドドッグを討伐した直後、バキバキバキッ! という轟音と共に男女に悲鳴が聞こえた。

「……行こう」

「場合によってはわたくしが出ます」

「放っとけないよな」

 俺たちはその音がした方向に走っていく。

「くそっ! なんでこんなところにこいつが!?」

「知らないわよ! もう、不幸だわ!」

「ガアアアッ!」

 何か危険が迫っているであろう男女の声に続いて、ガラガラ声の勇ましい雄叫びが聞こえる。

「オーガだと!?」

「……そんな。こんなところにオーガが出るなんて」

「Cランク、ですか……」

 その鳴き声から、俺たちはその魔物の正体を知った。

 Cランク冒険者二人と互角に戦えると評価される、オーガという魔物だ。灰色の肌をした三mほどの鬼で、手に持っている金棒を筋力で振り回すのが主な攻撃となっている。身体は固い筋肉の鎧で覆われているため、生半可な攻撃は通用しない。意外と知能もあり、待ち伏せや罠を仕掛けることもあるとか。

「……まずい。アルバートはCランクでも、私はDだしお兄ちゃんはF」

「襲われている方たちはどちらもDランク、と言ったところでしょうな」

「これは牽制からの逃げ、だな」

 二人からもたらされた情報を聞いて、俺はこの後の行動を決めた。二人も異存は無いようだ。ちなみに、アルバートとはこの執事の名前だろう。なるほど、アルバートさんって言うんだな。

 襲われていたのは、俺と同い年ぐらいの金髪碧眼の少年と、十三、四歳ぐらいの銀髪ショートの少女。男は軽戦士、女の子は業師と言ったところかな。

「大丈夫ですか!?」

 俺は、風の刃と水の弾丸を使ってオーガを牽制しながら襲われていた二人に声をかける。二人とも怪我を負っているようだ。軽戦士の方は額から血が流れている。

「すまない! 逃げるのを手伝ってくれないか?」

「ありがとう! 名も分からない冒険者さん!」

 軽戦士の方は俺にそう提案してきて、業師の方は助けに入った俺たちにお礼を言った。

「では、わたくしとタクト様は殿を務めましょう。ミラお嬢様とお二方はお逃げください」

「……新人のお兄ちゃんにオーガ相手の殿しんがりをやらせるの?」

 アルバートさんの提案に、ミラが怒気を込めてそう問いかけた。

「さすがにオーガ相手に一人はきついだろうから、俺が入るんだよ」

「前線でわたくしが一手に攻撃を引き受けますので、タクト様は援護をお願いします」

「分かりました。ほら、ミラ。俺の事はアルバートさんが守ってくれるから」

 俺はミラをそう説得して、二人と共に先に行かせた。援護の役目なら私が、と言いたそうな目だったが、自分は領主の娘である、ということを思い出して悔しそうに唇を噛んで二人の後を追っていった。

「申し訳ございません。命に格差をつけるような真似はしたくはなかったのですが、ミラ様をお守りするのがわたくしの仕事なので」

「大丈夫ですよ。俺にとってもミラは大切です。ウェールズさんに比べたらあんな筋肉バカは怖くありません」

 アルバートさんの申し訳なさそうな声に、俺は強がりで返した。実際は滅茶苦茶怖いが、そうも言ってられないのだ。というのも、そろそろ集中力が切れそうだ。さっきまでは俺がひたすら魔法で牽制をしていたが、そろそろそれも限界だ。魔法の連続使用は結構疲れるのだ。

「一旦牽制を止めます。ちょっと休みたいので前線お願いします」

「承知いたしました」

 俺がそう言って腕を振るのを止めた瞬間、アルバートさんは槍を構えて猛然とオーガに向かった。オーガの大きな体からは想像が出来ないほどの速い金棒の振り下ろしを、アルバートさんはひらりと避けて脛を槍で刺す。その後も、アルバートさんはオーガの攻撃をかわし続けるが、反撃は効いていないし、躱すのも毎回紙一重だ。

「それ!」

 俺は腕を振って風の精霊に指示を出す。空気の弾丸が三つ、オーガの目に向かって襲い掛かる。

「ガッ!」

 オーガはそれを、まるで見えているかのように避け、さらにアルバートさんに蹴りを加える。

「ぐっ!」

 アルバートさんはその勢いで飛ばされ、その後ろにあった木に激突する。オーガは、それで動きが止まったアルバートさんに容赦なく追撃を加えようとする。

「させない!」

 俺はその進路を阻むように風の刃を放ち、さらにオーガの足元を水浸しにして歩きにくくする。

「ガアアアッ!」

 それに怒ったオーガは、俺に目標を変更した。しかし、それは悪手。

「ありがとうございます、タクト様」

 復活したアルバートさんが即座にオーガの脇腹に槍を刺す。よしよし、初めて有効な傷を負わすことが出来たぞ! 

「アルバートさん! 俺が合図したら離れてください!」

「承知いたしました」

 俺はアルバートさんにそう言って、後方支援しながら動きをじっくり見る。オーガはアルバートさんに集中してはいるものの、俺の攻撃もしっかり視界にとらえている。油断できない奴だな。しかし、これでも必ずタイミング……そう、『リズム』って奴はあるんだよな。

 アルバートさんがオーガの攻撃を必死で躱しながらくるくるオーガの周りを回っている。それに伴い、オーガはアルバートさんを追って、視点を移動させる。そしてついに、

「アルバートさん、離れて!」

 俺は大きく腕を振りながらアルバートさんにそう言った。アルバートさんは素早いバックステップでオーガから離れる。その直後、

「ガアアアアアッ!」

 オーガが全身から血を噴き出しながら悲鳴を上げた! よく見ると、オーガの全身は風の刃による竜巻で埋もれているのがわかる。周りの木々を切り裂きながら、刃の竜巻はオーガを斬り刻む! そして、

「ガアアァァァ……」

 オーガは尻すぼみの断末魔を上げながら、地面にドォ、と低い音をたてながら倒れた。ピクリとも動かないオーガは、絶命しているだろう。

「お見事です、タクト様。そのような威力で使えるとは知りませんでした」

 アルバートさんが、応急処置を自分に施しながら平然と戻ってきたながらそう言った。

「的相手の訓練ではやっていたんですけどね。模擬戦でやっちゃうと相手が死んじゃいますから」

 俺はそう言ってオーガの身体を解体し始める。いくつか有用な素材があるから取っておきたいのだ。

 今まで使っていたのは、音楽記号で例えるとまだ『ピアノ』や『メゾピアノ』ぐらいでしかない。この一カ月で、俺は精霊とのコミュニケーションが上手くなり、かなりの威力が出せるようになった。今のは結構本気を出したので『フォルテ』ぐらいだろうか。

「では、お嬢様方を追いかけましょう」

「そうですね」

 俺たちはそんな会話を交わして、ミラ達が逃げていった方向に駆けだした。

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